悪役令嬢に転生したら言葉の通じない隣国の王子様に好かれました…

市瀬 夜都

文字の大きさ
上 下
38 / 55

32 不穏の予兆

しおりを挟む


「ねえ、リナリア様。男性の方って事以外に何か特徴は分からないのかしら?」

「気を失わされたのでその瞬間のことしか……」

ざっくりと男だとしか分からないのでは探しようがないため二回目の犯行を待たなくてはならなくなってしまう。
そうなってからでは遅すぎるというもの、未然に防げなければ閉じ込めよりもひどい目にあうことだろう。
戸惑いつつも思い出すように考え出したリナリアを見ながら、私は思い当たることは無いだろうかとゲームのストーリーを振り返る。
だけど……閉じ込めの嫌がらせが先に来てしまっている以上、ストーリーも狂ってしまっている。
これではストーリーを思い直したところで参考にはならないかも……。

「そいつ、制服だった?」

ハイドは考える姿勢のまま、リナリアに問う。

「え、ええ……確かそうだったと思いますわ…袖が制服のものでした」

制服だったのならネクタイは学年色なので学年くらいは分かるかもしれない。
学年がわかったところで、各学年ごとに相当数の男子生徒が居るわけだけど…。

「ならネクタイはどうでした?」

私と同じことを考えていたのかエレン先生は私が聞く前にそう言った。
ちなみに学年色は前世まえの私の世界の認識と同じ赤、青、緑で学年が変わるごとに色が変わっていく。
順番は一年生が青、二年生が緑、三年生が赤と花が咲いていくイメージなのだとか。
そしてネクタイ、またはリボンにはクラスごとに違う花の刺繍が入れられるので学年章の代わりとなるのだ。
生徒達はクラス分けのそれを『学年花』と呼んでいる。
そのため学年が上がるごとに買い直さなければならないがそこは貴族の学校というもの、なんら苦ではないのだ。
私たちはまだ一年生なのでネクタイは青、クラスは二クラスで刺繍は青い花であるネモフィラとワスレナグサ、刺繍の違いは一輪の花か小さな花が集まっているものかで違いがある。
私のクラスはこの中のネモフィラ、一輪の花の方だ。

「…あ……!そうですわ、ネクタイは青で……学年花はワスレナグサでしたわ…!」

リナリアが顔は覚えては居なかったもののネクタイを覚えていてくれたことは大きい、ここまでくれば隣のクラスの男子生徒だということまでは絞れた。
けれど特定には至れない、何かもう少し情報があれば……。

「隣といえば……」

そういえば、件のロベリア嬢も隣のクラスだったような……?
たけど今回は男子生徒の仕業だし……。

「隣の出し物は楽器演奏だったから確かに誰か抜けていても誰も気付かないかも……」

ディモルはうーんと唸りながら必死に考える素振りをしている。
それにリナリアはクスリと微笑む。
おお……可愛らしい……流石はヒロインね…。

「隣のクラスなことは分かったのですし、練習に戻りませんか?私は大丈夫ですわ……」

悩み出してしまった皆を見てリナリアは困ったように戻ろうと促してくるが、皆納得がいかない顔だ。
けれどリナリアがなんとか言いくるめ、皆がようやく教室の帰路へ進み始めたその時、私は近くに怪しい人影を見た。
男子生徒のものと思しきそれは廊下の影へ姿を消すので慌てて私はそれを追った。

───皆が立ち去っていることさえ忘れて。

袋小路に入っていく影を見て私は追い詰めるように近付くと、逆光で姿が見えないなか青いワスレナグサの刺繍が見えた。
これはクロで間違いなしね……!!

「ふふふ……やっと、みーつけたぁ」

「っ!!んむぅ!」

刺繍を見た直後、何者かに急に後ろから羽交い締めにされると口に布を当てられる。

甘ったるい匂いと共にぐらつく視界。

ああ、私は相手にしてやられたのか…。

最後に耳にしたのはどこか懐かしい声色だった。


「探したよ───僕の『義姉さん』」

























* * * *




やけに教室に戻したがるリナリアに言いくるめられ、教室に向かっていた彼らはもうすぐ教室という所で違和感に気付く。
人数が一人足りない、いち早く気付いたのは周りをよく見ていたハイドだった。

「ねえ……さっきから一人足りないよね?イリス嬢はどこに……?」

そう言われて気付いたのか皆、不思議な顔できょろきょろと見回すがどこにも居ない。
その事態にサッと血の気の引いた蒼白な顔になったのはリナリアだった。
小声で何かを呟いているものの誰一人彼女の呟きを聞き取れるものは居なかった。

「っ!!!イリス様っ!!!!」

そう悲痛な声で叫びながら来た道を引き返して制服の長めのスカートなのにもかかわらず、裾を翻して全力で走っていく彼女に男性陣は戸惑ったが、自分たちも呑気に教室へ帰れる雰囲気でもない彼らは彼女を追って走っていった。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...