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17 よく分かりませんね
しおりを挟むっていやいや、話していたって何も別におかしなことはないじゃないか、攻略キャラ同士の交流くらいはあるだろう。
「…………まあ、何でもいいけどさ。君がそう出るなら僕も本気で落とさせてもらうよ」
「…………。」
こ、これはもしや…水面下で起きているヒロインの奪い合いの牽制的なあれなんだろうか……。
ウィリアム王子はハイドを見てはいるものの表情を変えることもなく無表情のままで、ある意味圧力さえ感じる。
ひ、ひえ……美形が無表情って怖いものね……!
出るタイミングを完全に見つけられず困っているとハイドが私に気付いたらしく、目が合った。
途端に柔らかい表情に変わったハイドはへらりと笑ってこちらに手を振ってきた。
なんですかこれファンサされてます……?
反応に困ってピシリと固まると可笑しそうに王子そっちのけで笑った。
──王 子 そ っ ち の け で す よ ! !
王子は突然ヘラヘラと笑いだしたハイドの視線を辿るようにこちらを見て私に気付くと、何故か悲しげに眉を顰める。
え、私何かしましたか王子!?
話の邪魔をされたのが嫌だったとか……?
「それじゃ、僕のパートナーが来たのでこれにて失礼しますよ」
ヒラヒラと手を振りながら、ハイドは私の元へ来るなり壊れ物に触れるかのように私の右手を取ると王子の方へ振り返り、見せ付けるかのように笑った。
うわぁ……悪い顔してる……
言うだけ言ってスッキリしたのかその後ハイドは周りが羨むほど完璧なエスコートでダンスもリードしてくれている。
おかげでというかなんというか…周りの目が本当に痛いんです。
「王子とは何をお話されていたんですの?」
「え、本当に聞きたい?」
「えっ、」
視線に耐えるべく話題をと聞いても仕方ないだろう事を聞いてみることにした。
ハイドはそれを受けてイタズラを仕掛けた子供のように不敵に笑う。
「はは、真に受けないでよ。うーん…ただの世間話?返事はなかったけどね」
「返事がないのに世間話というのかしら…」
「ホント、大した話じゃないんだよ。返事も要らないような…ね」
「は、はあ……」
もっとあからさまに隠されるのかなと思っていたけれど濁される程度だったのが余計に気になる。
王子に向けた言葉を一言一句違えずにここで言って欲しいくらいだ。
「君の弟の……ええと…グラジオラスくん?って君と血は繋がっているの?」
「随分と唐突ですのね」
うちと交流が多いのに次期当主のグラジオのことはあまり知らないのかしら?
結論からいえば、グラジオラスと私は血が繋がっていない。
彼は私がどこかに嫁いだ後アルクアン・シエル家を継ぐ次期当主として親戚である分家から引き取られた養子の義弟で両親からは生まれていない。
一つしか歳が違わないので両親はそれを告げず、本当の姉弟として育てられてきていた。
私もこの真実を知ったのはつい最近の事で、だからといってなにが変わることも無く血の繋がった姉弟の様に接している。
その為、彼だけが両親とも私とも似ていないし髪色も真反対の赤色なのだ。
「いいえ、私とグラジオは血の繋がらない義姉弟ですわ。それが何か?」
「いや、君とは随分と似ていないから少し気になってね」
「似ていなくとも大切な弟ですわ」
義弟だなんて言わない、彼は紛れもなく私の弟なのだから。
そうハイドをまっすぐ見据えて言えば、きょとんと驚いたような顔でしばらく私を眺めていたがやがて眩しそうに笑った。
なんだかさっきからよく笑うなぁ。
これが彼の言う『どんな相手よりも良いひと時』とやらなのだろうか。
これはこれでなんだか新鮮とは思うけれど……うーん。
軟派キャラのイメージは最早仕事を放棄しているらしい。
「本当にこれは……聖女って呼ばれるだけはあるみたいだねぇ……」
考えに耽ける私にはハイドがぼそりと呟いた言葉は聞こえていなかったのであった。
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