悪役令嬢に転生したら言葉の通じない隣国の王子様に好かれました…

市瀬 夜都

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01 何故なんでしょう?

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王子の指名はそう簡単に断れるものでもなく、私の静かな令嬢生活は儚くも終わりを告げた。
王子と行動を共にする、ということはヒロインに少しでも邪魔をしないという私なりの密かな誓いが思いっきり破られるということだ。
何しろ王子の指名で公爵家の私が一緒に居るのに身分の低い男爵家のヒロインが近付くことでよくあるイジメをする取り巻き達の格好のエサになってしまうのだ。
そうなれば抑止力的な不思議な力で私が本来あるべき姿である悪役令嬢の最悪のシナリオが動き出してしまう事だろう。
それでは私の努力が水の泡になってしまう、なんとかして邪魔をしない手立てはないものか……。
それもこれもこの王子のせいだと隣に視線をやると王子もこちらを見ていたのか視線がバッチリとあってしまった。
瞠目どうもくする私に王子は目が合ったことがそんなに嬉しかったのか、綺麗な顔が更に眩しいくらいに微笑む。

ああっ……眩しい…!圧倒的顔面偏差値の暴力…!!

発光物でも見たような眩しさに思わず勢い良く顔を逸らすと、これから訪れるであろう彼のルートを憂う。
隣国のウィスタリア王国と我が国であるオルドローズ王国は昔、長きに渡り戦争を繰り広げていたのだがウィスタリア王国出身の王族とオルドローズ王国出身の騎士が恋仲になり、結婚した事で休戦協定が制定され、現在では和平状態が続いている。
しかしそれも過去の事、再び戦争を引き起こさんとウィスタリア王国が息巻くためにとうとう第二王子であるウィリアム王子が密偵としてオルドローズ王国に語学留学しに来るのだ。
戦争に好戦的なのはウィスタリア王国の方でこちらの動き方次第で戦争を勃発させるつもりな為に彼のルートでしくじればウィスタリア王国の強襲によりオルドローズ王国は滅びてしまう。
最早ウィリアム王子のさじ加減ひとつといっても過言ではない。
なんたってバットエンドの彼はヒロインへの半ば憎しみに近い愛憎故に戦争を起こすのだから。
バットエンドだけで見るととんでもないヤンデレキャラクターに見えるが、よくある参謀第二王子のタイプなので非常に兄思いで聡明な努力家だ。
兄の天性の王たる才能を認め、支えるべく自分は王権を狙わずに諜報役や参謀役を買って出た。
本来ならばオルドローズ王国が攻め入りやすい状態であるのを確認したら様子を伺いつつ攻め込むタイミングを伝える間諜として潜り込むウィリアム王子だが、ヒロインによってウィスタリア王国の陰謀を止めさせる側にまわるのだ。
しかし、彼女と想いがすれ違ってしまうと本人でも自覚していない性格の歪みが現れてしまうのも相まって陰謀は最悪の形で完遂されてしまうのだ。

「その……ウィリアム殿下…何故私なのでしょう……もっとこう…おりましたでしょう…?」

「ラカタッダ オカルテッ シハケ ダミキ」

「え……ええと……?」

「ダンイ タリナ クヨ カナトミ キラカダ」

「う………………」

さっぱり分からないウィスタリア語で話されてしまい訳も分からず固まってしまった。
伝わっていないことに気付いたであろう王子は困り顔で申し訳なさそうにしている。
こればっかりは本当にどうしようもないし双方悪くは無いことなので途方に暮れるしかない。
これからやって行けるのだろうか…というか本当に理由も聞けないし何故私が選ばれたのかすら分からない。
国が違うわけだしベタな展開である面識イベントも起きていないだろうし昔会ってるとは思えない。
普通ならばここは流れ的にヒロインを選んでいるところだろう。
私が悪役令嬢をしないせいで何かおかしな力が働いてしまっているのだろうか…。

「ナイタ シナハンサ クタハトミ キドケイナ ジウツ ハバト コノクボ」

「え、っと…ともあれこれから仲良くいたしましょう…?」

「……!!!」

私がとりあえずと言った言葉に王子は感動するかのような反応を示したあとものすごい勢いでこくこくと首を振った。
なるほど、私の言葉は伝わるようだ。
最悪はイエスかノーで答えられる質問をすれば会話が成り立つのでほんの少しだけ希望が見えてきたような気がした。
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