悪役令嬢に転生したら言葉の通じない隣国の王子様に好かれました…

市瀬 夜都

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27 はじめまして生徒会メンバー

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突如として現れた学園仕様のオドオドしたアルベリックさんから聞いた『生徒会の人』という情報を頼りに、私は生徒会メンバーが誰なのかを探っていた。
『七色の花姫』には生徒会メンバーもとい、生徒会というものの影すら無かったので存在さえ忘れていたけれど、学園なのだから生徒会は普通必ずあるものだ。
それにしても何故アルベリックさんはそんなことを知っているのだろう。

「アルベリック様はどうして生徒会の方の事をご存知なんですの?」

「それは仕事柄と言うところもありますが……私も生徒会メンバーなもので……」

なんか……すみません……と謝り始めてしまったアルベリックさんは困り顔だ。
本当にお城での一件以来、態度がガラッと変わるのは知っていてもイマイチ彼がよく分からない。
まるで二重人格レベルの違いなんだもの……。

「興味がおありなのでしたらこれから生徒会室に行くところなので…付いてこられますか?」

おずおずとアルベリックさんはそう言って私に提案してくれた。
部外者は立ち入れない生徒会室に行くまたと見ないチャンスに私は二つ返事で頷く。

「ぜひ!連れて行ってくださいませ!」





▷▷


「…と、言う訳で……お連れしたイリス公爵令嬢です…」

突然すみません……となんとも頼りなくアルベリックさんは生徒会室に入るなり私の事を紹介してくれた。
生徒会室、と言う割には豪奢な部屋に上品な調度品と長机、椅子のセットは端正に並べられてピシッとした独自の緊張感があった。
その長机の上には人がいると思しき各所に荘厳ともいえる書類の山がいくつも出来上がっていた。
貴族の学園とはいえやはり生徒会というものはどの世界も忙しいのね……。

「あー……いらっしゃいませ……イリス様……」

「なんてタイミングで学園の聖女様連れてきてんだよ…アルベリック……」

「こんなはしたない姿をお見せすることになるなんて……淑女失格ですわ……」

死屍累々の言葉がぴったり当てはまるグロッキーな光景に思わず両手で口元を押さえた。
いいえ、臭いんではないの……驚いただけで……

「今日も凄い有様ですねぇ……すみません…うちのバカが会長で……」

「仕方ないとはいえ人が足りないよ…」

「もう少し役職増やせないのかしら…いつか死者が出ますわよこれ……」

声を聞いてる分には男性二人に女性一人の声が聞こえてきている。
確かに生徒会メンバーにしては少ないような……?

「おや……一人足りなくはないですか…?」

「えー?会長が居ないんじゃなく?」

「会長が居ないのはいつもの事だろ」

今にも死にそうな声達がひぃふぅみぃと数えるアルベリックさんの声に反応しているが、皆会長が居ないのではと書類の隙間から会長の席と思しき書類の山を指した。

「いえ……これは……ロベリアさんですかねぇ…」

「あー、あの庶務のかぁ」

「あの方はもはや居ないものと考えるしかありませんわ…全くこの忙しい時に悪意ある行動としか思えませんもの……」

「女の子ってこわぁい」

「でもここに居る人間ならそう思うのではなくて?あんな子降ろして新しい方が欲しいですわ」

どうやらこの場に庶務のロベリアさんとやらが居ないらしい。
確かにこんな書類の山があればそう言われてしまうのも無理はないのかもしれない。

「どうせ生徒会長が目当てで生徒会に入ったのでしょう、あの方。生憎と会長は我々よりもお忙しい方、そんな事をしている時間なんてありませんのに」

「こっちにも来てくれたら言うことなしでついて行くんだけどなあ…会長……」

「まあ仕方ないさ、こんな雑務をあの方にやらせる訳にもいかないだろ~」

完全に仕事の合間の会話を聞かされるだけの時間に私は戸惑うしかなくアルベリックさんを見た。

「これは……会長がこの前お忍びしてたなんて言えませんねぇ……」

「ちょっとォ!それどういう意味!?聞こえてんだけど!!」

「あの人がお忍びなんて今に始まった事でもないっしょ~」

「はて、独り言ですよ…気にしたら負けです」

アルベリックさんは彼らの前に書類の山があって自身の表情が見えていないのをいい事に意地の悪い顔をしていた。
うわあ……性格悪い……それにしても生徒会長とは誰なのだろう。
口振りからブランシュ王子にも感じるけれど、学園にブランシュ王子は居るのだろうか。

「じゃあ……私はロベリアさんを探してから参りましょうかねぇ…」

「なっ、逃げる気かアルベリック!」

「人聞きが悪いですねぇ……ちゃんと仕事もあとでしますよ…?」

「あんな方連れてきてもなんの役にも立ちませんわ……それよりアルベリック様が手伝ってくださいませ…」

「イリス様がいらっしゃいますから…生徒会メンバーがきちんと集まるべきかと……」

「あ、ごめんね~イリス嬢、お見苦しい会話を聞かせてしまった」

そう言えば、と言わんばかりの声色の名前も知らないおそらく上級生と思しき生徒会メンバーの男子生徒は、書類の隙間からぬっと手を出して振ってきた。

「まあ、仕事してくれるってなら別に探して来てもいいけど…ロベリア嬢を呼び戻したって無意味だと思うよ?」

手を振ってきた男子生徒の声が面倒臭そうな口振りでそう言うが、ロベリアという令嬢はそんなにも嫌われる人なのだろうか。
だとするのならアルベリックさんが言う妙な動きをしていると言われる生徒会メンバーは彼女になるのだろうか。

「それじゃあ行ってきます…ある程度探して居なければ諦めて戻りますから頑張って下さい……」

それじゃあ行きましょうかとアルベリックさんに扉を開けられて先を促されたので大人しくついていく。
生徒会室へ続く廊下は、一般生徒が使用する区画から少し離れているのでがらんとしていて人気がない。
その影響か、前を歩くアルベリックさんの態度は凛としたお城での雰囲気に戻って(?)いた。
なるほど、彼を知る人が周りに居なければいいと言うわけなのね。

「これで悩んでいた何かの手掛かりにはなったか?」

「今の所はなんとも……お連れして頂いているのに申し訳ありませんわ」

やはり彼なりに私に何か情報を掴ませようとしてくれていたようだ。
だけど今の所はリナリアに直結しそうな出来事も情報もなかった。
噂のロベリア嬢とやらに会ってみなければ生徒会になにかしらの情報は無かったと断言はできないし、生徒会自体には何か悪巧みをする暇も余裕もなさそうに見えた。

あとはその人を見つけるだけね…。

前を歩くアルベリックさんの足取りは探している彼女の居場所を知っているかの如くしっかりとしていた。


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