上 下
92 / 113
14-そして人は破滅に向かう

対話はできず

しおりを挟む
 で

 予定通り会談は始まったのだが

 話し合いは微塵も行われなかった

『これで全員ですかな?』

『ええ、これが首脳陣です、欠員ありません』

『よろしい』

 以上である

 シオンが持ってきたノートパソコンで会議室の様子は確認でき、押しかけてきた北連の代表は5人、それに護衛の兵士が2人だけついている。対するバンカーは10人、うち1人が総隊長で、武器を携行するのも事態を瞬時に察せるのも彼のみだった。総隊長の右手がハンドガンを掴んだのとほぼ同時に相手方の一番偉そうな奴が手のひらを上げて下ろし、サブマシンガンが連射を開始。

「クソが!!」

 あまりに急すぎて全員揃っていない、メルとアトラはシェルター奥にこもったまま、ヒナはそれを呼びに行っている。銃声が鳴り始めたかどうかのタイミングでシオンはC4を起爆、コンクリ壁を吹き飛ばした。モニター含めて視界は粉塵に覆い尽くされ、衝撃波が体を揺さぶる。

「何だこの小娘…! がっ……!」

 最初に突入したのはティオだった、視界ゼロを意にも介さず破口へ飛び込み、左右のエモノを抜刀、勢いよく水を撒き散らしたような音を出す。続いてフェルトが視界回復後に追従、数発を撃ち込んで、その後に鈴蘭も続く。

「隊長! リーダー!」

 最後の1人の首が撥ねられるところだった、ティオの右刀が振るわれ頭部が飛翔、残りはどちゃりと床に倒れる。こちらに背を向けた彼女は両刀を血払い、鞘に収め、総隊長に駆け寄るシオンへ視線を移す。仰向けに倒れる総隊長は胸に被弾しており、空気の漏れるような呼吸からして肺をやられたらしい。直ちにナイフで衣服を裂き、傷口を確認、ファーストエイドパックからチェストシールを選択して貼り付ける。しかし肺に穴が開いたならこれでは不十分だ、漏れた空気が体内で溜まって気圧を上げ、無事な肺や心臓を圧迫してしまう。さりとて傷口を塞がないと失血死、この場ではどうしようもない。

「ぐ……俺の他には…?」

「あー……全員死んでる」

「畜生…混戦になるぞ……早く行け、俺の事はいい、なんとかなる……」

「そういう訳にもいかねーんですよ。先に行ってください、ティーを見つけて防御体勢構築をしないと」

 防御、というよりは掃討か、会議室から廊下に出ると地上からの銃声が聞こえてきた。全域で戦闘が起きているらしい、無線通信に耳を傾ければ主に中央広場と北門が攻撃対象になったようで、ちらほらとティーの声も聞こえる、あと壁の外に布陣してるレアの悲鳴も。

「目的は何なんです!?」

「装備だろうねぇ。普通なら協力すればいいだけなんだけど、違う体制を持った集団の存在を認めちゃうと崩壊が始まる人達だし」

 実態は別として、共産主義とはすべての人間を平等とし、すべてのものを共有財産とする考え方である。これを実現するためには世界中に同じ思想を敷かなければならない、他の考えを認めてはならない。人間の欲求を全面否定する思想なので、個人資産の存在を少しでも認めてしまえば俺も私もと欲が爆発する。彼ら、北連はバンカーの装備と技術を欲しているのだが、今の体制を維持したままそれを達成するにはバンカーを屈服させるしかない訳だ。それを知っているから微塵も話し合いをしなかった、奇襲のタイミングだけを図っていたのである。

『よぉーし! 緊急事態につき鈴蘭! あなたも戦力として数えます!』

「はい!」

『フェルト、ティオ、鈴蘭がアルファチーム! ヒナ、メル、アトラがブラボーチーム! まず内部の安全を確保します! 外でも戦闘が始まってるみてーですがひとまず後回し!』

 階段を駆け上がり本部施設の1階へ、そこでまたティオが先行して外に飛び出し、直後に撃ち込まれた弾丸を難なく回避。左腰の刀を右手で抜いて、まず1人の胸を、次に左手で右腰の刀を垂直に振り下ろし、もう1人の頭を縦割りした。北連の兵士、バンカーのフリースジャケットよりずっと厚くて暖かそうなコート姿の人間は他にもいたが、重たそうな木製銃床のサブマシンガンがティオに向けられるよりずっと早くフェルトが発砲、3人を倒す。それの反対側から別の兵士が現れたので咄嗟にライフルを持ち上げ、近距離スコープ越しに照準、トリガーを引く。
 極端に軽い設定だったそれは標準に戻され、代わりにフルオートの発射レートを落とされている。1発ごとの発射音がしっかり認識できる程度の連射で弾丸が発射され、1人に命中、腹部から血を噴いて倒れた。他の兵士は建物の陰まで退がっていったが、外れた数発が赤光を纏って急速反転し追跡、複数の倒れる音を立てる。

「ぁ……」

 咄嗟に撃った、人を殺した。我に返って呆然としてしまい、フェルトに肩を掴まれなければまだ突っ立っていたろうが、半ば無理矢理回転させられ、いつも通りのふんわりした笑顔が視界に収まる。

「今あなたは私達と自分を守っただけ、いいね?」

「は…はい……」

 かけられた言葉はそれだけ、しかし押し寄せかけていた感情はかなり和らいだ。
 落ち着いて辺りを観察するとそこかしこに死体と血だまり、銃声と悲鳴がそこかしこで響く。ぼけっとした分だけ無用な死体は増え続けるだろう、落ち込むのは後だ、両手で頬を強く叩く。

『ヘリポートに攻撃が集中し始めたとのことです、ティーもそこにいます』

「すぐに向かうよぉ!」

 シオンからの情報に従って足を広場の反対側へ。
 敵味方入り乱れた大混戦に飛び込んでいく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ガチャ戦機フロンティア・エデン~無職の40おっさん、寂れた駄菓子屋で500円ガチャを回したら……異世界でロボットパイロットになる!?~

チキンとり
SF
40歳無職の神宮真太郎は…… 昼飯を買いに、なけなしの500円玉を持って歩いていたが…… 見覚えの無い駄菓子屋を見付ける。 その駄菓子屋の軒先で、精巧なロボットフィギュアのガチャマシンを発見。 そのガチャは、1回500円だったが…… 真太郎は、欲望に負けて廻す事にした。 それが…… 境界線を越えた戦場で…… 最初の搭乗機になるとは知らずに…… この物語は、オッサンが主人公の異世界転移ロボット物SFファンタジーです。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が怒らないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

決戦の夜が明ける ~第3堡塁の側壁~

独立国家の作り方
SF
 ドグミス国連軍陣地に立て籠もり、全滅の危機にある島民と共に戦おうと、再上陸を果たした陸上自衛隊警備中隊は、条約軍との激戦を戦い抜き、遂には玉砕してしまいます。  今より少し先の未来、第3次世界大戦が終戦しても、世界は統一政府を樹立出来ていません。  南太平洋の小国をめぐり、新世界秩序は、新国連軍とS条約同盟軍との拮抗状態により、4度目の世界大戦を待逃れています。  そんな最中、ドグミス島で警備中隊を率いて戦った、旧陸上自衛隊1等陸尉 三枝啓一の弟、三枝龍二は、兄の志を継ぐべく「国防大学校」と名称が変更されたばかりの旧防衛大学校へと進みます。  しかし、その弟で三枝家三男、陸軍工科学校1学年の三枝昭三は、駆け落ち騒動の中で、共に協力してくれた同期生たちと、駐屯地の一部を占拠し、反乱を起こして徹底抗戦を宣言してしまいます。  龍二達防大学生たちは、そんな状況を打破すべく、駆け落ちの相手の父親、東京第1師団長 上条中将との交渉に挑みますが、関係者全員の軍籍剥奪を賭けた、訓練による決戦を申し出られるのです。  力を持たない学生や生徒達が、大人に対し、一歩に引くことなく戦いを挑んで行きますが、彼らの選択は、正しかったと世論が認めるでしょうか?  是非、ご一読ください。

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

琥珀と二人の怪獣王 建国の怪獣聖書

なべのすけ
SF
琥珀と二人の怪獣王の続編登場! 前作から数か月後、蘭と秀人、ゴリアスは自分たちがしてしまった事に対する、それぞれの償いをしていた。その中で、古代日本を研究している一人の女子大生と三人は出会うが、北方領土の火山内から、巨大怪獣が現れて北海道に上陸する!戦いの中で、三人は日本国の隠された真実を知ることになる!

処理中です...