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13-"いつも"の終わりとユリウスの災難

暗雲

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 -国を建つるには千年の歳月も足らず-
   -それを地に倒すには一瞬にして足らん-



 ジョージ・ゴードン・バイロン
 1788~1824













「総隊長?」

「おっと……」

 朝早く、日の出から1時間も経っていない頃合いだろうか。
 その時ティーは洗濯物を干そうとしていた、今日は予定がみっちり詰まっていたので今のうちに片付けてしまおうと目論んだのである。

「ああ、おはよう、今日は早いな」

 普段より早起きしたのはティーだけではなかったようで、人声を聞きつけやって来てみればハーフトラックが1台、総隊長が取り付いていた。「これ絶対忘れたらいけない奴だろ…!」なんて言いながら荷台に置いたのは金属製の弾薬缶、言われたのはサーティエイトのいつもの4人、傍らには見送りの鈴蘭も見える。

「それは?」

「新式の弾薬だ、魔力の燃焼効率が良い。仕事ついでにテストしてもらおうと、な」

 いつの間に改良なんてしたのか、まったく耳に入ってこなかった。「じゃあ俺は司令部に戻る」なんて残し彼はそそくさいなくなってしまい、とりまティーはトラックの横へ。

「今日はどこにキノコ狩り行くのかね?」

「はははは、植物採集に弾なんかいるかバカ隊長」

 運転席のシオンに聞いたところ、数部隊を使っての廃都市の巡回。工場を奪取してからというもの、バンカー周辺に露骨に敵が集まってきたのだ。なので定期的に部隊を送る事を強いられており、近いうちに大規模な掃討を計画しているが、今のところは時間稼ぎ。

「いよいよ本格的に潰しにかかってきたのは間違いないでしょうな、既に我々は軍と呼べる規模にまで成長しつつある。拠点がもっと増えてくのを考えると縄張りを広げとかにゃあ」

「いい加減、壁も外側に移したいしね」

 バンカーの人数も指数関数的な肥大化が始まるだろう、幸いにして外縁部集落という既に開拓された土地があるのだから、両者を隔てる防御壁を取り払ってしまえばいい。そもそも現状、壁が攻撃を受けた時点で手遅れとなる防衛体制を敷いてしまっている、もはや景観を悪化させる以外の効果はなかろう、無用な人の出入りを制限したいならフェンスでいい。築くべきはもっと堅牢な城壁、そしてそれは外縁部集落を覆える規模でなければならない。

「とにかく安全確保だ、都市で廃品回収できなくなるのはまずい」

「いってらっせーい」

 ハーフトラックのエンジンをかけて彼女らは壁の出口へ向かっていった。途中で同任務の別部隊を荷台に乗せたりしつつティーの視界から消えていく。あれは先日、CQBテストでアイスクリームを勝ち取った4人だ、普段の戦果もかなり優秀で、重要な任務に駆り出される事が多かった筈。そしてサーティエイトも彼らほどではない、というかクセが強すぎるので隠れがちだが成績に関しては最上位クラスである、他の優秀な部隊と組む事はあまり無い、それこそ束にならないと帰ってこれないような危険な仕事でもなければ。

「……キミは今日はどうするの?」

「荷物運びの手伝いをする事になってます、工場からいろいろ届くらしくて」

 若干の違和感を感じつつも、まぁ禁止されている訳でもなし、そういう日もある。となれば残りは鈴蘭1人、聞いてみるといつも通り、明るく笑ってそう答えた。曇りの無い太陽が如き笑顔だ、こちらは何の違和感も感じない、この少女が腹に一物抱えてたりしたらもう誰も信じられなくなる。

「それじゃティーさん」

 誰も信じられなくなる。

「頑張ってくださいね!」

 誰も。

「…………何なんだ?」

 笑顔を崩さないまま、彼女は手を振って走り去った。今のは純粋な励ましか腹に一物抱えてたか、なまじ屈託が無いもんだからむしろ判断ができない。

 まぁよし、奴らの事だ、またつまらん話だろう。
 今はとにかく洗濯物を干さなければ。
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