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14-そして人は破滅に向かう
さらば我が家よ、また会う日まで
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視界が暗い
『鈴…………起き………………』
あまり目立った特徴の無いローテクの戦車だった、車体のやや前方に砲塔があり、長大な砲身を持つ。注目すべきはその砲身であろう、オレンジ色の光が線状に走っていて、何らかの魔力効果を持つのだと思われる。それはすぐに判明した、発砲時に噴き出す砲煙の量に比較して反動が小さすぎる。
そして今の発砲だが、砲口は鈴蘭を向いていた。いやぴったり照準が合っていた訳ではないだろうが、榴弾なら少しのズレは些細な問題である。近くに着弾すれば人は吹き飛ぶ、その点に疑問は無い。
着弾前に何かが割り込んできた、崩壊寸前のサイクロプスだと認識したすぐ後に大爆発を起こし、受けた側の脚が両方とも脱落、草原に破片をぶちまけ、完全に動きを止めてしまう。遠くで誰かの叫ぶ声が聞こえたが、誰のものだったか思い出す前に更なる爆音によってそれはかき消え、次弾を撃とうとしていた戦車が跳ねる。
『………ネ…ラは敵戦車をすべ…破壊……の……を求む』
空からの攻撃だ、戦車は火を噴いて沈黙し、それとサイクロプスとの間に人型の機械が降りてくる。
体長はおよそ5m、グレーを主体とした航空迷彩柄のボディを持つが、戦車の主砲と同じく青色の光が全身を走る。可動式のアームを介して肩に担いだ2基のエンジンは長さ4mはあり、ジェットエンジンに簡単なカバーを付けてそのまま装着した、という印象を受ける形状。頭部のカメラは複眼で、ブースターの間の背中にレーダーアンテナ、胸元にも小さなセンサーポッドを持つ。二の腕上部、肩に近い位置にメインエンジンをぐっと小さく連装化したブースターのノズルが2基ずつ、さらに両腰にも2基ずつあって、合計10基のブースターノズルから何か、少なくとも火炎以外の発光する粒子らしきものを噴射してホバリングしている。脚部のふくらはぎ付近にも埋め込み式のノズルはあるが、これは姿勢制御専用だろうか、今は稼働していない。
戦車を撃ったのは両手に握る砲だ、グリップを右手で、アサルトライフルで言うハンドガードのあたりに横向きで付いた持ち手を左手で保持する。弾薬装填はクリップ式、5発まとめて上から押し込むタイプで、メインエンジンの影に弾薬ケースがある。武器はもうひとつ、ブレードがあり、鞘は左腕に逆向き装着、ブースターと干渉しないよう角度がややあって、細身、おそらく両刃だろう。
『ま…北東…ヘカトンケイルに当たってくれ、射撃を開始されちゃたまらない』
『了解』
暗かった視界がやや明るくなった頃、アサルトフレームは飛び去っていった。混濁する頭でどうにか名前を思い出した後、ようやく自分が倒れているのに気付く。
『鈴蘭、起きて、時間がない』
「っ……」
体が重い、というか動かない、正座して痺れた時と同じ感覚だ。血が足りないのだろう、上体を起こすだけでも意識がまた飛びかけた。
「あ……ない……」
それにしたって時間がかかった、ふと左下を見てみれば左腕の肘から先が消えている、どうりで踏ん張っても全然持ち上がらなかった訳だ。血の流出元もここだろう、包帯のような布を分厚く巻いてあり、今は僅かに雫が落ちるのみだが。
「ほんとに生きてた」
傍にティオがいるらしい、駆け寄ってくる足音と声がする。間もなく後ろから背中を支えられる感触、視界に彼女の顔が入ってきて、瞳孔の状態を確認されたのち、鈴蘭から目を離して周囲を警戒。
「みんなは……」
「バトルドールを食い止めてる、もうすぐ私達もここを離れる。車、呼んでくるから、あんまり動かないで?」
何があってこうなったか、確かサイクロプス2と戦っていて、今の戦車…ではないな、残骸がふたつあるから別の個体だ。さっきの戦車に邪魔をされて、レールガンを撃たれて……あぁ。
勘付いてはいたが、やはりこの体。
「う…つぅ……!」
ティオが離れていった後、血まみれの草原に残った右手をつき、動くなと言われたばかりなものの立ち上がった。大丈夫だ、相変わらず気絶寸前だが、おそらく死にはしない。
ゾンビみたいな動きをしていると自分でもわかるくらいふらつきながらも、サイクロプスの残骸までどうにか歩く。もう完全に残骸だ、修理再利用の余地は無い。脚はもげてシャーシもひしゃげ、千切れたコードがバチバチと音を立てる。ボディも穴だらけ補修痕まみれで、今回以前にも激しい戦闘をしてきたのだろう。
「ごめんなさい……」
寄りかかって額を押し付け、ぽつりと一言、しばらく静止する。しかし何かが転げ落ちる音と人の呻き声がすぐ近くで聞こえると頭を上げ、ぼやける視界を動かして武器を探す。
残骸の内部にハンドガンを見つけた、右手でグリップを掴んで、セイフティを外した後、スライドを歯で噛む。弾丸はなんとか薬室に入ってくれて、片手で構えつつ反対側へ。よく見えないし、腕に力も入らないので戦えるとは思えないが、無いよりはマシだ。
「畜生…畜生…! どうしてこんな事になる…! 放っときゃよかったんだ……関わったって……ッ!」
戦車を操縦していた男のようだ、体の半分が焼けてしまっている。鈴蘭を見つけるやのたうち回るのをやめ、こちらと同時にハンドガンを持ち上げた。
「なあそうだろ? こんな世界で人と関わってどうすんだ? 俺もあんたも生まれた時にはこうだっただろ、人類が頂点取ってた時代なんか知らないだろ? こんな無駄な……ぁ…ぁぁああ…! 痛い! 痛いぃ…!」
「っ……」
だがすぐ彼はまた絶叫を始めてしまう、撃つ必要は無いと腕を降ろしかけ、
次の言葉を聞いてまた上げる。
「殺し…殺して……! 頼む楽にしてくれ! あんたらの勝ちでいいから! もういい! もう生きていたくない…!」
震える手で銃口を向ける、歯をくいしばって力を込め、
「こんな世界もう嫌だ……!…………」
乾いた銃声が鳴った、
彼は叫ぶのをやめた。
「おかしいでしょ……絶対……」
限界だ、目の前が黒く染まっていく。ハンドガンを落とし、膝から崩れ落ちて、草むらに体を落とす。
『ごめんね……』
最後に小さく、少女の声が聞こえていた。
『鈴…………起き………………』
あまり目立った特徴の無いローテクの戦車だった、車体のやや前方に砲塔があり、長大な砲身を持つ。注目すべきはその砲身であろう、オレンジ色の光が線状に走っていて、何らかの魔力効果を持つのだと思われる。それはすぐに判明した、発砲時に噴き出す砲煙の量に比較して反動が小さすぎる。
そして今の発砲だが、砲口は鈴蘭を向いていた。いやぴったり照準が合っていた訳ではないだろうが、榴弾なら少しのズレは些細な問題である。近くに着弾すれば人は吹き飛ぶ、その点に疑問は無い。
着弾前に何かが割り込んできた、崩壊寸前のサイクロプスだと認識したすぐ後に大爆発を起こし、受けた側の脚が両方とも脱落、草原に破片をぶちまけ、完全に動きを止めてしまう。遠くで誰かの叫ぶ声が聞こえたが、誰のものだったか思い出す前に更なる爆音によってそれはかき消え、次弾を撃とうとしていた戦車が跳ねる。
『………ネ…ラは敵戦車をすべ…破壊……の……を求む』
空からの攻撃だ、戦車は火を噴いて沈黙し、それとサイクロプスとの間に人型の機械が降りてくる。
体長はおよそ5m、グレーを主体とした航空迷彩柄のボディを持つが、戦車の主砲と同じく青色の光が全身を走る。可動式のアームを介して肩に担いだ2基のエンジンは長さ4mはあり、ジェットエンジンに簡単なカバーを付けてそのまま装着した、という印象を受ける形状。頭部のカメラは複眼で、ブースターの間の背中にレーダーアンテナ、胸元にも小さなセンサーポッドを持つ。二の腕上部、肩に近い位置にメインエンジンをぐっと小さく連装化したブースターのノズルが2基ずつ、さらに両腰にも2基ずつあって、合計10基のブースターノズルから何か、少なくとも火炎以外の発光する粒子らしきものを噴射してホバリングしている。脚部のふくらはぎ付近にも埋め込み式のノズルはあるが、これは姿勢制御専用だろうか、今は稼働していない。
戦車を撃ったのは両手に握る砲だ、グリップを右手で、アサルトライフルで言うハンドガードのあたりに横向きで付いた持ち手を左手で保持する。弾薬装填はクリップ式、5発まとめて上から押し込むタイプで、メインエンジンの影に弾薬ケースがある。武器はもうひとつ、ブレードがあり、鞘は左腕に逆向き装着、ブースターと干渉しないよう角度がややあって、細身、おそらく両刃だろう。
『ま…北東…ヘカトンケイルに当たってくれ、射撃を開始されちゃたまらない』
『了解』
暗かった視界がやや明るくなった頃、アサルトフレームは飛び去っていった。混濁する頭でどうにか名前を思い出した後、ようやく自分が倒れているのに気付く。
『鈴蘭、起きて、時間がない』
「っ……」
体が重い、というか動かない、正座して痺れた時と同じ感覚だ。血が足りないのだろう、上体を起こすだけでも意識がまた飛びかけた。
「あ……ない……」
それにしたって時間がかかった、ふと左下を見てみれば左腕の肘から先が消えている、どうりで踏ん張っても全然持ち上がらなかった訳だ。血の流出元もここだろう、包帯のような布を分厚く巻いてあり、今は僅かに雫が落ちるのみだが。
「ほんとに生きてた」
傍にティオがいるらしい、駆け寄ってくる足音と声がする。間もなく後ろから背中を支えられる感触、視界に彼女の顔が入ってきて、瞳孔の状態を確認されたのち、鈴蘭から目を離して周囲を警戒。
「みんなは……」
「バトルドールを食い止めてる、もうすぐ私達もここを離れる。車、呼んでくるから、あんまり動かないで?」
何があってこうなったか、確かサイクロプス2と戦っていて、今の戦車…ではないな、残骸がふたつあるから別の個体だ。さっきの戦車に邪魔をされて、レールガンを撃たれて……あぁ。
勘付いてはいたが、やはりこの体。
「う…つぅ……!」
ティオが離れていった後、血まみれの草原に残った右手をつき、動くなと言われたばかりなものの立ち上がった。大丈夫だ、相変わらず気絶寸前だが、おそらく死にはしない。
ゾンビみたいな動きをしていると自分でもわかるくらいふらつきながらも、サイクロプスの残骸までどうにか歩く。もう完全に残骸だ、修理再利用の余地は無い。脚はもげてシャーシもひしゃげ、千切れたコードがバチバチと音を立てる。ボディも穴だらけ補修痕まみれで、今回以前にも激しい戦闘をしてきたのだろう。
「ごめんなさい……」
寄りかかって額を押し付け、ぽつりと一言、しばらく静止する。しかし何かが転げ落ちる音と人の呻き声がすぐ近くで聞こえると頭を上げ、ぼやける視界を動かして武器を探す。
残骸の内部にハンドガンを見つけた、右手でグリップを掴んで、セイフティを外した後、スライドを歯で噛む。弾丸はなんとか薬室に入ってくれて、片手で構えつつ反対側へ。よく見えないし、腕に力も入らないので戦えるとは思えないが、無いよりはマシだ。
「畜生…畜生…! どうしてこんな事になる…! 放っときゃよかったんだ……関わったって……ッ!」
戦車を操縦していた男のようだ、体の半分が焼けてしまっている。鈴蘭を見つけるやのたうち回るのをやめ、こちらと同時にハンドガンを持ち上げた。
「なあそうだろ? こんな世界で人と関わってどうすんだ? 俺もあんたも生まれた時にはこうだっただろ、人類が頂点取ってた時代なんか知らないだろ? こんな無駄な……ぁ…ぁぁああ…! 痛い! 痛いぃ…!」
「っ……」
だがすぐ彼はまた絶叫を始めてしまう、撃つ必要は無いと腕を降ろしかけ、
次の言葉を聞いてまた上げる。
「殺し…殺して……! 頼む楽にしてくれ! あんたらの勝ちでいいから! もういい! もう生きていたくない…!」
震える手で銃口を向ける、歯をくいしばって力を込め、
「こんな世界もう嫌だ……!…………」
乾いた銃声が鳴った、
彼は叫ぶのをやめた。
「おかしいでしょ……絶対……」
限界だ、目の前が黒く染まっていく。ハンドガンを落とし、膝から崩れ落ちて、草むらに体を落とす。
『ごめんね……』
最後に小さく、少女の声が聞こえていた。
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