悪役令嬢に転生したら言葉の通じない隣国の王子様に好かれました…

市瀬 夜都

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16 攻略キャラトリオってやつ

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エレンとのダンスが終わるとデジャヴな現れ方をしたディモルが勢いのままに「俺と踊って下さい!!」と清々しいまでに直角九十度の最敬礼でやってきたので、引き気味ながらも了承すると両腕のガッツポーズを頂きました。

試合に勝ったんじゃあるまいに……。

ここまでオーバーリアクションをされるとこちらまで可笑しくて笑えてくる。
ディモルとのダンスは彼の性格のおかげか会話がとても弾んだ。
レッドライト・グリーンライトの話に始まり普段は仲良くしているらしい攻略キャラ達の話や所々に垣間見えるファンクラブの話もあっただろうか、殆ど話しながらダンスを終えたイメージだった。
明るいキャラは明るい雰囲気を作るのが上手いのだなと改めて認識させられた気がしたひと時だったと思う。

「名残惜しいですがイリス様と踊れたなんて他の奴らに自慢出来ます!」

なんて満面の笑みで言うものだからそれは一体誰に自慢するつもりなのとは言えなかった。

うん、きっとファンクラブの会員達に自慢するつもりなんだろうなぁ…

「私も楽しかったわ、素敵なひと時をありがとう」

「はい!」

それは割と心からの気持ちなので笑顔でそう伝えれば、ディモルはぱぁっと子供が褒められた瞬間のように顔を明るくさせて笑った。
なんだかもう一人弟が増えた気分になりながら彼を見送ると、入れ替わるように後ろからムーランがこちらに歩み寄ってきた。

うっ……ムーランには嫌な予感しかしない……

些か失礼であるとは承知の上だけれど、本当にムーランが関わるとろくな事がない、主にファンという名の特殊趣味なご令嬢達がだ。

「…………ムーラン様。どうかされまして?」

「今回の新作の試作品が出来たんでな。お前に持ってきてやるついでにダンスにでも誘ってやろうかと」

「は、はあ……」

高圧的な口振りの割には随分と献身的な事を言うムーランに思わず面食らってしまった。

なにも試作品まで持ってこなくてもいいのに…買うとは言ってないんだし……

それにしてもあの温室から今日まではそれ程日が空いていない筈だけどそんなにいいインスピレーションだったんだろうか。

そう思い口走ったのが馬鹿だった。

「それにしても試作品が出来上がるのが早いんですのね?もう少し時間が掛かるものと聞き及んでいましたわ」

その言葉に彼の中で恐らく仕事スイッチが入ったのか、やけに饒舌にパウダリーがどうとかウッディーノートがどうのとか私には専門分野は流石に分からなさすぎて曖昧に笑いながら相槌を打つほかなくなってしまった。
ダンスの後に香水の試作品の香りを嗅がせて貰ったけれど主張のキツくない、それでいて華やかに甘く自然を感じる不思議な匂いだった。
そう伝えれば満足げにムーランは去って行ったとさ。



──と、まあここまではスムーズに事は進んでいてダンスも終盤に差し掛かっていた。

もう最後のハイドと踊って締めくくるも良し、まだ他に踊る人がいるならばその人と踊るも良しなのだけど生憎私は自分からは誰かを誘うつもりもないのでハイドを探していた。
辺りをきょろきょろと見回しながらハイドの後ろ姿を捉えると呼び止めるべく歩き出したのだが、彼は誰かと話しているようだった。
会場の喧騒にハイドの声は掻き消されており何を言っているのかは分からないが、近づいた事で彼が誰と話しているのかは見えるところまで来た。


その人物に私は瞠目する事となる。


何故ならばその人はウィリアム王子だったのだから。


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