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10-白い山の不殺の死神

氷谷に散る

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「俺の故郷は徹底した平等主義だった、古い言葉に言い換えるなら社会主義と言える。かつてこれは世界の半分を支配するまでに至りながら、最終的に内部からの崩壊を起こした社会モデルなのだという」

 距離5m、互いに銃を突きつけた。

「社会主義とはあらゆる格差、あらゆる不平等を排し、皆で手を取りあって生きていくという構想だ。人はあらかじめ仕事が決められ、スケジュール通りに働く。日々の食事もまったく同じ、何の職に就こうが給料は変わらない」

 ライフルを破壊された時に骨を折ったようだ、右腕をだらりと下げ、左腕でハンドガンを構えている。

「……どうして滅んだ?」

「その時既に人間社会は指導者なくして成り立つ構造をしていなかった、平等を謳いながらその社会モデルは階級を持っていたのだ。権力を手にした人間はもはや平等など求めない、これは人が感情を持つ以上必ず生まれる矛盾でな、完全平等を目指した"その国"は最初から、平等などとは程遠い、ほんの一握りを肥えさせるためだけの搾取装置だったのだよ」

 照準はぴたりとヒナの頭、トリガーに指はかかっている。こちらも同じだ、サブマシンガンが彼の同じ場所を狙う。

「仲間を探していると言ったな、すまないが我々は君達の友とはなり得ない。俺の事は報告するな、君達と我々が本格的な接触をした時、恐らく戦争が起こる」

「……わかった、わかったからそれ、下ろして」

「それは無理だ、俺は君を撃たねばならん」

「なんで……」

 ヒナとしてはすぐにでも下ろしたいのだが、ヴァシリが下ろさない限りこちらも下ろせない。
 谷の反対側でティオに拘束されたリーダーが撃て殺せと喚いているのは関係無い筈だが。

「ここで撃つのをやめたら俺は兵士として再起不能になる、俺にとって一度向けた銃を下ろすというのはそれほどの事なのだ」

「訳わかんない」

「わからなくていい」

 彼のトリガーにかかる指が動くのが見えた、背後でライフルの持ち上がる音もした。

「こうはなるな、世界を広く見たまえ、意思を持っているなら、君がまだ絶望を見ていないなら」

 銃声が鳴る、
 1発だけ、背後からだ。

 胸に穴が開いたヴァシリは谷底へ落ちていく、構える意味のなくなったサブマシンガンを下ろす。

人間おまえが撃つよかマシだろう」

「……」

「死ぬ気だったか?」

 横に立ったアトラが静かに言う。そちらには目を向けず谷の反対側を見れば、一際大きく騒ぎ出したリーダーがとうとうフェルトに静かにさせられている所である、合わせて説明と説得をすれば問題は解決しよう。

「死ぬまで生きると言ったろ」

「言った」

「ならそう気負うな」

 手の平が頭に触れて、そのまま抱き寄せられる。抵抗せず肩に頭を乗せ、少ししてから離れた。

「疲れた、帰る」

 この場を離れよう、後は放っておいても大丈夫だ。

 じき夜が明ける。
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