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アニマルインターペーター

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私は、少し錆びて開きにくくなったスチールロッカーを開けて、教科書を取り出そうとしていた。

「次、人間学?」

「あーうん」

肩から声を掛けられ、友人への返事は空返事になった。次の授業を聞いた友人は、人間学の講義室へと入っていった。私も友人に続き、講義室へと入った。

この時間の講義は、人間学の人間心理論だ。
一概に人間学といっても、様々な分野がある。
数えだしたらキリがない程で、軽く例を挙げると、人間行動論、人間身体学、人間社会学、人間歴史学、この人間心理論などがある。

私はもう大学4年生で、ほとんどの講義を履修し、単位を取ってきたので、人間学ももう人間心理学を残すのみだった。

そして、大学生活はあっという間に終わりを告げた。
いつの間にか、私は大学卒業をしていて、新社会人として迎える春になっていた。

私の大学での研究は、人間と動物の関係、環境問題、そして人間と共存するにはどうすればいいかという題材であり、大学を卒業して、それに関連した仕事に就きたいと考えていた。そうすると自ずと仕事は限られてくる。そのような福祉団体で働くか、メディアとしてそれを伝えるかである。

その二択を迫られ、私はどちらにするか考えていた。この世界では、人間世界での情報はテレビでしか入ってこない。私自身も、講義で習ったことやテレビで見たことしか人間についてや人間と動物の関係については知りえなかった。だから私は、より生の現場を見たい。そして人間の世界を見て、メディアとして伝えていきたいと思うようになった。マスコミの取材、俗に言うリポーターの仕事を志望し、私はそこに就職することが決まった。

もちろん恐れもあった。
テレビで流れてくる人間のニュースは、悪いものばかりだったからだ。
環境破壊のニュース、絶滅危惧種の絶滅のニュース、動物虐待のニュースは、連日報道されていた。リポーターになるということは、このニュースを伝えるために、現地へと向かわなければならない。そのような事をしている人間達に会うのは怖かった。でも私は、恐れの感情以上に、怒りや悲しみの感情が大きかった。私は、人間世界で起きていることが許せなかったのである。この世界に住む誰よりも、人一倍その想いが強固であると確信していた。だから私は、レポーターとしてその事実を自分の目で確かめるだけでなく、それを変えたかったのだ。

こうして、私は、人間世界へと足を踏み入れた。


  2

「おまえみたいな半端者、気持ち悪いんだよ。どっかいけよ犬人間」


数十年前、私の父が小学校の頃に同級生の人間に言われた言葉である。父は私がまだ幼い頃に、童話のように自分の実体験を話した。私はその話を聞きながら、子供ながらに、父がその時一生消えない傷を抱えたのだろうと思った。
私の両親は人間を畏れていた。人間は怖い生き物だと考え、私にそれを教えた。だから、私が人間世界へ行くことは猛反対した。両親の想いだけでなく、この世界ができた歴史を考えても、当然の事だったかもしれない。
私たちが、人間世界から隔絶され、この世界ができてから何十年も経ち、本当の共存を求める声は多くあがっているが、実現には至っていない。その背景には、人間世界へ行こうとする者たちが少ないこと、そして人間世界に私たちはほとんど居ないことだった。畏れるべき人間がいる人間世界へ行くことは、とても危険であるということが、私たちの世界での一般常識だったのだ。

両親の反対、この世界での常識、それを覆してでも、自分の目で、動物と人間の関係を確かめること、そして、悪い関係であればそれを変えるという夢のために私は前へ進むことを決めていた。真の意味での共存の実現を私の手でさせたかった。それに近ずく一歩として、私は、取材会社へ想いを伝え、動物園の取材をさせてもらうこととなっていた。


この世界を旅立つ日になり、私は、飛行機というものに初めて乗った。この飛行機という乗り物で、私は人間世界へと向かうこととなっている。

キリンの店員さん(CAというらしい)が、私に話しかけてきた。

「初めての人間世界へのご旅行ですか?」

「旅行ではないんですが、初めてです」

「そうなんですね。初めては何事を緊張することも多いでしょうけど、慣れたら意外と大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」

微笑みながらそう言ってくれるキリンのCAさんに私はお礼を言った。彼女との会話で、旅行で人間世界に行くモノ好きもいるのだな、と思った。

最初は落ち着かなかった飛行機内もキリンのCAさんのおかげで緊張が解れてきて、私は目を閉じ、いつの間にか眠りについていた。起きた後は、外の景色を見たり、寝たりを繰り返して数時間飛行機に乗り、初めての飛行機体験は終わりを迎えた。私は人間世界の空港へと着いていた。
CAさんが笑顔で手を振りながら、お見送りしてくれていて、私も手を振り返し、飛行機を後にした。

空港には沢山の人がいた。私の人生で、生の人間見たのは初めてだったので、とても驚いた。人々は、忙しなく動き、喋り、私は少しの間、その光景を目を丸くして見ていた。私は、色々な手続きを終えたあと、人目を気にしながら、その人混みの中を割いて、空港にある時計台へと向かった。現地に住んでいるカメラマンのジョディとそこで待ち合わせをすることになっている。

時計台に着くと、まだそこにジョディの姿はなかった。
私は、そこで待つことにした。待っている時私は考え事をしていた。

私は、人のように喋れるし、人のように考えることが出来る。二足歩行であるし、表情だって豊かだ。それは人間とほぼ変わらないはずなのに、私の周りにいる人達と、私はやはり違う存在で、距離を感じてしまう。周りの人達が、私を異質なものとして、見ているのでは無いかとありもしない視線を感じてしまう。やはり私が動物と人間の両方であるからなのだろうか。

そう考え込んでいると、ジョディが現れていた。

ゴリラのカメラマン、ジョディは、とても勇ましい体型であり、とても優しそうな面持ちだった。

「やあ、君が、ケイティだね?僕がカメラマンのジョディだよ。これからよろしく頼むよ」

「よ、よろしくお願いします!」

「そんなに肩肘はらなくていいよ、気楽にね。まぁ、初めての人間世界だから緊張はあるかもしれないけど」

「は、はい」

ジョディはそう笑いながら言ってくれた。

「それはそうと、困ったことになっていてね」

「困ったことって?」

「来てそうそう、君にはすごく申し訳ないんだけど、泊まることになってた取材班の家なんだけど、出ていく人の取材が終わらなくて満員でね、、少しの間だけどこかのホテルで寝泊まりして欲しいんだ」

「ホテルですか、、えっとここの近くでありますか?」

「ここは都市部だからどこにでもあると思うよ。お金はもちろん出すから!これくらいでいいかな?」

と言って、ジョディは札束を何枚か私に手渡してきた。

「ありがとうございます」

私はそれを、財布の中に大事にしまった。

「本当に済まないね」

「いえいえ」

「動物園の取材の時になったら、連絡するから、携帯確認よろしく頼むよ!」

「はい。ではまた」

私はジョディと別れた後、まずは、泊まるホテルを見つけようと思い、探すことにした。人混みの中、空港内を歩く。人が多くてぶつかりそうになるほどだった。空港内に設置された周辺地図の柱まで来て、地図を見て、ホテルを探す。確かに沢山のホテルがあったので、どこにすればいいか迷ったが、お金もそれほど無さそうなので、駅近くの安そうなホテルに泊まることにした。

ホテルへ着いた時、私は財布を取り出そうとバックを開けた。しかし、バックの中身を覗いても、財布が見当たらない。
もしかして、盗まれた?
空港内ではあの人混みの中だった。いつ盗まれてもおかしくない。
そんな、、ジョディに貰ったお金を財布へしまっていたし、私が持っているお金は全てそこに閉まっていた。私は空港に戻って、心当たりのある場所を探したが、財布は見つからなかった。私は無一文となってしまった。泊まるところも、食べるものも買えない。ジョディに頼ろうか。そう考えた時に、いきなりポンポンと肩を叩かれた。

「あの、どうかしましたか?大丈夫ですか?」

振り返ると、そこには10代半ばに見える若い人間の男性が立っていた。手には大きな荷物を抱えていて、彼はそれを地面に落とした。

「あ、ええっと、、」

「困り事なら、なんでも言ってください。助けになりますよ?」

彼の目は真っ直ぐで、私を本気で心配しているようだった。口調も、声のトーンも、相手を本当に気遣っているものだと本能的に察知した。警戒する必要は無いと思った。

「財布を無くしてしまったんです、、なのでホテルに泊まれなくなってしまって。だから、、仕事の仲間にお金を借りようかと」

「ああ、、そうだったんですね、、それなら、、僕の家に来ませんか?」

困った私に待っていた彼の一言は予想外のものだった。

  3


「じゃ、乗ってください。助手席でも後部座席でも、好きな方で」

「はい」

「これ、僕の車なんですよ。かっこいいでしょ?」

「わからないです。車に乗るのも初めてなので」

「そうなんですか!、、、あっそういえば、僕達自己紹介もまだでしたね!」

「僕は、アデル。君は?」

「私はケイティ」

「よろしくね、ケイティ」

自己紹介を交わしながら、運転席の彼を見ると、慣れた手つきでエンジンをかけ、車を運転しようとよく分からないレバーやペダル、ハンドルを操作していた。
すると、彼は運転席の上に着いたミラーでこちらを覗き込んだ。

「よく見てるね、あ、もしかして僕のこと、まだ運転出来ない年齢だと思ってる?童顔だからよく言われるんだよねー、でももう18で、運転できる歳だから安心してね!」

「運転できない歳があるのね?」

「うんうん。あーそっか。そうなんだよねえ。車は18からじゃないと乗れないんだよ。あと免許ってモノも取らないとね。車はあれば便利だよー。どこへだって簡単に行けるしね」

彼は自慢気に何も知らない私に色々と教えてくれた。主に車の知識を。彼は車が好きなのか、スラスラと私の知らない単語を使いながら色々と話していた。理解は、恐らく少しはできた。

「私は、車に対して悪いイメージしか無いです」

私は、テレビのニュースで報道される車の事故などで、人や動物が死ぬのを知って、車には怖いイメージしか思い描いていなかった。便利さを取るために、事故などのリスクを省みず、死者を出す。人が勝手に使って人を殺めてしまうのならまだしも、動物たちは車を使えないのにも関わらず、そしてそれが何かも分からないままに引かれて死んでしまうことがある。それは理不尽で可哀想な事であり、動物たちの立場にたって考えれば恐ろしいことこの上ない。

「悪いイメージかぁ、、それはどうして?」

「だって、動物は、車なんてあっても何も得しないし、よく分からないもので、いきなり命を奪われる危険な物で、それに怯えながら生きていかなければならないじゃないですか」

「なるほど、動物の視点からしたら確かにそうかもしれないな、、」

彼は、深く頷きながらそう答えた。

「人間にとって当たり前のことが、動物にはとって当たり前じゃない。常識なんて勝手に人間が作った言葉なんですよ」

私は畳み掛けてそう言った。
そんな、私の表情を見て彼はなにかに気づいたように、落ち着いた表情から驚いた表情へと変わった。

「君の気持ちも知らないで、勝手に車のことをペラペラ講釈垂れてごめんね、聞くに耐えなかったよね」

「いえ、、、人間にとっての車がどんなものか知れてよかったです。結局はただの移動手段ってことですよね」

「うーん。それは少し違うかな」

「どういうことですか?」

「車は人の人生を支えていくものでもあるんだよ」

「人の人生を支えていくもの?」

「うん。今の時代、車を持ってるのが当たり前ってレベルでさ、車を家族のように愛着持ってる人もいて、車でいろんな所へ出かけていろんな思い出を作るんだ。そんな思い出の中に、車はいて、人の思い出も運ぶんだよね」

私は、車がリスクはあるが便利な物だという認識しか持ち合わせていなかった。しかし、それだけではなく、人の人生を支え、思い出を作るという重要な役割を担っているということも彼の話で知ることが出来た。私が動物視点で考え、怖く無慈悲で冷徹な物という認識だった車のイメージが変わるのだった。

彼の車は、いつの間にか山道へと入っていった。凸凹した荒い土壌の山道を走ると、そこに、一軒の大きな家と、牧場と、草原が広がっていた。

「さあ、到着するよー」

その一声とともに、また何かしらのレバーが引かれて、車は後ろへ動き出し、そして止まった。

「着いたよ、ここが僕の家」

彼の家は、とても大きくて、見上げるほどだった。二階建て、いや、三階建てくらいあってもおかしくないと思った。

「大きいですね、、」

「大きいけど、すごい古いんだよね。木造だから色んなところにガタがきててさ」

彼は、家の古くなっているところを指さしながらそう言った。

「そうなんですね」

「ささ、案内するから着いてきて」

「はい」

私は彼に案内されるまま、着いて行った。

「ここが牧場で、牛とか羊とか飼ってるし、あそこが飼育小屋、で、農作物とかをあの畑で育ててて、あの木造建築が倉庫だね」

「倉庫も大きいんですね」

「そうそう、何でもでかいから、家」

と笑いながら答える彼。初めて人間の家に入るということを前にして緊張してる私の心が少しほぐれた。

「緊張してる?大丈夫だよ。僕の家族は、みんな優しい人たちばかりだから」

彼はそう優しく微笑んでくれた。

「じゃあ、家に入るよ」

木の軋む音を立てながら、大きな木の玄関扉が開く。開いた先から暖かそうな光が視界の中に入ってきた。


  4

「あら、アデル。遅かったわね」

「ごめんごめん。ちょっと色々あって!」

家に入ると、ふくよかな女性が私たちを出迎えた。家の中は、暖かかった。レンガで作られた暖炉のおかげだろうと思った。アンティーク調で、家全体に落ち着く木のいい匂いがして、印象としてはどこか昔懐かしさを感じられる洋風な家だった。

「あらその子は?」

「紹介するね、名前はケイティ。さっき困ってるところを偶然見つけてさ、人間世界に来たばかりで泊まるところが急になくなってしまったみたいだから。家へ連れてきた」

アデルは私が様子を伺っていることを察し、迎えてくれたふくよかな女性に私を紹介してくれた。

「あら、そうだったの。大変だったわねぇそれは。ケイティさん、私はアデルの母のサマンサです。よろしくね。この子、強引なところがあって困っちゃったわよね!」

「そ、そんな。私こそ、彼には助けられました。ありがとうございます」

私はアデルの母、サマンサさんに深々と礼をした。

「いえいえ、失礼があったらごめんなさいね」

「でも、いいんですか?こんな見ず知らずの私に」

「いいのよ。私含め、ここにいる全員が困ってる人は放っておけないお人好しばっかりだから。貴方のこと、大歓迎よ。ちょっとお節介すぎる所はたまにキズかもだけど、うふふ」

「ありがとうございます」

私はサマンサさんの勧めで、家のリビングの木の椅子に座り、一息を着いた。
サマンサさんは、リビングの奥の厨房へ行った。みんなの夕食でも作っているのだろう。アデルは、みんなを呼んでくると言い、私が来たことを家族に知らせに行った。

「でも大変だったわねぇ、、初めての人間世界でそんなことになるなんて」

「はい、、、大変でした」

「ゆっくりしていってね。まるで我が家のようにくつろいでいいからね。困ったことがあったら、アデルでも私にでも全然相談してちょうだい。住む場所が決まるまでは、よろしくねケイティ」

「こ、こちらこそ、、よろしくお願いします。本当にありがとうございます」

「うふふ、じゃあ、私ちょっとご飯の準備あるから、このお茶でも飲んで、ゆっくりしてて」

「はい、ありがとうございます」

そういって、サマンサさんから私は手渡されたお茶を飲んだ。

「お、美味しい」

「あら良かったぁ。それね、トウモロコシ茶っていってトウモロコシが入ってるお茶なのよ~」

「そ、そうなんですか」

このトウモロコシ茶は甘く、そしてスッキリとした味わいで心が潤う感覚を覚えた。サマンサさんの優しさが詰まった味だった。

「おーい、みんな呼んできたよー」

と言って、アデルが戻ってきた。

ぞろぞろとリビングに人が集まってきた。アデルのおじいちゃんぽい人、おばあちゃんぽい人、妹っぽい人、お父さんっぽい人。

「おーおー!彼女がケイティさんか!よろしくね!私はアデルの父のクルーズです!」

「よ、よろしくお願いします!」

「緊張しなくていいよ。もう、故郷の我が家に帰ってきた!そんな心持ちで居てね!わははは」

「僕の父さんちょっと、うるさいくらいに元気だから、うるさかったらごめんね」

「いえ、全然。明るくていいと思う」
正直、確かに声は大きいと思った。でも気さくでいい人だと感じた。

「あ、この子は僕の妹のアンジェリカ」

「ほんとに妹さんなんだ」

「うん。まだ人見知りだから、ちょっと話せないかもだけどをよろしくね」

人見知りと、アデルが言った通りに、アンジェリカちゃんは、お父さんの陰に隠れていた。陰から少しだけ頭を出し、こちらを見つめていて、私と目が合うと目を逸らしていた。

「あらあら、可愛い子ねぇケイティちゃん。私はシャーロット。アデルのおばあちゃんです。もしかしてアデルの彼女さんかしら?うふふ」

とアデルのおばあちゃんは、おっとりとした口調で優しい声色を発した。

「ちょっとばーちゃん!何言ってんの!」

「あっ、やっぱりおばあちゃんなんだ」

「うん。優しいばーちゃんだよ」

「アデルは昔っからおばあちゃん子だったからねえ」

シャーロットさんは、優しく微笑みながら言った。それに対し、アデルは恥ずかしそうに頭をかいていた。

一通り自己紹介が終わったと思っていたが、おじいちゃんらしき人はまだ話していないことに気づいた。

「えっとじゃあ、この流れだと、あの人がおじいちゃんなの?」

と私はアデルに聞く。

「いいや、ジャクソンさんは、死んだおじいちゃんの親友なんだよ」

「そうなんだ」

てっきりこの流れだとおじいちゃんかと思ってしまった。

「ジャクソンさん!彼女はケイティ。ジャクソンさんと同じ動物人間さ」

「動物人間?」

私は思わず聞き返してしまった。彼が動物人間?私にはどう見てもジャクソンさんが、動物人間には思えなかった。彼の見た目は、人間の白髪の老人で、肌も人であり、なにかの動物の要素は無いように見えた。彼の不自然なところと言えば、家の中でもハット帽を深く被り、片目だけに眼鏡をしている事だった。

「こんにちは。ケイティさんと言うのだね。私はジャクソン。同じ動物人間同士、困ったことがあればなんでも聞いて欲しい」

ジャクソンさんは、頬に皺を作り、微笑んでそう言った。最初は少し堅物なイメージを受けたが、優しそうな人であることが分かった。

  5

「よーし、自己紹介も済んだ事だし、ご飯にするかー!」

アデルは元気にそう言った。私はドキッとした。心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

「ちょうど出来たところよー、今持っていくわねー」

サマンサさんがそう言い、テーブルには、豪勢な料理が次々と並べられていく。その度に、私の心臓の鼓動は早まっていった。

「うおー、母さんが作る料理はいつも美味そうだな」

とアデルのお父さんが言う。

「おほほ、今日はお客さんもいるし、腕によりをかけて作っちゃったわ」

「じゃあ、いただきますしよっか!」

「しようしよう!」

「ほら、ケイティ、こう手を合わせて」

「手を合わせる?」

「そう、でいただきますって言うんだよ」

「いただきます...」

「いただきまーす!」

私はアデルに従うまま、私の知らない掛け声である、いただきますをした。これが彼らの弔いらしかった。彼らはその後一斉に豪勢な料理へと手をつけた。美味しそうに笑顔のままで、食べていく。
おそらくこの牧場で育てたであろう牛の肉や羊の肉料理を食べていた。

私の心臓の鼓動が早まったのは、人間が動物を食すということに抵抗があったからだ。動物は、人間の食物のために、生きて死ぬ。そして、食物となった動物を人間は食す時に、笑顔で手を合わせて、楽しそうに食べるのだ。私たちはそうでは無い。動物への弔いの儀式を行い、謝罪をして食べるのだ。しかし人間は動物たちが苦しんで死んでいったことも忘れて、ただ目の前のご馳走に感謝して食べる。そこに、自然の恵みへの感謝があると言われても、私はそれを信じられなかった。

「どうしたの、食べないの?」

いただきますをした後も、一向に食事に手をつけず、俯く私に、アデルは一声掛けた。

「ちょっと、食欲無いかも」

「そうなの?体調でも悪い?」

「いや別に、、、」

気まずくなって、私は目を逸らした。目を逸らした視線の先には、美味しそうに肉を食らうアデルの父親と妹がいた。

「ほーら、アンジェリカ、脂ののったとこあげるぞ~」

「わーい、ありがとうパパ」

そうやって、口を多く広げて、牛の肉を食べた。胸焼けがして、視界が鈍るような感覚を覚えた。気分がとても悪くなり、耐えられなくなって、私は机を叩いていた。

「どうしてですか」

突然席を立った私に、全員が注目する。

「どうして、あなた達は、そうして明るく振る舞えるんですか!」

「どうしたのケイティ?」

私は心配して声をかけるアデルを無視し、リビングを出ていこうとした。

「ごめんみんな、ケイティを他の部屋へ案内するよ」

アデルはそう言い、出ていこうとする私の手を引っ張って、部屋の奥へと連れていった。



「大丈夫?落ち着いた?」

私を別室に連れてきたアデルは、私を丸いテーブルの椅子に座らせて、私の正面の椅子に座ってそう優しく問いかけてきた。

「はい」

「どうしたんだい?さっきは」

「あなたには分からないわ」

「話してくれないと、もっと分からないよ」

そうは言われても、話す気にはなれなかった。人間のアデルには分からない感覚で、言っても仕方がないと思ったからだ。

その時に部屋のドアが開いた。

「話せば分かることだって、あるはずじゃないかね」

部屋の扉を開けてそう言ったのは、ジャクソンさんだった。

白髪で、髭を溜め込み、眼鏡をかけた老人は、帽子を少し触ってから、私を見つめ、説得するように問いかける。

「君の気持ちを、私たちは理解したいし、共有したいと思ってる。だから話して欲しいんだ」

「あなたたちに話していいのか分からない」

「そうかい。まだ私たちに会って間も無いからそれも仕方ない」

ジャクソンさんはそう言って、被っていた帽子を外した。

「なら、私の事から話そう」

ジャクソンさんの頭を見て驚いた。

彼の頭に小さな角が生えていて、耳は、多くの白い毛で覆われていた。腕の袖を捲り、彼は腕を見せびらかせるようにした。その腕にも白い厚い毛が生えていた。

「ケイティさん、私もあなたと同じ動物人間なんです」

「見た目では分からなかったんですが、本当だったんですね」

「まぁ、羊である部分は昔から隠していたからね」

彼はゆっくりと昔話を始めた。
私とアデルは黙ってその話を聞いていた。

「私も初めは、周りの目なんて意識したこと無かった。でも、同級生が言うんだ。なぜ彼の耳は他の人と違うんだ、なぜ角が生えているんだってね。そこから僕は、周りの目を気にして悩んで、帽子をかぶるようになったんだ。そこで、私はアデル、彼の父親に助けられた。私は彼に最初は心を開かなかったが、彼はそれでも受け止めてくれた。最終的に彼のおかげで心を開けて、今の私があるんだ」

淡々とした落ち着いた声で話していたジャクソンさんだが、その言葉の節々には思いが籠っているように感じとれた。彼も私の両親のように差別を受けていた過去があるのだ。

「私は、これほど辛いことがあっても、周りの色んな人に支えられてこれまで生きてこれたんだ。ケイティ、君にもそういう存在は必要になるはずだ。それが私たちなんだ。だから話して欲しい」

「...分かりました」

彼は、私に寄り添い、自分の全てをさらけ出して、私のために話してくれた。そんな彼の気持ちに私も応えなければ、。私も心の内を明かそうと決意した。

「私は、彼らの命を奪っておきながら、笑って幸せそうに彼らの命を食べているあなた達が気に食わなかったんです。理解もできなかった。何故悲しそうにしないのか分からなかった。彼らはあなたたちのために死んだのに苦しんで死んだのにあなた方はそれも知らないように明るくて、嬉しそうで」
息継ぎをせず、話すことがとても苦しいことのように私は、言葉を発した。その様子は相手から見てもとても苦しそうに見えただろう。

「ケイティそれは」

ジャクソンさんは、私になにか言おうとしたアデルを制し、口を開いた。

「ケイティさん、確かに私たちは彼らから多くの命を奪っている。それは確かだ。そして、人間世界では、食べる前に手を合わせる事が一般的になっている。でもそれは、目の前の出された食事に対して美味しそうだから、嬉しいから唱えてるわけじゃない。私たちは彼らの命に感謝して、彼らの命に関わった人に関して感謝して、手を合わせてるんだ」

「私には、そうは見えなかった」

「そうは見えなかったとしても、私たちは彼らの命に感謝しているんだよ。信じて欲しい」

私を納得させるための、必死の説得だと感じた。必死で嘘をついているのだろうと。だから私はジャクソンさんの言葉を理解しなかった。

「信じることは、できない。私たちの世界では、食べる時に彼らの命に感謝してなんか食べない。私たちは悲しんで、許しを乞うて、謝って食べるんだ。彼らが苦しんで死んでいくのを知っているから。あなたもそうでしょう?動物人間は動物と対話できる。だから死にたくない。もっと生きたいっていう動物たちの心の声が聞こえてるでしょう!?」

「、、、そうか。君は。いや何でもない。信じて貰えなくて残念だ。今日はもう遅い。こんな私たちと同じ家で寝るのは嫌かもしれないが、ゆっくり寝てほしい」

一瞬、ジャクソンさんは、目を見開いたような表情をしてから、暗い顔になった。心底落胆し、悲しみの表情を浮かべていた。

「僕からもお願いするよ。野宿は危険だ。ほら、野犬とか蛇とか、ここら辺は田舎だしさ」

「分かりました。でも、私にはもう構わないでください」

「分かった。君の部屋は、」

「いや、、私は飼育小屋か納屋で寝させてもらいます」

私はアデルの提案を振り払って、部屋から出ていこうとした。

「ケイティ」

アデルは私を呼び止めようとしたが、私はそれを無視して部屋を出ていった。

家族団欒のリビングの横を通り抜ける。横目にちらりと見える彼らは、そんな私を気にもとめていなかった。玄関を出ると外は少し肌寒かった。

とぼとぼと1人、歩きながら納屋へと向かった。
納屋は、閑散としていて、少しの農具が置かれているだけだった。
私は、干し草をベット替わりにして、寝ることにした。
背中がチクチクした。私は不快感を覚えながらも目を閉じて、眠りについた。

  6

朝日が差し込んで、その光で私は目を覚ました。相変わらず、背中はチクチクしていたものの、もう慣れていた。

まだ身体を起こす気にはならず、眠気眼でぼんやりとしていると、何かの気配を感じて、飛び起きた。

その気配の正体は、一匹の白い羊だった。
その羊は、私をじっくりと見つめていて、起きるのを待っているようだった。

「どうしたの?」

私は対話を試みる。動物と話すために重要なことは、相手の目を見つめ、何の穢れもない、真摯な心で臨むことだ。

そうすれば、必然に彼らの声は聞こえてくる。私達の声が彼らに届くようになる。

「あなたは、どうしてそんなに悲しそうな顔をしているの」

「少し、嫌なことがあったのよ」

「嫌なこと?それは何?」

「あなた達が死んでしまうこと、そしてなんの哀れみもなしに食べられてしまうことよ」

「あなたは、それが嫌なの?死ぬのは私達なのに?」

「ええ、あなた達動物は、私の同胞であり、家族のようなものなの。だから悲しくて、嫌なことなのよ」

「そうなんだ。でも、悲しまなくても大丈夫だよ。私達は少なくとも、その死を理解している。そして受け入れているんだ」

「どうして!?あなた達は食べられるために死ぬのよ!?それも、何も後ろめたさや後悔を感じていない人達に!」

「いいんだよそれでも。彼らは後悔を感じる必要は無いんだ。私達をここまで愛情を持って育ててくれた想いは本物だって、知ってる。これはその恩返しなんだよ」

羊は、私と違い、彼らを信用し、彼らと分かりあっていた。この関係こそ、私の求めていた共存であると思った。私は、自分視点で考えて、信じようとする以前に、彼らの言葉を聞こうとすらしていなかったのかもしれない。

「だから、私はそんな彼らに恩返し出来て嬉しいと思っているよ。彼らがどんな気持ちで、私達を食べるから知らない。でも、そんなことは気にしない。私は愛情を持って育ててくれた恩を返す。それだけの事が大事なんだ。この関係は決して悲しいものなんかじゃない。むしろ暖かいものだ。私は死んだ後も彼らの一部として生き続けられることができるから。私は幸せだよ。そして、彼らと

私は何も言えなかった。羊が嘘をついているのではないか、そんな想像も過ぎったが、善の感情しか知らない動物が嘘をつくはずが無かった。私は、ただただ体を震わすことしか出来なかった。

「だから何も心配する必要は無いし悲しむ必要も無い。君も深く考えすぎないで。彼らは悪い人たちじゃないから信じてあげて欲しいし、嫌わないで欲しい」

「分かった」

風が吹き抜け、干し草が舞った。その時に羊は満足したかのように、踵を返して、羊小屋の方へ帰って行った。私は、朝日を見つめる。心が晴れるような快晴だった。

  7

羊が帰ってから少し経った後、私の元にひとつの足音が近づいてくるのが分かった。その足音はアデルのものだった。

「や、やあケイティ。おはよう」

「お、おはよう」

少しの沈黙の後、私はぎこちない挨拶をした

「寒くなかった?ちゃんと眠れた?


アデルは心配そうに私に問いかけた。
あんなことがあった後なのに優しかった。

「その、、昨日はごめんなさい。取り乱して」

謝罪の言葉は、思ったよりも素直に出てきた。

「いいよ、謝らなくたって。それに、僕達も配慮が足りなかったと思う。ごめん」

謝るべきなのは私の方なのに彼は私を気遣い謝ってくれた。そんな彼に私は申し訳ない気持ちになった。

「私は、あなた達がとても恐ろしいものに見えてしまったの。でも、それは違うと分かった。あなた達は優しい人達だった。それなのに、私は」

「ケイティ、それはお互い様さ。僕達だって、ケイティのことをよく知らずに軽率だった」

アデルは私を宥めるように言い、あくまで自分たちにも非があるとした。その対応は優しく、心の底から私の気持ちを考えてくれていることが伝わった。

「アデル、あなたはほんとに優しいのね。本当にありがとう」

「それだけが僕の取り柄だからね」
アデルはそう照れくさそうに言って笑った。

「でもなんで、急に僕たちが優しい人だってわかったの?」

アデルからしたら当然の疑問だっただろう。昨日はあれほど、アデル達を信用しないと言って話を聞かなかった私が、一晩で変わり、今では信用でき、優しい人たちであると認めているのだ。

「一匹の羊が教えてくれたの」

「噂は本当だったのか」

彼は顎に手をやって、そう言った。

「噂ってどういうこと?」

「君が昨日ジャクソンさんに動物人間は動物と対話できるって言ってたでしょ?あれ僕はてっきり、君が興奮してそんなありもしない噂を口走ったんだと思ってたんだ。動物人間が動物と対話できるなんていう根も葉もない噂を」

「噂も何も、本当のことよ。私たちはみんな、動物と会話出来るわ」

「ケイティ、君が動物と話せるのは、君が特別だからなんだよ。普通の動物人間は動物とは話せない。ジャクソンさんを含めて、ほとんどがそうなんだ」

「そんな、信じられない」

「でも、これは、本当なんだ」

「じゃあなぜ、私が動物と話せるって言ったのに、私の家族や周りの人は誰も驚かなかったの?それどころか、私の周りの人はみんな、動物と話せるって、そう言っていたのに」

 私が疑問をアデルに投げかけた後、アデルの背後からジャクソンさんの声が聞こえた。

「ケイティ、それはきっと君のためだろうと思うよ。私には心当たりがある」

アデルの背後から出てきたジャクソンさんは、急に話に入って済まないと手を挙げて謝罪した。

彼は私のためと言った。しかしその意味が私にはよく分からなかった。

「詳しく聞かせてください、その話」

私は食い気味でジャクソンさんに迫った。

「ああ、さっき君のためと言ったのは、動物人間で君と同じように、動物の声が聞こえる人のための対応マニュアルがあったんだ。それが誰でも動物と話せると嘘をつくことであり、結果それが君のような動物の声が聞こえる人のためになるということをアデルの父から聞いたんだ」

動物人間の誰もが動物と話せることが嘘だったとは、思いもよらなかった。私の中では、動物人間は誰しも動物と対話できると思っていた。両親も、周りの人達もみんな、動物と話すことは当たり前だと私の前では言っていたからだ。

「幼い頃から動物と話すと、動物としか話さなくなるという一例があったんだ。その一例になった子供は、誰とも話さなくなり、心を閉ざすか、やがてはどこかへ消えてしまった。動物は、心が綺麗で、負の感情が無い。そんな神聖で、気高い気質に魅了されてしまうらしいんだ。そうならないために両親は君に嘘をついて、動物から遠ざけようとしたのではないかな。おそらくだけど、誰でも話せるけど、動物とは話さないのが普通の事なんだというふうに嘘をついて」

私は驚きが隠せなかった。確かに、私は子供の頃に一度、動物と話していた日があった。両親はそれを見ていて、普通は話さないのが常識だと教わった。そこで、私だけ特別だと知っていたら、私は両親に内緒で動物と話していたかもしれない。動物は善の感情しか持ち合わせないと両親には聞いていた。それがかえって動物人間にとって悪い方向に向かうことになるなんて思いもよらなかった。

「動物は真実しか言わない。嘘もつけないし、間違ったことは言わない。私たちを信じてくれとは言わないが、羊の言葉は信じてもいいのではないかな」

ジャクソンさんは、遠慮がちにそう言った。

「いえ、、動物だけじゃなくて、人も信じます。私はあなた達も信じてます」

これが私の答えだった。羊に言われて気づいたからということもあるけど、彼らは私にとっても本当ののように接してくれていた。そんな人達のことを私は信用したいと思った。

「ありがとう」

「ケイティ...よし、こんなとこで立ち話もあれだからさ、朝食にしよう!」

「そうだね」

アデルの一声で、私達は朝食をとる事になり、アデルとジャクソンさんと仲直りして、暖かいリビングへと向かうのだった。

  8

「ジャクソンさん」

朝食を食べ終え、私以外の皆が午前の仕事につこうとリビングから移動する中、私はジャクソンさんを呼び止めた。私は彼に悩みを相談したかったからだ。これまで、私は人に悩みを打ち明けたことは無かった。というよりも、打ち明ける人もおらず、悩みを閉まいこんでいたという方が正しい。私の疑い深い性格上、人を心底信用し、悩みを打ち明けることが出来る人間はこれまでにいなかった。両親は、信用している。でも、両親には相談できない内容だった。私が信用し、その上で私の悩みの内容に合う人物として、ジャクソンさんはうってつけだった。

「ケイティさん、私に何か用かな?」

「はい、相談がしたくて」

「相談か。なんでも聞くよ。話してみなさい」

「その、私は、人間世界で俗に言う、動物人間です。まわりの人間達とは違い、私の肌はイルカの肌でツルツルしていますし、毛も犬のように生えています。そのような見た目で、人間の目を感じました。私は全ての生き物が共存する世界を目指しています。そのために、人目を気にせず生きて生きたいんです。どうすればいいでしょうか」

「なるほど...ケイティさんの気持ち、よくわかるよ。私も昔はそうだった。特に、私の時代はね。気にしないようにするのが一番だけど実際問題それは無理だと思う。でも、人々と接していけば、私と対等に話し、良くしてくれる人は必ず居た。私はその人達と接していく中で、人間も私もそこまで変わらない。むしろ同じ生き物だと感じたんだ。その時からあまり目線が気にならなくなった。おそらくだけど、人の気持ちに触れて、わかるようになったからだと思う。君を色物として見てる人はいるかもしれない。でもそういう人だけじゃないし、関わってみれば変わるかもしれない。君はまだ人と関わる経験が少ないだけなんだと思う。関わっていけば、分かるはずさ。私を見ているのにあまり深い意味はないってことを」

「確かに、私はまだあなたたちとしか関わってないですね」

人間の目が気になるのは、どう思われているかが気になるからだ。
でも、その人の思いが分かれば、目は気にならなくなる。その人たちの心は、多くの人間と関わる中で知って、体感できるのだろう。

「ケイティさん、周囲の人々は珍しい存在で目立つから見ているだけで、そこに深い意味は無いさ。それに、他人のことなんてあまり見てない人間が多いと思うよ。みんな自分のことで精一杯で、自分のことしか気にしてないんだ。視線を感じるのは思い込みがほとんどだと私は思うよ。だから君も自分のことだけ気にして、周りの人のことは二度と関わることの無い通行人Aとして考えればいいのさ」

「具体的に、、ありがとうございます」

私は、ジャクソンさんにお礼を述べた。ジャクソンさんは微笑んで、構わないよと手を振った。
その時、私の携帯の着信音が鳴った。

「あ、すみません」

ジャクソンさんは、私に携帯に出るようにと促し、席を外してくれた。

「もしもし」

「やあケイティ」

かけてきたのはゴリラのカメラマン、ジョディだった。

「家についての事だけど、もういつでも住めるようになったから!来ていいよ。迷惑をかけてしまって済まなかったね」

「そうなんですね、良かったです」

「あーそうそう、動物園の取材の時もまたよろしく!」

「はい、その時はよろしくお願いします」

もう、この家にいるのも最後なのかと思った。そう考えると少し寂しくなるのだった。

「もう、行くのかい?」

電話が終わり、ジャクソンさんが戻ってきた。

「はい」

「そうか、、、」

ジャクソンさんは、遠い目で私を見ていた。その目はどこか悲しそうだった。

「お世話になりました。いろいろと」

「また何時でも来て、私の話し相手にでもなってほしい。私は君を応援してるからね」

「はい。ありがとうございます」

私はお辞儀をして、感謝を述べた。ジャクソンさんの顔が悲しい顔から優しい笑顔へと変わるのだった。

  9

家へ住めることが決まり、もう最後になる風景を目に焼きつけるために、私は外に出た。外に出るとアデルのお父さんと妹さんが放牧された羊と戯れていた。

とても和やかで、幸せそうだった。そして、私に話しかけてくれたあの羊も、アデルの妹に撫でられていて、喜んでいるように見えた。

アデルのお母さんは、牛の餌やりや乳搾りをしていた。牛の背中をさすり、優しい声で、なにか言葉をかけていた。

ジャクソンさんとアデルのおばあちゃんは、鶏の世話をしていた。逃げる鶏を追いかける姿が可愛かった。逃げる鶏は怖いことをされると思っていてちょっと気の毒だったけど。卵をとるため、なんだよね。

アデルは飼い犬と散歩していた。私も連れていってもらったけど、アグレッシブで散歩というよりもランニングに近いような感じだったな。でもお互い息ぴったりで、気持ちよさそうな走りだった。

人間と動物は食物連鎖の関係もあって、人間が動物の命を奪うことは、日常的に行われている。その表明的な事実だけを見ていたら、私は隠された真実に気づかなかっただろう。人間と動物は心を通い合わせ、そしてお互いのために支え合って生きている関係であるという真実が。この家族だけかもしれない。それでも、私が動物人間の世界で見させられてきたものは、全ての人間が動物を非道に扱い、自分たちだけのことを考えて、動物を無下にしているというものだった。それが、全てでは無いと証明されたのだ。

私はこの事実を伝えるべきだと思った。動物人間の世界で報道されていることは、全てが事実では無い。虚偽もあることを伝えなければならない。それが私の使命だった。

そして、別れの時が来た。

「そんな、もっと居ればいいのに。もう行くの?」
アデルがそう言った。

「そうよ。まだゆっくりして行ってもいいのよ?」
サマンサさんが続いた。

でも、私はそれを断った。

「そうしたいのも山々なんですけど、私はやるべき事があるので」

「そう、頑張ってね」

「我々家族はみんな応援しているよ」

「おねーちゃん頑張れー」

サマンサさん、クルーズさん、アンジェリカちゃんから励ましの挨拶を貰った。

「ケイティ、今まで、ありがとう。これからの人間世界での生活で何か困ったことがあるかもしれない。その時はここに連絡してきて欲しい」

と言って、アデルは、メモに書かれた携帯の電話番号を差し出してきた。

「ありがとうアデル。本当に助かった。心の底から感謝してる」

「助けられて本当に良かった。僕もみんなと同じでこれからのケイティを応援してる。もし、また家に来たい時はいつでも声掛けてよ」

「わかった。じゃあね」

「うん、またね!」

アデル一家と私は笑顔で別れた。私は、彼らと出会えた運命に感謝し、この思い出を胸の中へ大事にしまった。

  10

アデルの家を出て、元々暮らす予定だった家へ住み始めてから1週間後、ついに私は、念願の動物園を取材することとなった。今の私には、動物園取材以外のほか事は何も考えられなくなっていた。初めての取材、そして初めての動物園はワクワク感の不安のふたつだった。

ジョディと駅で待ち合わせ、スタッフが運転する大きな車で私たちは移動した。

「やあ、ケイティ、緊張してる?」

隣の座席に座るゴリラのジョディは、明るくそう私に問いかけた。

「少しはあるけど、楽しみもあるわよ」

「そっかー緊張せず、気楽にやろうね」

「はい」

動物園にはあっという間で到着した。
動物園の園前でジョディはカメラを構えながら、色んな画角から他のキャスターを撮っていた。カジュアルな雰囲気で、カメラマンにもかかわらず、番組の司会のように話題を振っていた。慣れた手つきといったような感じだった。

最初は私以外の取材陣やカメラマンが取材するということになったので、私の取材時間まで自由行動となった。

動物園入場し、意外と広いことがわかった。広大な土地にある特権だろう。しかしその敷地面積と比べ、動物たちの柵は小さなものばかりだった。

だから私は、それを動物たちに問うことにした。

「あの、こんな狭い檻に閉じ込められて
苦しくないんですか?」

「驚いた。人間に話しかけられたのは初めてだよ」

黒豹はくるりと回りながらそう言った。

「すみません、いきなり」

「いや、いいよ。こんな狭い檻に、か。確かにそれはそうだ。でも慣れたら都さ。食事も勝手に出てくるしな」

「ここから出たいとは思わないんですか?」

「それは出たいさ。昔のように荒野を駆け巡りたいと思ってる。でも、思い通りにはいかないさ。人間たちの想いも私は分かってる。だから承知の上なんだ。それに彼らはちゃんと私のことを考えてくれている。私は彼らを信頼しているんだ」

私は、この黒豹の言葉に羊とアデル一家の関係を思い出すのだった。

「それに、人間に見られる感覚も悪くないしね。普通なら味わえない感覚さ」

「意外と人間に見られるのが好きなんですね」

黒豹と少しの間、話した後、私は黒豹の檻を去った。次に訪れたのは、野鳥コーナーにいる、フラミンゴの檻だった。

フラミンゴたちは、群れをなしていて檻の中にある水場に集まっていた。檻は黒豹の檻と違って大きいサイズだったが、群れがいるのでその広さも頷けるものだった。また、鳥類にも関わらず、檻に天井は無かった。

檻のそばに居る群れから外れているフラミンゴに私は話しかけた。

「貴方は、みんなと水浴びしないの?」

「今は気分じゃないからね。私たちは群れてるように見えるけど、大体する行動が同じなだけで、その場に集まってるだけなんだよ。意外と自由なんだ」

「そうだったの。ねえ、貴方はこの檻の中にずっと居ていいの?飛びたいって思わないの?」

「うーん思わないかな。空飛ぶのあんまり好きじゃないんだよ。私たちは水場の方が好きなんだ。人間はそれを理解していて、いい水場を用意してくれたし、それで満足しているかな」

「なるほど。教えてくれてありがとう」

後に知ったことだが、フラミンゴは飛ぶためにとても長い距離の助走を付けないといけないらしい。だから、ある程度大きく、天井のない檻で開放感を実現させている。動物園の従業員は、動物の習性や特徴を理解して、動物達によりよい環境を用意しているということがそれでも理解出来た。

私はフラミンゴと話したあと、ゾウがいるエリアに行くことにした。

私はゾウが昔から好きだった。幼い頃にテレビで見たゾウは知能が高く、家族愛がある動物であるということをテレビで知った。その時から好きになった。他にもゾウは、器用で色々なことができると聞いた。私はそれを確かめたかった。

「こんにちは。ちょっと訊きたいことがあるの」

「こんにちは。私と会話できる人間ですか。珍しいですね」

ゾウはゆっくりとこちらへ近づいてきた。

「あなたは、色々なことが出来ますよね?それをやってる感想を知りたいです」

「感想ですか。私は、人間の行う色々なことに興味があって、楽しんでやりましたよ。私は注目されるのも好きでしたし、それをして喜んでもらうのも心地よかったです。それをするのも好きでしたしね」

「最後に動物園にいて良かったと思いましたか?」

「はい。思いました。従業員と心を通わせ、一緒に色々な芸をします。その芸で、お客さんを喜ばせるのが毎日の楽しみなんです」

「そうなんだ。ありがとう」

私は色々聞いて、そして確信が持てた。動物園のイメージが変わった。
アデル家での出来事から私の物事の見方はガラリと変わり、そして、彼らと話すことで、その見方で正しいということがわかった。

私の取材の番が回ってきた。
私はみんなにこの事実を共有しなければならない。
それが私がここにいる理由であるからだ。

「ケイティ、準備はいい?カメラ回すよ」

「はい。大丈夫です」

「それじゃーはじめます、3.2.1」

私は大きく息を吸い込んで、話し始めた。

「こんにちは、私はケイティです。この動物園を取材するのが夢でした。私は、人間世界に来るまで、人間のことが嫌いでした。でも、ここに来て分かったんです。勝手な思い込みで、間違った情報に踊らされて、嫌いになってしまっていたということを。私がこの世界に来てから、会った人達はみな、優しくいい人たちばかりでした。そこに動物人間や人間という区切りはありませんでした。そして、動物たちに対しての彼らの行動も正当なもので、彼らは互いに信頼しあっていました。なぜ分かるのか。それは私が動物と会話ができるからです。動物たちは、私に教えてくれました。彼らの色々な感情、人間と共に暮らすことの充実感、そして互いに信頼し合う家族のような関係を。私はそれが知れて、本当に安心して、嬉しかった。少なくとも、全ての動物が行き場を失い、人間に無下に扱われているわけではなかった。それどころか、彼らはちゃんと互いの生き方をリスペクトしていて、。動物園の動物たちは少しの不平不満はありつつも、多くの動物がこの生活を受け入れていたのです。では、この事実があると分かったら、私たちが今後どうしていくべきか。それはより、この事実を広げ、共存へ向かっていくようにするのです。それが次の私の夢になりました」

私は、人間世界に来て、今日この日までに体験したこと、そして感じたこと、そしてありのままの事実、動物たちの様々な感情の全てをそのままに話した。
取材スタッフの全員が目を丸くし、あるスタッフが私を止めようとしたところ、ゴリラのカメラマン、ジュディが制してくれた。

  11

私は、この取材の後、仕事をクビになってしまった。
動物人間の世界でこの取材ニュースが放送され、多くの批判を受けたからである。
テレビニュースでは、連日このことを報道し、私が意図していること以上のことを脚色し、大袈裟に報道していた。そんなニュースに人々は、「彼女は最低だ」「彼女は同じ動物人間として恥だ」「人間と同じ動物差別者だ」「なぜ、番組は彼女を起用した」などの反応を見せ、私への痛烈な批判が多かった。

番組にも、当然このようなクレームは行き届き、番組スタッフはこの対応に追われ、私はその責任を取る形で、退職となった。

私は、この処遇にも納得がいかなかったが、それよりも、私の言葉が多くの人に伝わらなかったことが残念であった。多数の意見がそのまま正しいとされる世の中であるということは十分理解していた。それでもこういう形になってしまうのは残念である。なぜなら、私はもっと人々に受け入れられ、広まっていくものだと思っていたからである。私の意見に賛同してくれた人がいない訳では無い。私の言葉に耳を傾け、理解を示し、賞賛してくれる声もあるのは知っている。それが今の支えにはなっている。それでも、その声は多数の意見に埋もれ、掻き消されてしまい、探さないと出てこない。そんな世間に対して寂しさは消えなかった。

そんな気持ちの中、私は動物人間の世界へ帰るフライトの飛行機に乗っている。帰ったら何を言われるのだろうかと不安を抱きながら。

私は眠ろうと目を瞑ったが、一睡も出来ずに、動物人間の世界へ到着した。批判の声が凄いということだったが、流石に私が今、人間世界から帰ってきたということを知る人々はおらず、空港は閑散としていて、安心した。私は足早に、荷物を受け取り、家へ帰った。

久しぶりの我が家の前に着いて、一呼吸する。両親は私のことを裏切り者などと思うだろうか。なんて、ネガティブなことを考えてしまう。これ以上考えないために、ドアノブに手をかけて、家へとはいると、お母さんとお父さんが、こちらへ駆け寄るように抱きついてきた。

「よく帰ってきたわね。本当に。あっちでは大丈夫だった?何事も無かった?本当に心配してたのよ」

「本当によく無事で帰ってきたよ。いい旅だったかい?君は連絡もよこさないから、私もママもずっと心配だったんだ」

両親は、心底安心しながらそう言って私の頭を撫でながら長い間私を抱きしめていた。私と会えなかった期間を補完するように。


「ママ、、パパ、、心配かけてごめんね。改めて、ただいま」

「「おかえりなさい」」

私は両親に出迎えられ、久々の我が家のリビングに入った。
やはり、我が家のリビングは、落ち着いた。アデルの家のリビングの暖かさも心地よかったけど、この安心感は我が家でしか味わえない感覚だった。

リビングのテーブルで両親と私は向かい合って座った。父は、話したいことがいっぱいあるという表情で話を切り出した。

「今、ニュースでやっていることだけど、ケイティ、君はあんなこと言ってないだろう?」

「えぇ、私はそんなこと言ってないよ。あれはメディアの脚色だから」

「そうよね、、まったくメディアは、、、あんなにも動物が好きだったケイティがそんなことを言うはずがないもの」

と母は呆れたトーンで言い、私を庇った。

「ところでケイティ、動物と沢山話したというのは本当かい?」

「えぇ、それは本当よ。ごめんなさい。止められてたことをして」

「いや、いいさ。それは過去のことだ。君はもう大人で、物の分別がつくんだから」

「そんなことよりも、人間世界はどうだったの? 」

「そうだね。ケイティ、人間世界で君はどんなことを経験したか聞きたいね」

私は、一呼吸してから、真剣な面持ちでこれまでのこと、そしてそれを通して感じたことを両親に話し始めた。

「パパは、昔、人間に、酷いことをされたから嫌に聞こえるかもしれないけど、、私が人間世界で出会った人々はみんないい人達だった。私は動物も人間も、そして動物人間もみな等しく、同じ大事な命で、そして助け合って支え合って生きていかなければ、生きていけない生き物だと教わったの。人間世界で、出会ったみんなは、お互いの想いを共有して、支え合って生きていた。一概に人だから動物だからとかじゃなくて、それが出来ていないものが、誰かと敵対して、傷つけてしまうんだと気づいたわ」

「なるほどね。ケイティ、君はこの短期間で、色んなものを見たり、聞いたりして、成長したね」

「なんか、今までのあなたとは別人で、頼もしく見えちゃうわ!」

「もう、やめてよママ」

そうやって茶化す母に、私はジェスチャーでツッコミをいれた。

「私たちは何があってもケイティの味方だからね。困った時はいつでも相談してくれよ」

「そうよ。今はこんなことになってるけど気にしちゃダメよ。貴方は悪くないんだから!そして悩んじゃダメ。もし悩んでしまうようだったらママとパパに相談しなさいね!絶対に力になってあげるから」

「ふふ、ありがとうママ、パパ」

いつもの落ち着いていて冷静で頼りになる父親といつものいつも私の味方になってくれて感情的に私を励ましてくれる母親だった。
私はその2人の変わらない様子を見て、安心し、陽の光に包まれるように、心が穏やかになるのだった。

  12

両親の質問攻めも終わり、自室でゆっくりと一人の時間を過ごしている頃、アデルからの着信があった。

「もしもし、ケイティ?大丈夫?ちゃんと家に着いた?」

「うん。着いたよ、アデル」

「そっか、良かった。ってそれどころじゃないよね。大丈夫?なんか大変なことになっているって聞いたけど」

「大丈夫だよ。私、批判なんかに負けないから!」

「そっか。僕ならいつでも力になるから、困った時は連絡してきていいよ。あと、また今度人間世界に来たら、家にも寄ってきてよ!」

「ありがとう」

「家族みんな、そして僕もいつもケイティのことを応援してるから、それを忘れないでね!それじゃ」

「それじゃ、そっちも元気でね!」

彼の言葉は私の胸に深く刻まれた。私を勇気づけてくれるためにわざわざ電話をしてくれて嬉しかった。彼は相変わらず優しい人で、私の人生で出会った人の中で一番そうだった。

両親、アデルの支えがあり、私の信念は揺るがなかった。頑張ろうと思えた。
そして、良い事続きの流れのまま、ある日、私の元に一本の電話が入った。

「こちら、動物人間環境団体AHO代表ジェニファー・ジェームズです。ケイティ・ミュラーさんのお電話でお間違いないですか?」

「はい、そうですけど」

「こんにちは、ケイティさん。実はですね、ケイティさんに是非うちの団体に入って欲しくて電話させて頂きました」

「私を?」

「ええ。私たちは、動物と人間の共存を目指し、色々なところで活動しています。ケイティさんのニュースを見て、貴方は、私たちと共に世界を変えていけることのできる人だと分かり、是非、一緒に活動したいと思ったのです」

AHO団体という動物人間や動物の支援、動物保護をしている団体であるということは、大学の講義で散々習ったので知っていた。しかし、まさかこの団体から声がかかるとは思わなかった。動物人間の世界でも、この活動にかかれるのはとても光栄な事だった。

「わかりました。是非やらせてください」

「本当ですか。良かったです」

「では、また会える時をお待ちしております」

「はい。失礼します」

AHO団体のあるビルに、来週、私は出向くことになった。代表取締役の方と挨拶をするらしい。私はとてもいい機会だと思った。一人でやるべき事は決まっている。それでも、一人でやれる事には限度がある。AHO団体と活動することで、一人じゃ出来なかったことも出来るようになるのだ。

私が、人間世界で様々なことを経験し、動物と人間の関係に実際に触れ、新たに見つけた私のやるべき事。それは、動物と人間の両方の立場に立ち、彼らを繋ぐ、動物通訳者になることであった。

やるべきことが見つかったのは、批判を受けたことも一つの理由である。彼らは動物と実際に話せないから、動物の真の想いを知らない。だから、勘違いが起きてしまう。人間嫌いの過去の私がそうだったように。そのような想いのすれ違いが起きないように、私が人間と動物の両方の立場に立って、想いを伝えていくのだ。これは、人間と動物の両方の話が聞ける私にしか出来ないことだった。

AHO団体の代表取締役と話すこととなる日が訪れた。動物人間の世界の中でも、都会に近いビルが建ち並ぶ場所に、AHO団体のビルはあった。
その最上階で、会うこととなっていた。



「こんにちは、貴方がケイティね?会えて光栄だわ」

「こちらこそ、とても会えて光栄です」

AHOの代表のジェニファーさんは、とても容姿端麗で大人の雰囲気のある人間の女性であった。
彼女は、私を豪華なソファへ座らせると、向かいのソファに座り、部屋の説明をした。この部屋にはこれまでの活動で得た表彰や活動の写真、記念品などAHO団体が行っていた活動記録としての品が様々、飾られていた。
それを彼女は細かく丁寧に説明し、そこから本題に入り、今のAHO団体の活動について話し始めた。
その話から、彼女が動物人間、そして動物への差別を無くしたいと本気で考え、共存できる道を探しているということが話を聞く中から伝わった。

そこから、彼女はこの団体を立ち上げた理由を話し始めた。

「私は、昔、動物人間の方と付き合っていたんです。彼はとても動物が好きな人でした。でも突然彼はこの世から旅立ってしまいました。亡くなった原因は、動物人間の差別による自殺でした。彼の一番近くにいた私なのに彼の命を救えなかった。こんな悲劇をもう起こしたくない。そして、差別がなくなるように。そう思って、人間ながら、私はこの団体を立ち上げたのです」

落ち着きながらも、情熱的で訴え描けるように話す彼女を見て、私はとても心が震えた。私も彼女の力になりたいと思った。

「そうだったんですね、、、私に出来ることがあればなんにでも力になります」

「ケイティさん、本当にありがとう。動物人間のあなたが勇気をだして、このような事に関わってくれることに本当に感謝します」

「はい。それに私には夢がありますから。その為でもあります」

「夢ですか。聞かせてもらえるかしら?」

「私は、動物と人間と、そして動物人間との架け橋となれるような存在になる事です。そして、世界で初めての動物翻訳者となる夢を持っています」

私は彼女の瞳を見つめ、しっかりとした真っ直ぐな眼差しでそう言った。

「...とっても素敵な夢。貴方なら絶対に叶えられるわ」

彼女は、私の目を見つめ、手を握り、優しい笑顔でそう言った。

彼女と数分話し、施設の紹介を受け、談笑してから私たちは別れた。




  13

ジェニファーさんと会った次の日から私の翻訳者としての仕事が始まった。AHO団体のイベントとして、施設の動物と話したい人を募り、簡単にコミュニケーションを取るというものだったが、私にとっては重要で初めての仕事だった。

イベントには意外と子どもが多かった。

私の初めてのお客さんは小さな女の子だった。

女の子は、恥ずかしそうにして私に話しかけた。

「動物さんとお話したいんですけど...」

「分かりました。こちらへ来てください」

女の子よりも私の方が緊張していたかもしれない。

AHO団体の動物保護施設に移動していく。その間に、女の子が対話をする動物を決めなければいけなかった。

「どの動物とお話したい?」

「うーん、、ペンギンさん?」

女の子は、口に指を当ててそう答えたが、この施設にはペンギンはいなかった。

「ごめんね、ペンギンさんはここにはいないの」

「じゃあ、お犬さん!」

「わんちゃんね、OK!」

女の子は、ペンギンがいないと言われて残念そうだったが、第二希望の犬と話せることになって、嬉しそうな顔に変わっていた。

私たちは、犬が一匹ずつ広いスペースに仕切られているエリアへと来ていた。

「どの子と話したいか決まったら言ってね」

「うん」

ガラス越しに向かって、女の子は色々なたくさんの犬種の犬を見ていた。

そして、一匹の大型犬を指さした。

私は、係員に指示をして、その犬と直接合うようにそのガラス越しのスペースから出すようにと言った。

「話を聞かせてもらってもいいかしら?この子があなたと話したいって言ってるの」

「私とですか?いいですよ。こんなに幼い人間と話すのは初めてで、興味もありますし」

私は、出てきた犬と会話した。落ち着いている犬で、女の子にも興味を示していたので良かった。

「いいみたいよ!」

「やったぁ」

「そういえば、名前を聞いてなかったわね。お名前教えてくれる?」

「私は、シャロン・レイっていうの」

「シャロンちゃんね。シャロンちゃん、貴方はこの子に何を聞いてみたい?」

「うーん、、私の事好きかどうか」

シャロンちゃんは至って真面目にそう答えた。

「OK、えっと、貴方は、私の事好きですか?」

私は大型犬の目を見つめ、シャロンちゃんの言葉を代弁した。

「私が、彼女のことを好きかって?まだ会ったばかりだから分からないけど、子供は嫌いじゃないよ」

「まだ会ったばかりだから分からないけど、子供は嫌いじゃないって言ってるから、シャロンちゃん次第では好きになってもらえるチャンスがあるわね」

「そっか!そっか!どうしたら仲良くなれるか聞いていい?」

彼女は目を輝かせ、そう言った。とても喜んでいるようだった。

「分かったわ。この子がどうしたら仲良くなれるかって聞いてるんだけど...」

「私と仲良くなる方法ね、私はマッサージされるのが好きだ。だから頭や背中などを優しく撫でて欲しいかな」

大型犬は頭でくいくいと背中を指し、そう促した。

「頭や背中を優しく撫でられると嬉しくて、仲良くなれるって!」

「ほんと!じゃあ撫でてあげるー!」

シャロンちゃんはそう言って、大型犬の背中を優しく撫でていた。大型犬はそこで初めて尻尾を振り、嬉しそうにしていた。

「ありがとう。私はとても心地いいよ」

「ふふ。そう、シャロンちゃん、お犬さんがね、とっても気持ちいいって、ありがとうって言ってるよ」

「良かった!嬉しい。シャロンとお犬さんもう友達かな?」

「シャロンちゃんともう友達になった?」

私は大型犬に訊いた。

「ああ、渡した彼女はもう友達さ」

「もう、友達って言ってるよ。良かったねシャロンちゃん」

「うん!」

シャロンちゃんは満面の笑みを浮かべ、嬉しそうにして、大きく頷いた。その笑顔を見て、私も自然に頬が緩んだ。そんな時に、丁度、AHO代表のジェニファーさんが現れた。

「上手くいってるみたいね!通訳」

「はい。お陰様で」

「上手くいって何よりだわ。これからもっと色々なところで、通訳者として活動できるといいわよね。もちろん、私たちも全力でバックアップするから」

そう言ってジェニファーさんは私の肩を叩いた。

「ありがとうございます。頑張ります」

「まずは第一歩踏み出せたわね、これからも期待してるわ」

そう言って、ジェニファーさんは忙しそうにして、去っていった。

シャロンちゃんを見ると、大型犬をまだ撫でていて、笑顔で何かを話しかけていた。

「シャロンちゃん、残念だけど、もうお時間なの。お犬さんにお別れして」

私は膝を折り、彼女の目線に立ってそう言った。

「えぇー、、もっと遊びたかったのに」

「ごめんね、、、時間が決まっているのよ」

私も初めての事であり、もっと通訳をしたい。彼女に触れ合わせてあげたい気持ちもあったが、多くの人に体験してもらうというために、仕方ないことだった。

「うーん、、分かった。お犬さん、悲しいけどバイバイ」

シャロンちゃんは聞き分けの良い子で助かった。泣きだしもせず、笑顔で大型犬に手を振った。
それに、大型犬も応えていたのが伝わった。

「お犬さんも、バイバイ、楽しかったよーって言ってる。笑顔でお別れだね」

「うん」

「またお犬さんに逢いに来たい?」

「うん!また会うもん」

「今日は楽しかった?」

「とっても楽しかった!」

「ふふ、それは良かったわ!」

シャロンちゃんが通訳をする初めての人で良かったと思った。そして私の通訳者としての一歩を踏み出し、動物人間の通訳者人生は始まった。

色々な人と、色々な動物を通訳し、繋げてあげることで、輪はどんどんと広がっていった。私は毎日通訳で忙しくなったし、イベントは盛り上がり、ニュースでも取り上げられるようになった。
そんな頃、新たに通訳者になりたい人まで増えた。
動物と話せることがとても楽しくて、素晴らしいことだということが動物世界では広がっていき、どのようにしたら話せるのかという研究まで進められるようになった。
そのような研究の番組に専門家として呼ばれることもあった。
普段のAHO団体の動物保護施設の動物と職員の意思疎通を図るための通訳も欠かさず行い、それらが発展して、農家や動物演芸の通訳で行くことも増えた。
そして、遂に私は、AHO団体の通訳部門代表となり、上の立場で色々なことを進めていくことが増えた。新しい新人通訳に仕事の流れを教えたり、通訳イベント開催の運営を行ったりして毎日が忙しかった。そんな忙しない日々を送っていたある日、人間世界で通訳をして欲しいというオファーが、私の元に届いた。それは、実に通訳を初めて十数年が経ったある日の突然の出来事だった。その十数年の間に、人間世界でも動物と人間、動物人間の共存の実現の話が進められ、多くのメディアで取り上げられるようになっていたという。そこから関連し、人間世界でも、動物通訳の注目度が突如として高くなっていたのだ。

  14

私が十数年ぶりに人間世界へ来た時とは大違いで、空港に着いた途端、たくさんのカメラを構えたメディアが居た。

「凄いわね、こんなに人間世界で注目されているなんて」

AHO団体の会長となったジェニファーさんは目を輝かせながら、驚いた表情をしていた。

私たちの行ってきたことは、確実に世界へ広がっていき、いい方向へと向かっていたのだ。

「本当に...でも、これからですよ」

「そうね。私達の活動はまだ始まったばかりよね」

「はい。私の夢はまだまだ長い道のりになります。でも絶対叶えてみせます」

私は、彼女の前で、力強く覇気ある声で、そう宣言した。

「ふふ、あなたのその目に私は惚れ込んだのよね。頑張ってねケイティ」

私は自分の夢でもあり、そして信頼する上司、ジェニファーさんの期待にも応えたい一心で、ここから始まる人間世界での仕事も頑張ろうと思っていた。今までもそれは変わらず、私は仕事が何よりも第一優先だったと思う。そんな私だったが、この人間世界に来て、初めてそれよりもまず、優先させるべきことがあった。

それはアデル一家と再会することだった。

私はアデルに電話をした。電話ではちょくちょくと連絡を取りあっていたから、慣れたものだった。



「アデル?人間世界に着いたよ。今アデルと出会った空港の出口辺にいるんだけど、ここまでこれるかしら?」

私はアデルと初めて会った時の場所で待つことにした。

「オーケイ!ケイティのためならどこでも飛んでくよ!」

「ありがとう、アデル。会えるの楽しみにしてるから!」

「うん、じゃあまた後でね!」

そう言って、電話を切り、数十分後に、久しぶりに見るアデルの車がやってきた。
アデルの車はあの時よりも少し、汚れが付いていて古くなっていた。

「やあ、ケイティ、10年ぶり?」

「久しぶり、アデル。15年くらい経ってるかもしれないわね」

私たちは、十数年ぶりに顔を合わせて、少し照れくさく笑い合った。

「まだ乗ってるのね、この車」

「ああ、もう古いけどまだ全然走れるよ。長持ちなんだ」

アデルはそう言って笑った。懐かしい笑顔だった。
私は、前、車の後部座席に乗ったが、今回は助手席に乗ることにした。

「ケイティなんか、大人っぽくなったね」

信号待ちで彼はそう言った。

「そうかしら、アデルもよ。歳はもう大人だしね」

「アデルは今、なんの仕事をしているの?」

「後継かなあとは、農業の仕方を教えたりもしてるね」

「へえ、大変そう」

「大変だけど、楽しいよ」

「ケイティはどう?仕事は」

「私も楽しいわよ。そしてこれからもっと楽しくなる予定」

「それは良かった。ずっと陰ながら、応援してたんだケイティのこと。いろいろあって大変そうだった時も」

「ありがとう。私の相談にも乗ってくれたものね」


「構わないさ。これからもいつでも頼って欲しいよ。ケイティの夢は、家族みんなの夢になりつつあるしね」


信号が変わり、青になってもアデルと私は会話を辞めなかった。今まで直接会って話せなかった分を取り戻すかのように話し、私たちの会話は途切れず、話題は尽きなかった。


「やーやー帰ったよー、ただいまー!」

アデルが元気よく、アデル家の玄関を開け、挨拶した。

「あら、ケイティ!お久しぶり!」

「おー、ケイティさんじゃないか!」

アデルの両親は、挨拶したアデルよりも、私に駆け寄って声を掛けてきた。

「お久しぶりです。サマンサさん、クルーズさん」

私はアデルの両親のその勢いに笑いながら挨拶した。

「あ、アデルもおかえり」

「え、ああ、うん。ただいま」

アデルは、両親が私に気を取られ、自分の挨拶を無視した事を気にして、拗ねているようだった。そんな一面は少し可愛かった。

「パパ、この人が?」

と大人になったアンジェリカちゃんが父のクルーズさんに訊いた。

「そうだよ。彼女だ」

「アンジェリカちゃんは覚えてないから初めましてかな」

私はそうやって、挨拶をした。

「うわぁ、こんなに素敵な人だったんだ!会いたかったです!」

アンジェリカちゃんは、そう言って私の両手を掴んできた。手が私くらい大きくて、もうさんを付ける歳かもしれないと思った。

「ケイティ、ゆっくりしてってね。さぁここへ座って」

私は、母のサマンサさんに促され、リビングの木の椅子に座り、部屋を見渡した。そしてあることに気づいた。所々変わっているような気もしたが、全体的な雰囲気は変わらなかった。とても落ち着けた。

「変わってないですね、、とても暖かい」

「ケイティ、お茶いれるからまっててちょうだい」

「はい、ありがとうございます」

「ケイティさん聞いたよ。君、通訳者になるんだって?凄いじゃないか!というか、うちでもやって貰いたいくらいさ」

と、アデルの父、クルーズさんが大袈裟に言った。

「それで考えたんだけど、うちでも通訳活動をやってくれないかな。そうしてくれたらより通訳の足がかりとなるかもしれないし」

とアデルは続いた。

「本当にいいの?」

「うん。色々イベントとかも開いて交流の場としてくれてもいいよ。家広いしね」

それは予想外に嬉しい提案だった。まさか、アデルの家で通訳の仕事ができるとは夢にも思わなかった。

「そういえば気になったんだけど、ジャクソンさんとシャーロットおばあちゃんは?」

挨拶をして、リビングに入った時、二人の姿がないことには前々から気づいていたので、私は質問した。

「おばあちゃんは今部屋で寝てるかなぁ。ジャクソンさんは、数年前に亡くなったよ」

「そうだったの...」

アデルは、悲しみに満ちた顔で、ジャクソンさんが亡くなった日のことを話した。
ジャクソンさんは、自室で本を読むことが日課になっており、自室で過ごすことが多いという。だが、決まって食事をとる時はぴったり同じ時間に自室からリビングへと出てくるのだが、その日の夕食の時は、一向に現れず、アデルが自室を覗いたところ、ジャクソンさんが倒れているところを見つけたらしい。

「ごめん。伝えるのが遅れて。電話で君が忙しい時に言うのはいけないと思って。もう一度会えた時に話そうと思ってた」

「いいわよ。それよりも、私はあれが最後の会話になってしまったのが悲しくて」

「ケイティ、、、確かに君はジャクソンさんの最期に会えなかったけど、ジャクソンさんはいつもケイティのことを気にかけてたし、いつかまたここに来て色々な話を聞きたいとも言っていた。それは叶わなかったけど、心は繋がってるはずだよ」

アデルは悲しい取り繕った笑顔でそう言った。その優しさが胸にしみた。

「ケイティさん、ジャクソンさんのことは残念だったけど、今日は君を久しぶりに迎え入れる日だ。あとからいくらでも悲しめるんだ。今はこの再会を楽しもうじゃないか」
と父のクルーズさんは言った。

「ケイティ、ジャクソンさんもケイティが暗い顔してると悲しいと思うよ!元気だして」

続けてアデルも励ましてくれた。

「そうね、、分かりました」

その時、台所からリビングへと何やら大きいものを両手に持ってサマンサさんが現れた。

「はーいみんな、これチーズケーキよー」

「おおお、美味しそー」

「なんだかいい匂いがするわね~あらケイティさん?」

「あ、おばあちゃん!」

シャーロットおばあちゃんがチーズケーキの匂いにつられて部屋から出てきて、みんなが一斉にそう言った。私はシャーロットさんにお久しぶりですと言って頭を下げた。

「せっかくだしさ、ケイティ、みんな、写真撮ろう写真!」

「え!なんでいきなり!」

私はアデルにそうツッコミを入れた。

「君と僕たちがまた会えた記念。そして、これから新しい生活が始まる記念の写真さ!」

アデルの提案に、半ば強引に、みんなで写真を撮った。

その写真を後で見ると、みんな笑顔で映っていた。とてもいい写真で、撮って良かったと思った。私はこの写真を肌身離さず持つことに決めた。

  15

ここからは、私のちょっとしたエピローグだ。

私は、アデルの家で暮らしながら、通訳者の仕事に励んだ。通訳者としての仕事をする日、アデル家の農業の手伝いをする日、毎日が充実していた。私は色々なメディアに取り上げられ、通訳者としての仕事は増えていき、忙しくなっていった。私と同じ動物通訳者は多くなっていき、より共存への輪は広がっていった。それでも時には批判的な意見などもあった。「本当に彼らと話しているのか?」「嘘をついて、適当なことを言っているのではないか」「だいたい言葉が通じない以上共存なんて無理だ」そんな意見を直接、私に言ってくる人もいた。私はその人達に対して逃げずに対応した。話し合えば、いつかは分かり合えると信じて。関わって、話し合ってみないと、その人がどんな思いでそう言っているのかは言葉だけでは分からないからだ。それは相手も同じなのだ。仕事だけでなく、私のプライベートな事も充実した。私とアデルは、結婚し、子供も生まれた。人間世界で、幸せな生活を送っていくつもりだ。
私が年老いて、AHO団体で、会長になった頃、ある一人の女性と会うことになっていた。彼女は、私と働きたいと話していた。

「シャロンなの?」

「お久しぶりです。ケイティさん」

「本当に久しぶり。大きくなったわね」

久しぶりに会うシャロンは、あの時の可愛らしい無邪気なイメージが無くなっていて、私の前に自分の足でしっかりと立つ大人びた一人の女性だった。

「私も、ケイティさんみたいになりたいんです。動物と人間と動物人間の共存を目指して、それに向かってひたすら突き進む、真っ直ぐなあなたのような人間に」

シャロンは目を輝かせて言った。

「シャロン、きっと、貴方も私のようになれる素質を持っているわ。それに貴方にしかない良い所もね。これから一緒に頑張りましょう」

「はい!」

信念を持ち続け、努力し、この世界を変えたいとずっと夢見てきた。その想いが人を通じて、どんどんと広がっていき、いい方向へと進んでいく。辛い時や悲しい時、報われない時だってある。それで悩んだ時もあった。挫けそうになった。でも決して私は諦めなかった。だからここまで来れたと思う。私が諦めずにここまでやれたことは、私自身の努力だけじゃなく、周りの支えがあって成立していた。もし、アデルが家に泊めてくれなかったら。もしアデルや両親が励ましてくれなかったら。もし、AHO団体が私を招いてくれなかったら。そもそも、私の就職した取材会社が私を応援してくれなかったら、人間世界へ行けていない。私は色々な人に助けられてきたのだ。本当にその人たちには、これ以上ない感謝をしている。そしてその人達のためにも、私はまだまだこれから頑張っていく。この世界を変える一歩、二歩を着実に踏み出せている。あとは流れに乗るだけだ。私が追い求めていた共存はもう、すぐ手の届くところにある。
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