夢店屋

内海 裕心

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夢店屋 case4

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この店で働き始めてから、3年ほどが経ち、僕はこれまでに色々な客の夢を見てきた。自殺を夢見る自殺未遂少女の本当の夢、就活で劣等感に囚われ、ニートとなった男の欲望を描いた夢、教師という職業を愛し、生徒のことを陰ながら考えいたしがない教師の夢など様々だ。

多種多様で人それぞれの夢は、最初は僕を楽しませた。それでも、3年も続けていれば、人の欲望はある程度パターン化されていて、同じような欲望が増えていき、退屈になった。

僕のこの退屈を、誰か消し去ってくれないだろうか。
そう考えているある日だった。

いきなり、夢店屋の扉が開いた。僕は驚いた。今日は、予約が入っていない日。店に誰も来ないはずだ。

扉を開けて、出てきたのは見知らぬ僕よりも少し年上の女性だった。

「今日、予約されてましたっけ?」

「いえ、、見かけたものでつい入ってしまったんです」

見かけたと、彼女は言ったが、この夢店屋は森の奥深く、何も無いところにある。そんな場所に来ること自体おかしかった。

「ここら辺で、何してたんですか?」

「いえ、特に何も。それよりも、今日やってるんですか?この店」

「今日は定休日ですけど、、」

「そうですか、なら明日は?」

「いや明日も定休日ですね。予約入ってないんで」

「予約入らないと休むんですか?それって結構経済的に厳しくないの?」

「うん。大丈夫」

「ふーん」

「...分かったよ。せっかく来てもらったし、いいですよ」

「良かった」

「そこまでして、みたい夢があるんですね。楽しみです」

「はい。私は絶対に叶えた夢があります。死ぬ気でも、それが出来ないから」



なぜだか分からないが、僕は自分の過去を思い出していた。
忘れていたが、僕は、彼女のようだったことを思い出した。
あの頃の僕は、欲望に駆られ、全ての頂点を追い求めた。ある物に才能を持ち、それを天職として活躍する人はひと握りだが、少なからずいる。しかし、万物の才能を持ち、それを全て発揮している人間はこの世には一人もいない。僕はそんな人になりたかったのだ。プロスポーツ選手になるのなら、プロ野球選手、プロサッカー選手、プロバスケ選手、プロバレー選手、プロ水泳選手、プロゴルファー、全てのスポーツの選手となり、そこで頂点を取る。スポーツだけじゃない、勉学、芸術、あらゆる分野において1位になるために過ごしてきた。
実際、上手くいっていたと思う。でも、人間は進路を迫られ、どうしてもひとつの道を歩まされる。
そこで僕の叶わない願望は生まれた。

僕はある闇市のようなフリーマーケットで、ある男と出会った。なぜ闇市というような場所にいるかというと、この時の僕は、人生に絶望し、この人生を変えてくれるような物に出会いたかったからだ。つまりは、寂しい心の埋め合わせをするためにこのような場所に出向いていた。
一人の商人の男との出会い。それは運命の出会いだった。
こんな僕に、男はある商品を売った。
お金だけはあったから、ドリームマシンと言われた重々しい機械を僕は、買った。

男は言った。この機械を使うのはいいが、忠告だけはしておく、、この機会を使う代償として、自分のいちばん大切なものをその機械に食われると。

僕は、家に帰り、自分の研究室でこの機械を使った。忠告なんてどうでもよかった。それよりも僕は夢を叶えることに必死だったのだ。

僕はドリームマシンを起動し、ベッドに寝そべり、ヘッドセットを耳に当てた。

すると、意識は夢の中へと消えていった。

僕は、他の人よりも、過ごす時間が多くなっていた。分かりやすく言うと、普通の人が一日24時間あるのなら、僕には一日240時間あるようなものだった。

毎日僕は、いろいろな人生を過ごすことが出来た。
一日に僕は、様々な人生を送った。パイロットとして空を駆け巡れば、作家として様々な物語を綴り、夜はプロ野球選手としてナイターゲームに出場した。次の日は、YouTuberとして生配信を行い、毎回最多同時再生回数を更新する。昼には、俳優としてテレビドラマの撮影だ。夜はシンガーソングライターとして新曲の作成をする。また次の日は、起業した企業の社長として指揮を振るい、教師として教壇に立てば、消防士として人々を救った。またまた次の日は、医師として患者を見て、パティシエとしてお菓子を作り、裁判官として刑を言い渡した。他にも動物園の飼育員やピアニスト、漫画家、サッカー選手、プログラマー、研究者、マジシャン、探偵、宇宙飛行士、映画監督、料理人、アナウンサー、デザイナー、ギタリスト、通訳者、科学者など色々な仕事に就いた。

そして全てのプロフェッショナルとなり、世界から注目された。色々な人に慕われ、崇められた。その分野に引退したあとも、各分野で教え子を育て指導者として活躍した。

僕の野望が叶った瞬間だった。




起きると、僕は、普通に戻っていた。時間が長く感じなかった。

普通に戻ってしまったことに落胆したが、本当に自分があのような経験を、夢の中でできたことはとてもいいものだと感じた。それに、このマシンは夢の中と言えども、本当に過去にあったかのようにリアルで鮮明な映像が脳裏に過ぎるのだ。

代償もあると言っていた。それは何なのだろう。よく分からないが、僕はその日は何もやる気がしなかった。夢を見て、疲れたのだろうと思った。

しかし、何日経っても、僕の意欲は無いままだった。こんなことは初めてだった。僕はいつ何時でも、野望に満ち溢れ、何かを成すために、必死だった。それが無理だった時でも、何か暇を解消させるような目新しいものを探した。その気が全く起こらないのだ。そこで僕は気づいた。このドリームマシンが奪った大切なもの、それは僕の野望だと。

僕は、人としての欲望、野望、夢を失った。そんな僕は、考えたんだ。人の夢を見ることで、自分の欲望のようにすればいいのではと。つまりは、欲望の押しつけだ。自分では叶わないことに、夢を後押しという名義で、他人の夢に乗っかろうとする。そして自分の夢であるかのようにするのだ。そこにはなんの責任も問われないし、夢が叶ったらそれは両者にとって好都合だ。

僕は夢店屋を始めることにした。こんな怪しい店に、人なんて来るのかと思ったこともあったが、そんな心配は必要なかったと気づいた。なぜなら、人間は、欲望のまま、自分の可能性を信じ、そしてそれが叶うことを誰もが夢を描いているのだ。

「なぜ、私にそんな話を?」

「ただの気まぐれだよ」

へえ、、とだけ言って頷いて彼女は、俯いた。

僕は、自分の過去を捨てて、彼女の夢を見ることにした。

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