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10 勝利は誰の手に

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ムーランがよろめいた事で人数が減り、残るはハイドとディモルの二人となった。
結局最初に戻る結果に少々呆れつつも私は純粋にゲームを楽しみ始めていた。
二人になったことでディモルの優勢には変わりないが距離のあったハイドも並ぶ位置にまで来ている。

「グリーンライト!」

再び向き直ればやけに近くに感じる走る音、この調子ならばもう次で決着が着くことだろう。

「レッド……っ!」

最後の追い討ちだともう一度振り返ろうとしたその時、私の肩を誰かが軽く叩いた。

「捕まえたよ、イリス」

「っあああ~~~~卑怯だぞハイド!」

振り向きかけた顔の真横にはハイドの横顔があり、あまりの近さに驚いて私は瞠目した。
悔しそうな声の聞こえる先を見ればまたも転倒しているディモルの姿があった。

運動神経の良いディモルが転ぶなんて……足払いでも受けたのかしら…?

「猪突猛進で走ってるディムが悪いんだよ。ちょっとはココ、使わないとねぇ~?」

「くっ……ぬぬぬ……!」

ハイドは得意気な顔でこめかみをトントンと人差し指でつつくと、不敵に笑った。

───うわぁ、見てるだけで腹立つ~

しかもこれでパートナーはハイドに決定してしまった。
あんなにもハイドとの交流を避けてきたというのにこれでは両親にも仲が良いと思われてしまいそうだ。
その二次災害は不本意ではあるが、私がこのゲームの勝者をパートナーにすると言った手前変えることなんて出来ない。
今回はもう諦めるしかないようだ。

「それでは今回のローズ祭建国記念パーティーのお相手はハイド様にお願い致しますわ」

「喜んでお受けしましょう」

「………………。」

「くそォ……あともう少しだったのに…」

「まんまとハイドの策略にやられたな」

ハイドが仰々しく胸に片手を当てながら頭を下げてみせると未だ悔しそうなディモルを慰めるようにムーランがディモルの肩を叩いていた。

本当に仲が良いのやら悪いのやら……。

ナズナと共に彼らの二歩ほど後ろの方に立った王子は未だに口を開かない。
下手をすれば今日一日何も話してはいないんじゃないかというくらいだ。
話したくない日くらい誰にでもあるだろうけれどそれにしても静かな気がしてならない。

「…………?」

考えてもわからず時間は過ぎてゆき、競い合っていた面々も放課後という事で解散していった。
それに伴い、王子とも別れてしまったのだけれど……大丈夫だっただろうか…?
エレンには報告しなくてはならないので、ナズナと共に職員室へと向かっていた。

「エレン先生、いらっしゃいまして?」

「はい、ここに。」

レッドライト・グリーンライトゲームに時間を取られてしまった為にここに来るのも遅くなり、職員達はもう皆帰ってしまっているようでまたエレン一人だけが席に座っていた。

「随分遅かったですが何かあったのですか?もう寮に帰られてしまったかと思いましたよ」

「申し訳ありませんわ、ちょっとローズ祭の事で一悶着ありましたの」

それはそれは一日かけての一悶着でしたよ…などとは口が裂けても言えないので笑顔を取り繕うとそう言った。

「それは大変でしたね…どうですか、王子は誘えましたか?」

「あー……それが…」

私は今日あった私のローズ祭パートナー争奪戦の話をすると流石のエレンも苦笑した。
もう苦笑いしかないですよねこの話……

「そうだったんですね…それは……ふふ、大変ですね」

「笑い事ではありませんでしたのよ…その所為なのか王子とは本日一度もお話しておりませんわ。一緒には居たのですが…」

「そうでしたか、報告する内容もないのに御足労ありがとうございました」

「構いませんわ、それではこれで」

軽く裾を持ち上げ挨拶をすると私は職員室を後にした。
先生だけはフラグが立たなくて良かった、これでエレンまで参戦と来たらもう収集がつかない所だったわ。
彼とはこのまま先生と生徒の関係のままでありたい、切実に。
ひとまずはローズ祭のパートナーはハイドに決まったのだ、当日のパーティーではなるべくヒロインからは遠ざかりたいところだし今のうちに対策を練らなくっちゃ!


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