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23 迷子の迷子のなんとやら
しおりを挟む「時にブラン様……あのタイミングで出てくるということは事が起こった時、見ていましたわね…?」
あまりにもタイミングが良すぎる、と私はブランシュ王子が出てきた時から思っていた。
わざと泳がせていたというのなら私達を囮にしていたといっても過言ではない。
本当に攫われてしまったらどうしていたのか…それこそ大事になってしまう。
公爵令嬢が裏取り引きで奴隷として売られた暁には一族の恥どころではない。
「ははは、すまんな。万全なら取引先も潰しておいたんだが…」
「そういう問題ではありませんっ」
「なぁに、若い青年に見せ場を譲ったまでさ」
「言うほど歳の差があるようには思えませんけれど……」
となるとウィルさんが助けに来ることさえ見越して行動していた確信犯ということになる。
まったく……良いように使われたということですね。
「ニールーヴァーちゃぁぁーーん!!!」
「っ!イリスお姉さんごめんなさい!」
「ひゃぁっ!?」
「んぶっ!?……なんとぉ……豊満なお胸様……ニルヴァちゃんいつの間にそんなに発育が……ってあれ?」
猪突猛進の勢いでニルヴァに向かって走っていた謎の女性の姿を確認した瞬間、私を盾にニルヴァは私の後ろに隠れた。
勢いのまま、彼女は盾にされた私の胸へ顔面からダイブしました。
「もう、エルナ!突撃してくるのやめてって言ってるでしょ!」
あれ、なんでしょう……デジャヴ
「だってぇ……ニルヴァちゃんってば可愛いから飛びつかざるを得ないんだよ~」
「体格差を考えて……」
この人が先程名前の挙がった『エルナ』さんか、一人で探しに行ってしまったと言っていた口ぶりから自由な人だとは思っていたけどここまでだとは。
すると彼女は私から離れるなり、ブランシュ王子の方を見るときょとんと瞠目する。
「んにゃ?ブラン王子じゃん、何してんのー?」
「えっ」
「はぁああ……まさか、こんな所で会うとはなぁ……エルナ王女」
「え、」
ブランシュ王子は額を押さえ呆れたように長いため息をついたが私達はむしろ困惑です。
ニルヴァと私は顔を見合わせて固まった。
なんだって……?王女??
王女が一体何をしているんだろうか…ニルヴァとの口ぶりを見れば彼女もラ・レーヌの人間となる。
であれば彼女はラ・レーヌ王国王女!?
「お、王女……!?」
「はぁい!私、ラ・レーヌ王国第一王女エルナ・ヒースでーす」
「これが王女なんて誰も信じたくないよね……」
ニルヴァは心底呆れたという顔でそう言った。
ということは彼女が王女なのは事実なのだろう。
ニルヴァ達はブランシュ王子が王子と言われてもあまり驚いた様子はない。
意外と彼女達はブランシュ王子の事は気付いていたのかもしれないな…。
「まさかお兄さんが王子様なんて思わなかった…イリスお姉さんは知ってたんですか…?」
「ええ……そもそも公爵令嬢の私をここへ連れてきたのはブランシュ王子ですから…」
「イリスお姉さんも貴族の人だった…!」
もうバレたなら仕方ないと私の正体を明かせば気付いていなかったニルヴァはさらに驚いた。
まあ一般市民だった前世がありますから紛れるのは得意です……。
「ありゃ、もしかしてお忍びだった感じ?」
「だった感じだ……それにしても、ヒース家はお前を外に出したがらなかったのに何があったんだ?」
「ん~まあニルヴァちゃんに会ってから色々ねぇ~今はこうしてニルヴァちゃん達と旅してるよん」
「相変わらず濃い人生送ってるな…お前……」
「ふふん!……もう、諦める事をやめただけよ」
王女とは思えないテンションと言葉遣いに私も困惑せざるを得ないけれど、自由に生き方を選んでいる彼女は少し羨ましい。
その身一つで行き当たりばったりに生きていくのは大変だろうけれど充実していそう。
「さてさて~みんなはしばらくしたら集合場所に来るだろうし…どする?ニルヴァちゃん」
「あ……」
「私ももう一人ではないし大丈夫よ?ニル」
困ったように私に視線を送ってきたので私は気を遣わせないように笑ってそう言った。
突き放すようで悪いけどこれ以上一緒に居ては彼らの合流に支障をきたすだろう。
「そっか……またどこかで会えるといいですね、イリスお姉さん!ありがとう!」
ほんの少しだけ残念そうにはしていたものの、聞き分けよく笑ってお礼を言ってくれた。
「ええ、またオルドローズに遊びに来てね!」
離れていく三人が見えなくなるまで手を振るとブランシュ王子がこちらを見ていたことに気づく。
「?どうしまして?」
「良かったのか?別れちまって」
「ええ、あのままではニル達が合流するのが大変ですもの、アルベリックさんは私達で探せばいい話ですわ」
「流石は聖女ってことかね、困っている奴に尽くしてやるなんざ貴族令嬢のやる事じゃあないな」
うまいこと言ってやったと言わんばかりのしたり顔でブランシュ王子はそう言うけれど、あの出会い方なら誰だって付き合わざるを得ないだろう。
別に私は小さい子は好きだしおかしなことをしたつもりはない。
「別に……人として当然の道徳的な行動ですわ、困っている人に手を差し伸べただけですもの」
「聖人じゃあないんだ、道徳なんて常識じゃない。その精神をもっと誇ってもいいと思うけどなぁ」
確かに言われてみれば貴族に道徳なんてないようなものだとも思う。
相手を蹴落とすことをなんとも思わない人達に道徳という概念さえないかもしれない。
「さて、十分に聖女と呼ばれたイリス嬢というものを知れたわけだし城へ帰るとするかね」
「え……アルベリック様はどうするのですか?」
うーん!と王子らしからぬ伸びをしてブランシュ王子は言った。
しかしアルベリックさんも探していないのに帰ってしまうの……?
「ああ、言っていなかったがアルは先程の人攫いを突き出しに行っているからここにはもう居ないぜ?」
「そ、そういう大事なことは早く言ってくださいまし……」
そんなこんなで迷子事件は無事解決していきましたとさ。
その後どこからか人攫いに攫われかけたと聞きつけたナズナにそれはそれは心配されました、ものすごく激しく。
本当になんだったんでしょうか、この招待イベント……。
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