終末世界に少女とAIの見つけた生きるというすべてへの解答

春ノ領

文字の大きさ
上 下
87 / 113
13-"いつも"の終わりとユリウスの災難

始雨

しおりを挟む
 とりあえず部隊指揮の負担は3分の2になった、落ち着いて失踪の原因を考える。
 格納庫の小部屋を開けてみると中は仮眠室、特に変わった様子は無く、掛け布団をめくってみても妙な写真が数枚出てくるだけだった。うんうん唸りつつヘリポートまで出ると、周辺警戒する兵士の数が明らかにさっきより少ない、丁度よく居合わせた寄せ集めのグループだったので当人達は気付いておらず、指摘しても行き先は不明。
 何かが忍び込んでいる、それは間違いないが、AI兵器にしてはおかしい、死体が残らない。自然獣ビーストに丸呑みされたという訳でもなかろう、そんな巨大な生物が入ってきたらすぐわかる。

「やっぱり一番考えやすいのはバトルドール……うおっ……」

 シェルター広場をぐるぐる回って悩んでいると、いつの間にか目の前に20ftコンテナがあった。ゴルフカートに似た小型牽引車で引かれていて、座席には少女。ティーを認めるや車を停め、黄色い髪を翻しつつ降りる。

「なんだか大変な事になってますねぇ」

「えっと…何してるの?」

「工場行きの荷物を運んでたんですけど、受け渡しができなくて」

「ああ、ごめんね、すぐ済ませるから」

 珍しく笑っていない鈴蘭は走り回る兵士達を見ながら言った、そういえば荷物運びをすると言っていたか。運ぶべき荷物はティーが閉め出してしまったので、そのコンテナも出戻りだろう。

「敵は何なんです?」

「わからない、誰にも姿を見られたくない恥ずかしがり屋なのは判明してるけど。キミもあんまり出歩かないようにね、いや、というよりは1人にならないようにか」

「1人になると?」

「しまっちゃうおじさんが来る」

「きゃーー!」

 なんて、冗談飛ばすと鈴蘭は笑顔に戻って運転席へ、また手を振って走り去った。そしたらまたシンキングタイムだ、敵は何者か、次はどこを狙うか。

『こちら地下工場、誰か応答して、誰か』

「フェイ? どうかした?」

『閉じ込められた』

「えぇ……」

 ガラにもなく、ヘリの操縦席でもないのに焦った声出してると思ったら本気で焦るべき事案だった、いや失踪していないだけマシではあるが。彼女の現在地は真下、工場の一部を改装したロボット研究所だ、今ティーがいる地上からはエレベーターに乗るか階段を降りる必要がある。丁度良く階段の建屋が近かったので、鍵束から合う鍵を探しつつ、さっきの20ftコンテナより小さな建物まで歩み寄る。

「えっ何コレ」

 しかしその階段に繋がる格子の扉、カンヌキに見慣れぬ南京錠が3つばかし付いていた。元からある鍵を外しても当然扉は開かず、閉じ込められたというフェイを救出するのはここからは難しい。

「誰か、エレベーターを確認しておくれ」

『大小共に動きません』

「だよね……」

 相手の技量はこちらの遥か上を行っている、それは間違いない、何せ誰も姿を見ていないのだ。この場にいる全員の捜索をかいくぐり、今のところ総隊本部を機能停止にしてヘリポートを制圧、工場を武器庫ごと孤立させられた。

 オーケー、そろそろなりふり構うのをやめよう。死体を見ていないから実感が無いが、まったく無事というのは考えにくい。生きていたとしても、1分1秒でも早く救出せねば。

「フェイ、そちらの状況を詳しく」

『室内には私を含めて5人、メインの廊下に繋がる扉が外側からロックされてて開かない』

「外側から?」

『非常用の緊急システム、これが作動すると内側からは開かない。解除するにはデータセンターか司令部に生体認証登録された人がアクセスする必要がある、んだけど……その人は今、廊下で寝てる』

「寝て…?」

『伸びてるっていうのが正しいかも、すごい寝返り打ってるから生きてはいると思う』

 えー、では?
 フェイ達の閉じ込めは二重だ、工場内から出られなくなっており、ひとつ扉を挟んだ廊下にそれを解除できる人物。そして彼とティーの間には厳重にロックされた格子があって、エレベーターは動かない、緊急システムとやらの関連だろう。
 とりあえず腰の鞘からコンバットソードを引き抜く、片手で構えて少し集中すればパチパチと鳴り始め、振り降ろすと閃光を発した。甲高い音が接触と同時に起き、南京錠本体に数mmの傷を残す。恐ろしい硬さの錠前だ、並みの金属なら切断できるのだが。

「金属カッター無いかな……」

『ある』

「どこ?」

『私の手元』

「…………爆破しよう、誰かここにC4を持てーぃ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

我ら新興文明保護艦隊

ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら? もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら? これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。 ※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

アンドロイドちゃんねる

kurobusi
SF
 文明が滅ぶよりはるか前。  ある一人の人物によって生み出された 金属とプラスチックそして人の願望から構築された存在。  アンドロイドさんの使命はただ一つ。  【マスターに寄り添い最大の利益をもたらすこと】  そんなアンドロイドさん達が互いの通信機能を用いてマスター由来の惚気話を取り留めなく話したり  未だにマスターが見つからない機体同士で愚痴を言い合ったり  機体の不調を相談し合ったりする そんなお話です  

処理中です...