終末世界に少女とAIの見つけた生きるというすべてへの解答

春ノ領

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3-オルレアンの少女は湖畔に哭く

お静かにお願いいたします

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 ヘリコプターの眼下には湖があった、コンクリート製の巨大な壁によって川をせき止めた人工の湖である。要するにダム湖だ、貯めた水を少しずつ流す事で下流の水量を管理しつつ発電も行う事を目的に建設された。攻撃されたという問題の部隊はこれの復旧を試みていたらしい、いや、部隊と呼ぶには語弊があるが。
 構成人員のうち9割以上はダムから下流500mの位置にあるらしい居住区の住人だ、厳密には外部協力者となる。らしい、と言ったのは上空から確認できなかったからである、この地域は他と比べかなりの激戦地で、可視光どころか赤外線カメラまで標準装備する高機能AI兵器が大量に集結している。ヘリの機上から下を見てるだけの人間の肉眼に捉えられる程度の擬装では生き残れない、防衛に十分な戦力を保有しているようなイレギュラーでもなければ。
 というかそのイレギュラーが存在するからこの辺りが激戦地になっているのであって。

「よっしゃ救出作戦だ行くぞぉぉぉぉぉぉ!!」

「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」

「気合い入れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」

「うるせえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」

「ほんとにうるさいからやめて」

「「「はい」」」

 パイロットに言われちゃ仕方ない、機内は急に静かになった。
 ヘリには9人乗っていて、分別すると3種類の人間がいる。ひとつがヘリコプターの運用要員、言うまでもなくメインパイロットのフェイと、副操縦席に収まるなんか幼女。いつからいたかと言えば最初からずっといたのだが、専門用語以外を口から吐くところを見た事が無いのでよくわからない。それからドアガンナー2人、機体左右のガトリングガンをそれぞれ掴んでいて、固定メンバーがいるわけでは無く、今回は他全員女性というのもあってそのへん走ってたメカニックのねーちゃんコンビを捕まえてきていた。よくわからんがめちゃくちゃアホほどノリがいい、顔文字1個で表すと(>ヮ<)ノシ。
 もうひとつはサーティエイトだ、現場に降りるのは4人だけである。今回は大規模戦闘が最初から予想されているため前回前々回より装備が多い、大半は救援用の弾薬、食糧、医薬品で、到着後すぐ手放すものであるが、1人1本ずつ、使い捨てロケットランチャーを背負っている。口径66mm、1個2.5kgで、撃ち終えたら捨てる。なぜかというと今回既にサイクロプスの目撃情報があるからで、無い金を無理して(なんでかめっちゃ強調された)出して買ってきた。

 最後

「そんじゃま本題に入んべ。ダム施設内部には基地から派遣した工作兵5名を含む61名が立てこもってる、第1段階としてこれを集落まで退避させる。キミらの担当はダム上側だ、下流から見て湖右側を掃討してくれ」

 コールサイン"ティー"、白緑色の長髪で身長165cm程度、青基調でネイティブ柄のポンチョとデニム生地のショートパンツを着用、頭にはポンチョと同柄のヘアバンドを巻いている。武器は剣1本、黒い刃のコンバットナイフを剣身長70cmまで引き伸ばしたような外観で、鞘に納められ腰からぶら下がっている。ただし使う予定は無い、彼女は立ち位置的には中隊長だ、ヘリから降りず全部隊を指揮する。さっきの絶叫の音頭を取っていたのも彼女だ、軽い感じの笑顔をサーティエイトへ向け、シートベルトを解除、操縦席すぐ後ろに立った。

「対応するべき敵戦力は?」

「グリムリーパー2、ゴライアス1、人形およそ20、人形はバトルドールが過半を占める。あくまでキミらの担当のみね、戦域全体ではこれの6倍ほどいると思ってくれ。サイクロプスは工兵隊のハーフトラックをスクラップにした後は目撃されていない、どこから飛び出してくるかわからないから注意しろ。それから新種の兵器もいるとのことだ、ひとまず"ヘカトンケイル"と名付けられた」

「どんな?」

「巨大ヘラジカ、火力論者、砲身ハリネズミ」

「オーケーもういい」

 ヘリが降下に転じたらしい、僅かな浮遊感が全身を覆う。全員が立ち上がり、ライフルに初弾を装填、メルとヒナが救援物資の詰まるバッグを抱えた。降下先から見て着陸するのはダム中央、水門の直上あたりだろう、そこで発煙筒が緑色の煙を吹いている。

「掃討完了後、ただちにダムまで戻れ。工兵の退避が完了するまでは警戒待機、何も起きなければそのまま帰る。理解した?」

「完璧に」

「うむ、よし行ってこい!」

 着地数秒前、ティーは機体右側のドアを勢いよく開けた。一斉にヘッドギアの電源を入れ、エンジンの騒音が響く中接地を待たずシオンとフェルトが降りてその場で警戒、遅れて降りてきたヒナメルから、待機していた件の工作兵へ荷物が渡されるのを見届ける。

「エンジン停止!擬装ネット被せるから手伝ってー!」

 ヘリ組の喧騒を背に、受け渡し後すぐ走り出す。
 我々がダムを見る時は下流からが基本なので誤解しがちだが、実はダムは上流側が表である。上流から見て左右が左岸、右岸、下流側が背面となる。なのでさっきは右側と行ったものの、サーティエイトが向かうのは左岸だったりする。

「グリムリーパー!10時方向350メートル!」

 最初の接敵、ヒナが一番に発見した。湖と森の境目にひょっこりと顔を出すサイクロプスの子分みたいな4脚がグリムリーパーだ、あ奴と比べると走行速度が40km/hほど遅く、装甲が薄く、バカである。要するにザコ、ではあるが、丸い機体に乗る丸い砲塔には7.62mm機銃が2挺乗っていて、人狩り専門、ザコだからと後回しにしたら余裕で死ぬ。

『撃ちまぁーーす!!』

 砲塔中央の赤く妖しく光る単眼カメラに視認されるや4人とも何かしらの物陰へ身を寄せ、1連射を耐えてから反撃、と思っていたが、どれよりも早くドアガンナーの片割れが無線で宣言した。
 ところでなぜガトリングには銃身がいくつもあるかご存知だろうか、本来ひとつずつ交互でなければならない発射、排莢、装填のサイクルを別の銃身で同時に行え、ついでに冷却もできるからだ。そのため基本的にガトリングガンは単銃身式とは比較にならない連射速度を持つ。痛みを感じる前に絶命する事から無痛銃とも。
 あまりに速すぎて耳は追いつかない、発砲音は重なってぶぅぅぅぅぅん!と聞こえる。ほんの2秒ほどの射撃で100以上の通常弾がぶちまけられ、穴だらけとなったグリムリーパーは四肢の力を失い倒れ、ボン、と気持ちよく爆発した。

「よくやった!最高だ!弾代がフェイ持ちってのが特にいい!」

『もう自衛以外には撃たないでいいから』

「えぇーそんな事言わないでくださいよきりりんー!」

『次そのあだ名で呼んだら置いて帰る』

 それは嫌だな。
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