悪役令嬢に転生したら言葉の通じない隣国の王子様に好かれました…

市瀬 夜都

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35 シナリオ通りとはいかない

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あれから時は過ぎて、遂に学園祭はやってきた。
あの日を境に誰かが連れ去られたり、私に危害を加える人は居なかった。
この分ならば学園祭はおそらく安全なのではないだろうか。
学園祭は貴族の学校ともあって警備はかなり厳しくなる。
妙な真似をすれば即捕まるので簡単には外部からの人間は手出し出来ない。
外部からは大丈夫にしても内部は学園の人間ということでほんの少し緩く、ヒロインは攫われるんだけど……。
既にそのイベントは起きてしまっているし、衣装は破かれることは無かった。
完全にシナリオは狂ってしまっている状況に私はどう行動したものかと困り果てていた。

「とうとう本番ですね……!ああ……緊張してまいりました……」

「なんでナズナが緊張してるのよ……出るのは私よ?」

確かに私も緊張していないといえば嘘になる、ゲームでは配役と劇のワンシーンしか出てこないので状況があまり分からず、ぱっとしないイメージなのだが観客席には既に人がごった返していた。
というのも、ステージ演目は私達の劇だけではないからなのだ。
ステージ演目は学園祭の中でも一番盛り上がるもので、注目度が高い。

うっ……今からでも胃に穴が開きそう。

衣装に身を包んだ私は舞台袖に立つとカーテンの隙間から観客席を見た。
ライトのついていない席は薄暗くて見づらいけれど、ぼんやりとグラジオの髪色である赤色とその隣には見覚えのある桃色、ミルトニアだろう。
観客席に見知った顔があるだけでも少しは気が楽になってくるあたりはいよいよ緊張しているのを自覚する。

「でも驚いた、ウィリアム王子が劇セリフちゃんと言えるようになっていたんたもの。普段はあんなに片言なのに……」

「お嬢様……それはおそらく……いえ、なんでもございません」

なんだか可哀想なものを見る目でナズナが私の事を見てくるのだけど一体なんだというのだ。
とうとう舞台の準備も終わり、本番は目の前に来ていた。
開演ブザーが鳴ると劇の開幕を告げるナレーションが入る。
そしてようやく赤色のカーテンが引かれ、舞台に明かりが灯り、舞台は始まった。








拍手喝采の元、舞台は何事もなく無事に終幕を迎えた。
演者挨拶に壇上へもう一度役を持つメンバーが一列に並び、紹介とともに礼をしていけば更に大きな喝采を受けた。
無事に劇が上手くいってほっとした、邪魔が入ることも無く道具や衣装の破壊もないと逆に怖くなるくらいに順調に終わっていった。
練習の成果が出せて嬉しくはあったが、現状今の段階まで一度もいじめや嫌がらせを目撃しなかった。

───そう、完全にシナリオが崩れているのだ。

これではなんのイベントにも発展しないし、私にとっては好都合だけどそれはそれで不穏で怖い。
いつ何が引き金になるのか、最早それはヒロインにかかっていると言っても過言ではないだろう。
私の運命……ヒロインに左右されすぎではないかしら……。

「姉さん!劇の姉さんも素敵だったよ!」

「とても素敵でしたわ、イリスお姉さま!」

いつの間にか観客席から控え室に来ていたのか、戻るなりグラジオとミルトニアが駆け寄ってきた。

「二人とも……来てくれていたのね、ありがとう」

メイン役を貰っていた面子は各々のファンや友人同士で話していてリナリアは手持ち無沙汰に立っている。
こんなことってあるのかしら……ディモルでさえリナリアに声をかけないなんて。

「……あの人って確かシンデレラ役の人だったよね…?主役なのに一人なんて……」

「誰も声をかけないなんて不思議ですわね…?」

そう、本来ならばこの場は攻略中のキャラクターが彼女に声をかけるはずなのだけど……。
おかしい、ローズ祭では確かにウィリアム王子のルートを匂わせていたのに学園祭では全くその動きが見られない。
好感度を落としていてもルート突入してしまえば、イベントで最低限の交流はあるはずなのに……。

「あ、聖女様だ。素敵な演技でしたよ」

どこかで聞いたような声が聖女様と私を指して言った。まだ私を聖女様だなんて呼ぶ人は誰だと振り返れば、胸元には赤のネクタイが揺れていた。

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