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第二話

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 この日は、めずらしく仕事が早く終わった日だった。その後家へ直行し、家族と長い時間過ごせると気を緩ませていた。スラム街にたどり着くには、街の広場を抜けなければならない。その街の広場の前のマンション住宅が並ぶ貴族が多く住んでいる場所が何やら騒がしかった。
 見ると、そこには王女がいた。この国の第一王女で、歯に着せぬ性格と物言いで、民衆から着いたあだ名は、通年第一反抗期ワガママ王女。
なにやら、見世物をしているようだった。
「父さん!?」
 僕は思わず声を上げた。
人だかりの真ん中に王女と、数人の男。その男たちの中に、父さんは紛れていた。
「我は今暇じゃ、何か私を楽しませたものには、褒美をやろう」
 褒美?金のことだろうか。だからあんなにも人だかりが出来ていることがわかった。
 少し様子を伺っていると、男たちの列の真ん中から1人が王女の前に出た。それは父親で、今から父親が芸を披露することになっていた。
「そなた、何でもいい。我の退屈しのぎに付き合え」

「は、はい。では、私の特技である腹踊りをやらせて頂きたいと思います」

 いけない!父の特技、腹踊りが発動してしまう!子供の頃、父が太った二段腹を利用して、口を開け閉めする。その動きに合わせて歌を歌うように面白おかしく喋る。その腹踊りは、子供こそ笑えるものだが、大の大人。それも貴族、それもそれも一国の王女に、下品な芸は受けるはずがない!

「父さんダメだっ!それはっ...」
僕は、頭を抱えながら声を上げた。

「あそれ、あそれっ!あらよっと!」
 腹踊りと歌うように喋りながら、手拍子なんかをして、盛り上げているがそれを王女は、真顔で見つめていた。
「私は、食いしん坊の悪代官、この世の美味しそうなものは、この大きな口で、パクパクムヒャムシャと食べちゃうぞ~」
 王女を見ると、俯き、そのままプルプルと震えている。やばい。憤怒の半歩前じゃないか。これは、最悪の場合、そなた、我に下品なものを見せおって!打ち首の刑に処す!さあ連れて行け!なんて言われかねないぞ!?どうする、このままじゃ父さんが!

 と思ったその時、

 王女は、両手で口を抑えながら、顔を上げ、大笑いした。

「ワーッハッハッ!そなた!面白いなぁっ!ふぅ、、ふふっ..気に入った!そなた!私の芸人として雇おうではないか!」
 目尻に浮かんだ笑い涙を人差し指で拭いてから、王女は父にそう言った。
「そ、そんな!私には身に余る光栄なことでございます!喜んでやらせて頂きます!」
まさか父親が王女に気にいられて、王室に招き入れられるとは思ってもいなかった。
 その日から僕達家族は、これまでより少し、贅沢な暮らしができるようになった。副菜がひとつ増えたり、肉の質がワンランク上がったり、新しい布で服を作ったりできた。これも全て、父親の腹踊りのおかげだと思うと面白おかしいが、本当に感謝しか無かった。父親は僕達のために、体を張って今でも宮廷で頑張っているのだろう。僕も父親のように頑張りたいと思った。父親が家に帰らない今、この家族を守るのは長男である僕しかいない。その責任感があった。

 そんな贅沢な日々が、いつの間にか半年が続いた頃、唐突にその日々は終わりを告げた。
ある日、この家に、滅多にない来訪者が現れた。それは、配達員だった。配達員は、被った帽子のつばを触ってから、腰に携えたポシェットから一つの郵便を手渡された。

 なんだこれ。

 配達員は、何も言わず手渡した後そのまま去っていった。

 母親も、ジョシュアもノアも何事かと寄ってきて、その郵便を見つめている。
 僕はその中で、その郵便を開いた。その郵便の中には一枚の紙が入っていた。その紙に書かれていた文字を見て僕達は、一瞬にして青ざめた。

死亡通知書エイブラハム・ゴルドベルク

宮廷に勤めていた昨日行われた防衛戦線でゴルドベルク氏が死亡したことを通知する。

 この通知に、僕は頭が真っ白になって、立ち尽くした。父親が死んだことで、母親もジョシュアもノアもわんわんと泣いたが、僕は泣けなかった。このささやかな毎日が失われたこと、そして家族を支えていた父親が居なくなり、僕が一家を本格的に支えなければいけなくなったこと。その責任感とこれからの事で頭がいっぱいで父の死を悲しむことが出来なかった。本当は、自分も死ぬほど泣きたい気持ちだった。でもそれは今は、しまわければならない。そうでなければ、支えていけない。家族の命は僕にかかっている。泣くのに時間を割くよりもまず、働かなければならない。

 僕はこれまで以上に働き始めた。より、時間を多くそして、お金の多い、危険な仕事もやるようになっていた。そんな仕事の毎日に神経をすり減らしながら、僕は、僕が妄想した父が死んだ時の情景の悪夢を何度も見るようになっていた。

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