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8-Fake Fate Fay

0800

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 工場東部
 AGX-1 "ランドグリーズ"実験アサルトギア
 フェイ



「クソ!」

 フェイが乗り込んだ瞬間、コクピットハッチは閉鎖され、コンマ数秒遅れで120mm砲弾が足元に着弾した。操縦席に座る女性はフェイの腰に右手を回し抱き寄せると共に座席左側のスティックを手前へ、さらに右側のフットペダルを一番奥へ。両肩のアームが動いて2基のブースターを前へ押し出し、噴射、機体を後退させる。
 崩れた地面の瓦礫は地下施設へ落下、その衝撃でまた床が抜け、大きな穴が生まれた。それだけでは済まされず、至るところで爆発、崩壊を繰り返したために施設全体が強度を失っており、これをきっかけに工場中で陥没が発生し出す。

『ヒナちゃん落ちた!』

『先生! ヒナ! またジャミングですか!?』

「してねーよバカ! 喚いてないで探せボケども!」

 黒い長髪で、頭部左右に団子を付けた女性である。ノースリーブのセーラー然とした服と、腕にアームカバー、足にニーハイソックスを着用し、色はすべて黒ベース。後退動作を続けつつ左スティックを捻って機体を180度反転させ、フェイの腰から離した右手で右スティックのトリガーを引く、すぐにガトリングガンが発砲を始めて敵機を防御行動に移らせた。

「よしここに座れ!」

「ちょ……」

 一瞬の隙を突いて彼女はフェイを操縦席へと座らせた、両肩と腰回りでベルト3本、6点固定のシートベルトをきっちり締めたのち自分は後部座席へ、フェイとは背中合わせに座りタッチパネル式のコンソールを連打し出す。
 球状のコクピット内に隙間無くモニターが敷き詰められている、360度全方位に機外の景色が映し出されまるで座席が宙に浮いているようだ。座席周囲に存在するのは手元のスティック2本、足元のペダル2個、それから乗降のために脇へ退いていたコンソールパネルがスイングしてフェイ正面までやってくる。

「あの…どうすれば……」

「ああすまんが口で説明する暇が無い、お前の脳に直接"インストール"させて貰う、少し痛むかもしれんが耐えろ」

 と、今なんか脳とか言ったな、なんて振り返るや、座席の上部が展開を始めた。ただのパネルのように見えたが、フェイの頭を左右から囲んで覆うとすぐに締め付けるような鈍痛に襲われる。大部分はちょっと酷い二日酔いのようなもので、平衡感覚が狂う程度だったものの、最後の一瞬だけ針で刺されたような痛みが走り、咄嗟に片手を額へ当てた。

「っ……」

 パネルが格納されると同時に痛みは急速に引いていく、乗り込む前と比べやたらすっきりした視界で改めてコクピット内を見回すと、操作に必要なすべてが脳内に浮かんでくる。
 AGX-1、実用を目的としない実験機で、系列機、姉妹機一切無し、コードネームは盾を壊す者ランドグリーズ。これは人間の搭乗を前提とした兵器である、AIが作ったものにも関わらずコイツのOSはプログラムによる操作を拒絶する。最低でもコントロールスティックを握る手とアクセルペダルを踏む足が必要だ、それさえ満たせば全機能の1割は動かせよう。
 脳波検知による感覚操作、それがこの機体の目玉になる。当然、生体脳を持たないAIには使えない。コンソールパネルを何度か指で触れれば座席下部からアームに乗った受信パネルが現れフェイを取り囲む、その後試しに左腕をイメージしてみればランドグリーズの左腕が持ち上がり、前腕に仕込まれたタングステンブレードが展開された。

「よし動かせるな、私がサポートする、アレを仕留めるんだ」

「使い方はわかったけど……」

「やれなきゃ私のヒナが死ぬ!」

 私の?

「うぅ…ん……」

 仕方ない、彼女が危機的状況にあるのは事実、安全な救出のためにはあの敵機がとにかく邪魔だ、両手と両足をスティックとペダルへ。右足は痛むが、まだ我慢できる程度。このランドグリーズをもって敵機、フレスベルクを撃破する。

「じゃ、ガトリングパージ」

「おう。……は? いやいやおいおいおいあぁっ!」

 やると決めたからには徹底的に、であれば相手の装甲を貫通できないそれは不要である、背後の彼女が慌てふためく中右腕のガトリングガンが轟音を立ててその場に落ちた。そりゃ少しくらいはもったいないとは思ったが、ブースターに装着してあるロングブレードを使うためにもこうするしかない。
 まず左のコントロールスティック、これで機体の進行方向を決定する。ゲームと同じだ、正面の方位を維持したまま倒した方向に向かっていく。さらにスティック自体を捻れば横回転ヨーイングを始め、右前方へと正面を向けた。
 そしてそれに合わせて腰を落とし、右脚で踏み込む跳躍姿勢を作る、これは物理コントローラーを使わず思考によるイメージ操作で行う。最後にアクセルペダルを踏み込めばブースターは噴射され、ランドグリーズはフレスベルク右側へ飛び込む跳躍機動を実施した。丁度よく120mm砲弾と入れ違いとなり、発射の反動を抑え込んだ直後のフレスベルク真横に着地、慣性を利用して地面を滑りつつ90度右回転する。
 右腕を持ち上げ左肩へ、同時に左ブースターもアームを縦にスイングさせ付属の鞘を前面へ。柄を握れば応じて鞘が展開、黒い刀身を脱出させた。長さ7m、反りのある片刃で、鍔が無い以外は日本刀そのもの。

「つあッ!」

「ひ!?」

 この間、サポートすると言っていた謎の黒髪女性は何もしていない、ただ呆気に取られるのみである。袈裟斬りに振るわれたロングブレードはフレスベルク左腕に深く食い込み、しかしフレームを切断できず止まってしまった。すぐさま引いて、強靭にはとても見えない刀身を守る。フレスベルクも後退、120mm砲を突きつけ撃ち込んでくる。捻って回避、ロングブレードを下段の位置へ。

「クソ!!」

「おい何だこの女二重人格か!? シオン! シオーーン!!」

「高周波動いてない!! 最適化急げ!!」

「おぉーーぃ!!」
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