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15 無言の理由は未だ知れず
しおりを挟む「うわあああ……姉さんとまだ踊りたい……ぐす……こんな時家族なのが恨めしい…」
「も、もう……ほら他のご令嬢達が貴方を誘いたそうに待っているわ…」
泣き真似とはいえ涙目のグラジオをあやしながら、期待の視線をそわそわとこちらに向けているご令嬢達に視線を向ければ恥ずかしそうに視線を逸らされる。
我が弟ながら素晴らしい人徳ぶりというべきかしら。
「ダンスが終わったら絶対また会いに来るね……姉さん」
「え、ええ……」
悲壮感たっぷりなグラジオだけど別に今生の別れという訳でもなし、私は微笑みながら彼を見送った。
そういえば、リナリアは王子と踊った後誰と踊ったんだろう?
ゲームシナリオでは好感度の高い攻略キャラと上から順に全員と踊るのが通例で今の彼女の好感度がどうなっているか分かるんだけど彼女はどこにいるのかしら…?
そう思って会場をきょろきょろと見回しているとリナリアと今まさに踊っていたらしいディモルがこちらの方へ向かってきていた。
やっぱり二番手は幼馴染ってわけね。
ふむふむ、とぼんやりリナリアが次に向かおうとしているところを眺めていると急に来るとは思っていなかった意外な人物の声が私を呼び止めた。
「イリス様」
「あら……?エレン先生」
「はは、ここでは先生じゃありませんよ?」
「あ……そうでしたわね、ギウム伯爵」
先生と呼びなれてしまっている私を見て可笑しそうに、されど上品に笑うその姿は王族と言ってもおかしくない程の気品だった。
流石は攻略キャラの中で唯一、伯爵当主としてその地位に就いている人だ。
「……でも、ギウム伯爵ではなんだか寂しいものですね」
「ええ……?で、ではなんと……?」
「エレンで構いませんよ」
なんだかそれは下心的な何かがあるようでしかないと感じるのはきっと彼の設定を知ってしまっているからなのだろう。
「ではエレン様で……」
「……そうきましたか」
歳の差的にもそう気安く呼び捨てに出来るものでもない訳だし、残念そうにされても困るのである。
「折角会えたのですし…一曲、踊っていただけますか?」
「はい」
優しく手を取られるとそんな事であろうとは思っていたけれど案の定ダンスのお誘いをされた。
まあ一曲踊ったところで誰にとやかく言われる訳でもないこの時間なら問題もないし断る理由もないので私はこくりと頷いた。
私はてっきりこちらにディモルが向かってきていたので次はディモルかなと思っていたのだがエレンが来るとは予想外だった。
そこそこ距離もあったしもしかしたら途中で他の人に捕まったのかもしれない。
「ウィリアム王子とはその後、まだお話されていないのですか?」
「ええ、不思議なくらい殿下が静かなのです」
「静か……なのはむしろ普通のようですよ。元々あまり深く交流される方ではないようなのでイリス様への反応がむしろ我々教師の間では驚かれています」
「え……?そ、うなんですの」
ゲームの中でのウィリアム王子は浅く広くクラスの人間と仲良くなり情報収集に徹していたイメージがあった私には、どうにもエレンの言うそれが腑に落ちない。
「ええ…王子に何か心境の変化でもあったのでしょうか」
もう少し様子を見てもいいんではないですか?と何を思ったのか励ますようにエレンは言った。
「そうですわね…」
きっとダンスでも王子と踊ることは無いのだろうと、そんな予感はしている。
踊ったとしても無言な時間を過ごすこと間違いなしだろう。
本人に何かしたのかと聞きたくても言葉の壁がそれをさせない、私から何かするという事が出来ない八方塞がりに困惑するしかない。
何か知らない間にやってしまっていたのかフラグが立ちつつあるからなのか…。
エレンとのダンスは思案の海に飛び込まされて終わっていった。
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