悪役令嬢に転生したら言葉の通じない隣国の王子様に好かれました…

市瀬 夜都

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ムーランの忠告を受けた私はそれでも尚、あとには引けず二人の後を追っていた。
黙って付いてきていたナズナは不安げな表情を浮かべ、おずおずとようやく口を開く。

「お嬢様……マグノリア様はかなりお強くお嬢様を止めておられたようにも感じたのですが……よろしかったのですか?」

「……ええ、今は一人ではないし、これから向かう先にも人はいるわ」

というのも『七色の花姫』ではイベントが起こる場所は特定の教室であり、パターンが把握しやすい。
きっとこちらの方向ならば私が今向かう教室で間違いないだろう。
そういう所が変わっていなければの話なわけだけれど。

「左様でございますか……」

「しっ、少し静かに」

通りすがった教室から男子生徒の声が聞こえる。
話したことは無いが観察していた分、これがクリビアのものだと気付くのに時間はいらなかった。

『僕は君の事自体をよくは知らないけれど……そうだなあ、僕は人より少し深くを知りすぎてしまうんだ』

ドアの薄い壁越しに鮮明に聞こえるその声は、まるで私がそこに居るのを分かっていながら話すようだった。

『だからそのには無いその違和感が気になって仕方がない』

その言葉に私は凍り付いた。
だって彼はと言ったのだ。

リナリアに言っているはずなのにどうしてこうも胸騒ぎがする?

いくら勘が良いと聞いていてもこの世界を主観とした考え方になるだろうとタカをくくっていた。
乙女ゲームの都合の良いヒロインのための世界。
それを逸脱した行動をするキャラクターものは居ないと、そう思っていた。

「ねえ、イリス・アルクアン・シエル公爵令嬢、君は一体何者なんだい?」

不意に開かれる扉、そこから現れたのは紛れもなく話し続けていたクリビア・ガーデニー。
部屋の中にはリナリアの姿は見受けられない、つまり私は彼によっておびき出されたのだろう。
そして同時に先の言葉は私に向けて放たれた言葉、彼は一体何者なのだ。

「っ……!な、な…にを仰っているのか皆目見当もつきませんわ」

「ふふ、誤魔化すのかい?自分でいうのもなんだけれど僕はこれでも預言者だなんて言われてる次期教皇だ、実力はそこそこにあると思っている」

「…………。」

形の良い橙の瞳は微笑みと共に三日月形に細められる。
その光景に私はただ、何を言うわけでもなく見つめ返す他無い。
出方に困っているのだ、特殊能力を持つタイプのキャラならばかわすこともきっと出来ないことではないのだろう。
けれどこの人が私と同じ転生者故の予言なら?
私が転生者だと勘づいての行動ならばこれはかなり足場を崩されそうな予感がする。
とにかくどちらであれ、何の関係もないナズナをこの場に置くのは良くないと考えた私は廊下に控えるようにジェスチャーするとそのまま中へ入ると扉を閉めた。

「貴方は……私に一体何を求めていますの」

仮に彼を転生者だと仮定したとして、私を転生者だと見破ったところで一体なんの目的があるのだろうか。
大人しく悪役令嬢をこなして破滅しろということなのか、はたまた何か別の目的故に私に声を掛けたのか。
それによっても次の行動は変わるのだ。

「それは僕の言ったことを肯定する言葉と取っていいのかい?」

「いいえ、私も貴方のことを知りません…故に貴方の行動の意味も当然知りません。ですからこうして意図を問うているのですわ」

そう、まずはこの人が何をしたいのかだ。
こうしてコンタクトを取るのなら少なからず私に何かを求めている、それが私にとって有益なのか不利益をもたらすのかはさておき理由は知りたい。
そう言われた目の前の彼はきょとんと瞠目すると、可笑しそうに微笑む。

「うーん、そこまで難しい意図なんてないんだけど……そうだなあ、強いて言うのなら興味…かな、好奇心と言ってもいいか」

「……はい?」

拍子抜けな理由に私はぽかんと開いた口が塞がらない。
いやいや、好奇心でこんなおびき出しとかします!?

「預言者だ、なんて言われているけど僕は神の意思なんて聴こえちゃあいない。僕が知るのは少し先の未来とその人の本質だけ、それを周りが騒ぎ立てただけの予言者にすぎない」

彼の言い方に引っかかる、と言わずにという表現に未だ拭えない転生者の可能性。
敵意は感じられないし、転生者だったらなんだという所ではあるけれど打ち明けるにはリスクが大きい。

「だから、その予言がどこまで合ってるのかとね」

「ええと……貴方の言う預言と予言の違いは良く知りえませんが……つまり?」

「君に一つ予言して証明してみようかなと」

言葉に合わせて立てる人差し指と緩い表情、緊張感のない彼はにへら笑う。
予言と言うくらいだから未来を指すのであろうそれの真偽など私にしかわからないのではないだろうか。

「君、このままだと宿命の因果に呪い殺されるよ」

それまでの緊張感のない表情は一気になりを潜め、私の目を見るようで遠くを見る彼の瞳にぞくりと戦慄する。
それにしたって宿命の因果?それは悪役令嬢としての私の因果ということ?

「ああ、でも───これを知った君が死んでしまわなかったら僕の予言が変わっちゃうね。」

まあ、未来を知っても変えられるかは分からないんだけどね。だなんて彼は笑っているが私からすれば笑い事じゃあない。

突然にも死刑宣告ですか!?私の人生!!

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