悪役令嬢に転生したら言葉の通じない隣国の王子様に好かれました…

市瀬 夜都

文字の大きさ
上 下
30 / 55

どこかの少年の話

しおりを挟む


最初は純粋に彼女に好感を持っていた。




新たに家族になった彼女を一人の義姉あねとして好きだった。




義姉ねえさんは優しくて、いつも僕に幸せをくれた。




僕はそんな義姉さんを大切にしたい、幸せにしてあげたいと思っていた。




彼女が幸せなら僕はなんだって出来る気がした。




最初は本当にそれだけで良かった。





ただ、義姉さんが幸せならそれで。





「 か ご め 」




でもいつからか僕は義姉さんを想うあまり、正気を失っている事に気が付いたんだ。




最初はほんの些細な事、ほんの少しの間だけ。





「 か ご め 」





次第にそれは長くなって、僕は怖くなった。




だから僕は彼女を傷付ける前にと目の前から居なくなる彼女を追わなかった。




追えなかった、いつか彼女の大切なものでさえ壊してしまいそうで。




いつか僕が、僕自身が壊れておかしくなってしまいそうで。




「 か ご の な か の と り は 」




だけど彼女が居なくなった途端、僕は更におかしくなっていった。




隣に僕ではない男の人を連れて義姉さんは戻って来た。





思えばここから僕の『正気』は無くなってしまっていたのかもしれない。





父がそそのかすままに色んなことに手を掛けた気がするし、でもそれが悪い事だなんて微塵も思わなかった。




僕の愛しい義姉さんはそんな僕すら赦してくれると思って違わなかった。




「 い つ い つ で や る 」




だから、僕の大切な義姉さんを連れて遠くへ行こうとするあの男を手に掛けた。





でもそれじゃあ、義姉さんが大切にしていた物を取っちゃうから、一部だけ返してあげたんだ。





大切そうにしていたそれの「首」を。






義姉さんはずっとずっと僕のもの。






父さんにも、たとえこの世の誰に邪魔されても消してあげる。




「 よ あ け の ば ん に 」




義姉さんが泣き叫び続けて疲弊しきった頃、警察がやって来て僕と義姉さんを引き裂いた。





義姉さんは病院に連れて行かれたらしい。





僕がしっかり管理していたから、悪い場所なんて無いのにね。





「 つ る と か め が す べ っ た 」





だから僕はこんな事は本当は出来ればしたくなかったけど、世間が僕達の邪魔をするんだから仕方が無い。




僕達は永遠に一緒、たとえ血が繋がっていなくても、義姉さんが望まなくても、これは運命なんだよ。





僕はきっと生まれ変わっても義姉さんを探すし




「 う し ろ の し ょ う め ん 」




刑務所から逃走してだって、義姉さんが入院していたって僕は会いにいくよ。





これで義姉さんは永遠に僕のもの!






「  だ  あ  れ  」






義姉さんの病室に着くなり、義姉さんの忘れ物を届けてあげたんだ。




それからまた僕は義姉さんと永遠に一緒に居るために義姉さんをも手に掛けた。




大切に、念入りに、自らの手で息の根を止めてあげた。




首を絞めている時の義姉さんは苦しそうだったけどとても綺麗だった。




息が、脈が止まっていく感覚は人生の中で初めての経験で、僕は震えてさえいた。




『……ねえさんが……義姉さんが……悪いんだよ……こんな、こんな結末になったのは…こんな結末しか選べなかったのは……』




もちろん義姉さんを一人にしないために直ぐに僕も後を追ったけれど、死後の世界に希望なんてある訳ないのにおかしな事をやってしまったものだよね。






だけど、おかしいと分かっていても彼女を渇望するこの欲は止められない。





たとえこの命が尽きてもまた次を探すのだろう。




























彼女のベッドの上には遺書にも似た英語の手紙と紫の花が添えられていた。



その手紙には



『 Purple hyacinth said 

      "I'm sorry, please forgive me if" 』



と記されていたという。




しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

悪役令嬢は毒を食べた。

桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
婚約者が本当に好きだった 悪役令嬢のその後

処理中です...