51 / 55
41 お探しの人はこちら?
しおりを挟むムーランの忠告を受けた私はそれでも尚、あとには引けず二人の後を追っていた。
黙って付いてきていたナズナは不安げな表情を浮かべ、おずおずとようやく口を開く。
「お嬢様……マグノリア様はかなりお強くお嬢様を止めておられたようにも感じたのですが……よろしかったのですか?」
「……ええ、今は一人ではないし、これから向かう先にも人はいるわ」
というのも『七色の花姫』ではイベントが起こる場所は特定の教室であり、パターンが把握しやすい。
きっとこちらの方向ならば私が今向かう教室で間違いないだろう。
そういう所が変わっていなければの話なわけだけれど。
「左様でございますか……」
「しっ、少し静かに」
通りすがった教室から男子生徒の声が聞こえる。
話したことは無いが観察していた分、これがクリビアのものだと気付くのに時間はいらなかった。
『僕は君の事自体をよくは知らないけれど……そうだなあ、僕は人より少し深くを知りすぎてしまうんだ』
ドアの薄い壁越しに鮮明に聞こえるその声は、まるで私がそこに居るのを分かっていながら話すようだった。
『だからそのこの世界には無いその違和感が気になって仕方がない』
その言葉に私は凍り付いた。
だって彼はこの世界には無いと言ったのだ。
リナリアに言っているはずなのにどうしてこうも胸騒ぎがする?
いくら勘が良いと聞いていてもこの世界を主観とした考え方になるだろうとタカをくくっていた。
乙女ゲームの都合の良いヒロインのための世界。
それを逸脱した行動をするキャラクターは居ないと、そう思っていた。
「ねえ、イリス・アルクアン・シエル公爵令嬢、君は一体何者なんだい?」
不意に開かれる扉、そこから現れたのは紛れもなく話し続けていたクリビア・ガーデニー。
部屋の中にはリナリアの姿は見受けられない、つまり私は彼によっておびき出されたのだろう。
そして同時に先の言葉は私に向けて放たれた言葉、彼は一体何者なのだ。
「っ……!な、な…にを仰っているのか皆目見当もつきませんわ」
「ふふ、誤魔化すのかい?自分でいうのもなんだけれど僕はこれでも預言者だなんて言われてる次期教皇だ、実力はそこそこにあると思っている」
「…………。」
形の良い橙の瞳は微笑みと共に三日月形に細められる。
その光景に私はただ、何を言うわけでもなく見つめ返す他無い。
出方に困っているのだ、特殊能力を持つタイプのキャラならばかわすこともきっと出来ないことではないのだろう。
けれどこの人が私と同じ転生者故の予言なら?
私が転生者だと勘づいての行動ならばこれはかなり足場を崩されそうな予感がする。
とにかくどちらであれ、何の関係もないナズナをこの場に置くのは良くないと考えた私は廊下に控えるようにジェスチャーするとそのまま中へ入ると扉を閉めた。
「貴方は……私に一体何を求めていますの」
仮に彼を転生者だと仮定したとして、私を転生者だと見破ったところで一体なんの目的があるのだろうか。
大人しく悪役令嬢をこなして破滅しろということなのか、はたまた何か別の目的故に私に声を掛けたのか。
それによっても次の行動は変わるのだ。
「それは僕の言ったことを肯定する言葉と取っていいのかい?」
「いいえ、私も貴方のことを知りません…故に貴方の行動の意味も当然知りません。ですからこうして意図を問うているのですわ」
そう、まずはこの人が何をしたいのかだ。
こうしてコンタクトを取るのなら少なからず私に何かを求めている、それが私にとって有益なのか不利益をもたらすのかはさておき理由は知りたい。
そう言われた目の前の彼はきょとんと瞠目すると、可笑しそうに微笑む。
「うーん、そこまで難しい意図なんてないんだけど……そうだなあ、強いて言うのなら興味…かな、好奇心と言ってもいいか」
「……はい?」
拍子抜けな理由に私はぽかんと開いた口が塞がらない。
いやいや、好奇心でこんなおびき出しとかします!?
「預言者だ、なんて言われているけど僕は神の意思なんて聴こえちゃあいない。僕が知るのは少し先の未来とその人の本質だけ、それを周りが騒ぎ立てただけの予言者にすぎない」
彼の言い方に引っかかる、視えると言わずに知るという表現に未だ拭えない転生者の可能性。
敵意は感じられないし、転生者だったらなんだという所ではあるけれど打ち明けるにはリスクが大きい。
「だから、その予言がどこまで合ってるのかとね」
「ええと……貴方の言う預言と予言の違いは良く知りえませんが……つまり?」
「君に一つ予言して証明してみようかなと」
言葉に合わせて立てる人差し指と緩い表情、緊張感のない彼はにへら笑う。
予言と言うくらいだから未来を指すのであろうそれの真偽など私にしかわからないのではないだろうか。
「君、このままだと宿命の因果に呪い殺されるよ」
それまでの緊張感のない表情は一気になりを潜め、私の目を見るようで遠くを見る彼の瞳にぞくりと戦慄する。
それにしたって宿命の因果?それは悪役令嬢としての私の因果ということ?
「ああ、でも───これを知った君が死んでしまわなかったら僕の予言が変わっちゃうね。」
まあ、未来を知っても変えられるかは分からないんだけどね。だなんて彼は笑っているが私からすれば笑い事じゃあない。
突然にも死刑宣告ですか!?私の人生!!
0
お気に入りに追加
1,957
あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる