7 / 9
第6話『甘えん坊』
しおりを挟む本日最後の授業は、一般教養だった。
やはり学力の高さを謳っているだけあって、なかなかハイレベルな授業だった。
横目で東條朔を見ると、授業についていけないのか肘をついて眠っていた。
‥‥‥どうやら学力は低そうだ。
今週1週間は、学園の説明だとか諸々で通常通りの時間割にはならないらしいけど、渡された時間割を見る限りだと、午前中は基本的にこうした一般教養で、午後は体づくりや武術などの時間になるらしい。
ちなみに、学園内にもジムやプールなどの施設が充実してるから、授業を終えた後の時間は好きに利用していいとのこと。
私も今日から早速ムキムキになるべく鍛えるつもりなんだけど、明日は特別授業として、午前中みっちり体を動かすことになるらしいから、ほどほどにしておこうと思う。
無事1日を終えて寮に帰る最中、肩にポンっと手を置かれた。
振り返ってみると、そこには夕日に照らされた能天気チャラ男がいた。
「‥‥なに?」
そういえば、朝挨拶を無視して以降絡んでこなかったな。
私の肩に手を置いて引き止めたくせに、言葉が出てこないようだ。
困ったように眉を下げているように見える。
ただの能天気ではないのか‥?
「用が無いなら帰るけど?」
「杏里ちゃん‥俺のこと嫌い?」
ーーー私は、こいつが不思議で仕方ない。
初めてパーティーで顔を合わせた時から。
良いとこのお坊ちゃんなくせに、どうしてそんなにヘラヘラしていて、どうして偉ぶらないんだろう‥と。
もちろん金持ちみんなが偉ぶるわけじゃないのは分かってる。
だけどなんて言うか‥
あ、わかった。プライドが無いんだ。
「嫌いよ」
私は父に抗いたい。
でもこいつは、ヘラヘラしたままレールの上を歩こうとしている。
その気持ちが、私には全く理解できない。
東海林凛はあからさまに落ち込んだ。
本当に、まるで犬のような男。
「そんなに仲家の力を手に入れたいの?」
「え?」
「私は今時政略結婚なんて勘弁なの」
「‥‥‥とりあえず今はそれ置いといてさ」
下を向いていた東海林凛が、視線を上げてこちらを見た。
金髪外ハネのハーフアップで無造作に団子を作った髪型。キラキラ光るピアス。大きく開いた襟元。
パーティーでも、こいつはチャラさ全開で悪目立ちしてたなぁ‥。
「置いとくってどういう意味?」
「‥結婚云々関係なく、僕に守らせてね」
「‥‥は?」
「あと‥みんなにも結婚のこと言わないから‥
無視しないでほしい‥。僕のこと嫌いかもしれないけど、たまにでいいから、挨拶してほしい‥」
ええええええええ。
「な、なに?!キャラ変?!」
「僕だって傷付いたりするんだよ?杏里ちゃん!」
いや、そうかもしれないけど!
そうなのかもしれないけど!!
辛辣な言葉浴びせ続けても、永遠とヘラヘラしてる奴だったから驚きだ。
「‥わかったわよ」
「ホントッ?!」
「無視はしないけど、必要以上に絡まないでね?!」
私の知ってる東海林凛は、ひたすら能天気でチャラチャラしてて、ヘラヘラしてて、半永久的に絡んでくる男だ。一応念を押しておかないと。
「‥わかった。我慢するね」
「‥‥あと、そのガタイの良さとチャラい格好でメソメソしないでね。薄気味悪いから」
「僕泣いてないよ?!」
「わかってるけど!」
180㎝程あるだろうか。私よりも約30㎝も大きい男が、目の前でシュンッと落ち込む姿は見ていて居心地が悪い。
「まず第一に私は騎士になるけど!
私のこと守りたいとか言うんだったら小さいことでへこたれないでくれる?!」
昨日までは完全に私が被害者だと思っていたのに。
これじゃあまるで私がただの辛辣なドギツイ女だ。
「うん!僕がんばる!」
この見た目で一人称が僕なのも未だに慣れない。
「じゃあね。また明日」
「えっ?一緒ご飯食べようよ」
なんでここで「えっ?」って言えるんだよー!
やっぱりこいつは正真正銘のお坊ちゃんで、甘えん坊なんだろう。なんとなく、そう感じた。
「私まだお腹空いてないから、あとで食べる」
「じゃあ待ち合わせするっ?」
「しない」
ガーン、とショックを見せる東海林凛にあっかんべーをしてその場を去った。
東海林凛も、家を離れてこの奇妙な学園に来たことで色々と不安だったのかもしれない。
‥昨日あまりにも能天気すぎて、そんなこと微塵も感じさせていなかったけど‥。
結婚は絶対しないけど、これからは少しくらい優しくしてあげよう‥。
ミジンコくらいだけ‥。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる