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とある少女の話 3
しおりを挟むああ、なんてことだろう。
なんてことだろう!!!
一番恐れていた相手がこんなに早く、
まさか今来てしまうだなんて!!!
「イリス様……っ!!」
令嬢としてだなんてもう今はどうだっていいと私は来た道を急いだ。
どこだ、彼女はどこから居なかった!!?
まだきっと大丈夫だなんてタカをくくって警戒を怠った数分前の私をぶん殴りに行きたいくらいに私は焦燥していた。
動き出した場所に戻ると辺りをくまなく探し回るがどこにも居ない。
置いてかれただけだったらどんなに良かったことか。
私ではなく彼女を狙う、これは紛れもなく彼なのだろう。
ああ、本当に計画が総崩れだ。
万全な状態でこの時を迎えるはずだったのに!!
このままでは彼女の身がまた危ない。
もう私は──あの時のような後悔はしたくない。
「どうしようっ……!!」
どこに行ってしまったのかさえ見当もつかない私は困り果てて両手で顔を覆い、座り込んでしまった。
はしたないだとかそんなことはもうどうでもいい。
バタバタと多くの足音が後ろから聞こえてくる。
きっと男性陣が追いかけてきたのだろう。
その中でも一番早く私の元に来たのはウィリアム王子だった。
一体どうしたんだと言うように王子は私の肩を掴むから、その瞳と目が合った。
不安に揺れる瞳、まるで私を鏡で映したかのよう。
「…………一体、何がどうなっているか話してもらいましょう、リナリア嬢。」
この国の言葉をさも母国語を話すかのように流暢な語調で、目の前の隣国の王子は喋った。
今までのカタコト言葉がまるで初めからなかったかのように変化した変貌に、私はその光景が混乱した脳では処理しきれずそのまま硬直した。
彼は最初から我が国の言葉を話せただろうか……?
「喋れ…て……?」
「今はそのような事など些事です、貴女の知っている事を話してください」
王子は抑揚の無い冷たい声ながら、言葉には違和感ひとつ無いしっかりとした言葉で私に言う。
まあ確かにそうだと、吹き飛んだ混乱はまた私の頭に戻る。
分からないのだ、何一つ。
「わからない……分からないのです!ですが……彼女の……イリス様の身に危険が及んでいるのは確かなんです……っ!」
どの人間が仕掛けてきたのかさえ私には分からなかった。
まるでタイミングを測ったかのように事が起きるだなんて。
「……あれ?貴方は確か…ウィリアム王子殿下……?」
「え……?」
どうして彼がここに?彼はまだこの学園にいるのはおかしいのに。
そこに現れたのはこの場に居るはずのない人物だった。
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