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とある少女の話 4

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「君が主役をやっていたリナリア嬢?」

本来ならば一人でいるはずのないこの時、声をかけてきたのは予想していない人物だった。

「はい、そうですわ」

声にそう答えて振り返ればそこに立っていたのは鮮やかな橙の髪の中性的な微笑みを称えた男子生徒が立っていた。
───クリビア・ガーデニー。
それは『七色の花姫』のキャラクターの中でも難攻不落と言われた、最も攻略難易度の高いキャラ。
『七色の花姫』のリメイク続作品にあたる『七色の華姫~虹の園で~』の追加キャラクターの一人だ。
『七色の華姫』は前作の流れはそのままに、新たに全キャラクターにイベントストーリーが追加され、新キャラクターの登場と隠しキャラが追加された。
元よりと称していた割には攻略キャラクターが五人しか居らず、七色になっていなかったのだ。
それをこの作品で存在しなかった赤、橙が追加されて隠しキャラクターに黒、追加ストーリー扱いとして白が追加された。
つまり新キャラクターは四人増え、七人どころではなくなるという販促のためなのだろうが、不思議な事になっていた。


話は逸れたけれど、何故彼が難攻不落だなんて言われているのかは彼の持つ能力にあった。
次期教皇だなんて呼ばれる彼は預言者として少し先の未来を知る予知能力を持っている。
千里眼のように意図して見れるものでは無く、ふとした瞬間突如として知る事になるのだ。
彼の家庭は冷え切っていて、彼を取り囲んだ人間のせいか人の本質がよく見えるようになってしまった事もあり、全てが他人事のように感じるようになっていった。
誰かに感情の重きを置かない彼はたまに見る予知を告げて享楽的に過ごしていた。
けれどたまたま予言をしたヒロインはどんな事にも一生懸命に取り組んで、予言を塗り替える。
そんなヒロインに興味を持ち、近付いて人間らしいヒロインに絆されていくのだ。
この絆されるまでが非常に長く、選択を少しでも間違えるとバッドエンドまっしぐらというなんとも理不尽なストーリーなのだ。
しかもこのバッドエンドというのも数種類存在していて、教会の人間に殺されたり、国と教会の戦争で国が滅びたりとかなり危険なものでたまったものでは無いルートだ。
そして彼の接触が始まるのがちょうどこの時、劇の後まで特定のルートに入っていないと彼が現れる。
彼との接触はなるべく控えたい、ここで私が死ぬ訳には行かないのだから。

「そう、よかった。間違ってたらどうしようかと思ったよ」

「……ええと…私に何か御用でしょうか……?」

とりあえずはシナリオ通りの台詞を。
下手に地雷を踏み荒らしたくはないし関わらないように上手く立ち回るしかないだろう。

「用って程ではないんだけど、一つ忠告?しておこうと思って」

シナリオ通りに答えたはずなのに彼から返ってきた言葉は思いがけないものだった。
忠告?シナリオにはそんな言葉無かったはずだけれど。

「君の大切に思う人、近いうちに死ぬかもしれないよ」

「っ……!?」

「詳しい事はよく分からないけど…君、凄く変な感じがするよ。不思議な……そう、この世界のものではないような」

怪訝そうに顔を顰める彼は私を見ているようで違うものを見ているような気もした。
この世界以外に目を向けるキャラクターが存在していたのか、仮にもここは乙女ゲームの世界だからとそこまで考えなかったけれど彼はもしかしたら……。
そこまで考えて私は考えることをやめた、これ以上知るのは怖い。
そんな事は私だってわかっている、追加キャラクターが来たということは動きづらくなったのは確かなのだ、はやく、早くなんとかしなくては。


そうでなければまたあの人は────


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