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13-"いつも"の終わりとユリウスの災難

蓄水

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「……」

「中隊長?」

 まただ、また誰かに狙われている。
 司令部施設前は他と比べ広めにスペースを取ってあり、人の目がある中で忍び込む事は不可能に近い。だというのに何なのだこの殺気は、まるで後頭部に銃口を突きつけられているようだ。

「後ろを警戒し続けて」

 ドアまでの間、ハンドガンを構えて少しずつ進んでいく。できるだけ物陰には近付かず中央を通って壁まで接近、そこから張り付くようにドアまで行って、ノブに手をかけた、鍵はかかっていない。

「後方良し」

「開けるぞ」

 部下が背中合わせにライフルを構える中、回したノブに力を入れて押し開ける。
 さっきより抵抗があったような気がしたものの、それを感じた頃にはブービートラップは作動していた。隙間に挟んであったらしい棒が外れ、強く張ったピアノ線を解放、反対側の閃光手榴弾のレバーを緩めた上で落っことす。

「ッ……!」

 床にぶつかって鳴ったそれを視認した瞬間、ティーは即座に振り返って倒れこみ、目を閉じて耳を塞ぐ。

「ああああ…っ!!」

 とてつもなく甲高い爆発音、部下は逃げ遅れてその場に崩れ落ちる。彼とは違い耳鳴りが残る程度で済んだので、すぐ立ち上がりハンドガンを

「がっ……!」

 向けるや否や、弾が飛んできた。
 肉眼でも捉えられる速度の弾だ、発射音はしなかった。弾頭は黄色、先端を青く塗ってある。魔力充填のゴム弾らしく、着弾直前に炸裂、アーク放電を起こした。受けた彼は大きく痙攣し、ほぼ完全に無力化される。黄色いゴム片と共にとっ散らかって、しかし傷は負っていないので意識から外し他の兵士へ制圧射撃を指示、弾の飛んできた方向を指差す。
 が、あっという間に逆制圧された、すべてあのゴム弾で、漏れなく電撃を食らって倒れ伏す。地面には大量のゴム片だ、格納庫と同じ惨状である。舌打ちしつつ屋内へ退避、勢いよくドアを閉めた。

「全員! 司令部前に敵複数! 制圧しろ!」

『こちらヘリポート! 同じく攻撃を受け現在迎撃ちゅ…………』

 すぐさま指示を飛ばすもマトモに返ってきたのはそれだけ、通信機は誰が誰に飛ばしたのかもわからない声でめちゃくちゃになる。程なくして複数の足音が向こう側で聞こえ、咄嗟に施錠、3歩退がった。
 さっきまでの無音っぷりとは打って変わってバタバタした足音だ、嬉々とした風にも聞こえる。さあどうするかと後ろを見て、地下に続く階段があるのみなのを確認、ならばひとまずこのドアにバリケードを築いて、外にいる部隊が帰ってくるのを待つ、できるのはそれしかない。

 と、思ったのだが。

「爆発するぞーぃ!!」

 それを実行に移す前にティーの体は吹っ飛ばされた、数メートル先、階段手前まで。ドアが吹き飛ぶ前に女性の声が聞こえてきたが、考える間もなく階段にずり落ちていく。そこからはひたすら回転だ、痛い事は痛いが血が出るほどではない勢いで下まで落ち、止まった後、動けず呻く。

「ず…ッ!」

「そぉーいっや!!」

 それでも駆け下りてきた足音にハンドガンを向ける。蹴り飛ばされたような衝撃がしてそれはどこかに行ってしまった、そもそも見ていないので撃っても仕方なかったろうが。

「フハハハハハ! たった12人の襲撃にも耐えられないとは役立たずめ! 指揮官が無闇に動き回るからこうなる!」

 と

 万事休す、神に祈りを捧げるか時世の句を詠むところである、普通なら。そう普通なら。

「…………ちょい」

「さてどうしてくれようかぐへへへへ! なに心配はいらない私はテクニシャンだ具合よくしてあげよう!」

「シオン」

「何がいい? 袈裟固め? 横四方固め? 見た目が非常に愉快なロメロスペシャル?」

「シオン…!」

「まぁいいとにかく全軍率いといて1個小隊に負けた罰だ! 腹筋しろ!!」

「おのれディケイドォォォォォォォォォォ!!」

 痛みが引いて、うつ伏せになっていた体を仰向けにすると、見えたのは銀髪、超絶上機嫌な少女だった、背後には他3人の姿も見える。事態を理解した瞬間に何でもいいから叫びたくなって口から出たのがそれ、続いて両足を押さえられたので両手を頭の後ろへ、腹部の筋肉のみで上体の上げ下げを繰り返す。

 つまりこれは訓練、テストの続きなのだ。後で聞いた話によると選ばれたのは戦績優秀な3部隊、筆記試験より前に決まっていたようで、だからこそあんなに念入りに巻尺しまくっていたのだ、それを不審に思われないお題も与えられている。1部隊のみが内部からのスタートを許され、もう1部隊は輸送隊のトラックに潜伏、薬品だけ入っていいっつったのにこの時招いてしまったようだ。そしてサーティエイトはヘリからのエントリーで、司令部が制圧された頃にヘリポートを襲撃、1人残らずあのゴム弾でしばき倒して、その後は……

「お疲れ様です、水持ってきましたーー」

「ちょっと待てキミもグルか!? そうかキミもグルか!!」

 鈴蘭の運んでいたコンテナ、もっと不審に思うべきだった。アレを移動手段としたに違いない、シェルター広場で遭遇した時も中にサーティエイトと連行されるねーちゃんずが入っていた筈。そこまではわかった。
 混乱する無線通信に偉いさんが割り込んで、これが訓練である事を通達、バンカーは急速に落ち着きを取り戻していく。階段を小走りで降りてきた彼女が給水ボトルを配り出したのを見るなり叫んで、「もっと激しく上げ下げすんだよオラァ!」「チクショウメェェェェェェ!!」なんてのをひと挟み。

「え!? じゃあちょっと待って!? 北からの武装集団って何さ!?」

「武装集団?」

 何をどうやってバンカーを敗北寸前まで追いやったのかは理解した、ではあの謎の通信はどんな意味があったのか。アトラなる人物の忠告は彼女らと一切の関連性を認められない、混乱させるだけの囮…ではなかろう、それは実在する。

「いや、知らん。何ソレ?」

 シオンは言いながらティーの足を離し、階段横にぽつんとあるロッカー、掃除用具入れを開けた。途端に中から縛られた人間が出てくる、「ぐへっ!」と倒れ、もぞもぞ動いて仰向けに。

「話が違う!」

「部下全員に話と違う事振っといて自分だけ話通りに進めようってのが間違いでしょうよ」

 立案者というか首謀者というか、総隊長が音頭をとった話だったらしいが、その彼も漏れなくしばかれていた。拘束をようやく解かれて息を吐く彼も武装集団に関しては「知らない」と言い、そのあたりでようやく全員に緊張が走って

『……応答せよ』

 通信機にまた知らない声が入り

『こちらは人類北部連合軍、フェロー大将である。バンカーなる集団よ、応答せよ』

 訓練が実戦へと変わる。
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