騎士養成学園のお姫様

茶歩

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第6話『甘えん坊』

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本日最後の授業は、一般教養だった。
やはり学力の高さを謳っているだけあって、なかなかハイレベルな授業だった。

横目で東條朔を見ると、授業についていけないのか肘をついて眠っていた。
‥‥‥どうやら学力は低そうだ。


今週1週間は、学園の説明だとか諸々で通常通りの時間割にはならないらしいけど、渡された時間割を見る限りだと、午前中は基本的にこうした一般教養で、午後は体づくりや武術などの時間になるらしい。


ちなみに、学園内にもジムやプールなどの施設が充実してるから、授業を終えた後の時間は好きに利用していいとのこと。
私も今日から早速ムキムキになるべく鍛えるつもりなんだけど、明日は特別授業として、午前中みっちり体を動かすことになるらしいから、ほどほどにしておこうと思う。



無事1日を終えて寮に帰る最中、肩にポンっと手を置かれた。
振り返ってみると、そこには夕日に照らされた能天気チャラ男がいた。



「‥‥なに?」



そういえば、朝挨拶を無視して以降絡んでこなかったな。



私の肩に手を置いて引き止めたくせに、言葉が出てこないようだ。
困ったように眉を下げているように見える。


ただの能天気ではないのか‥?



「用が無いなら帰るけど?」


「杏里ちゃん‥俺のこと嫌い?」



ーーー私は、こいつが不思議で仕方ない。
初めてパーティーで顔を合わせた時から。


良いとこのお坊ちゃんなくせに、どうしてそんなにヘラヘラしていて、どうして偉ぶらないんだろう‥と。


もちろん金持ちみんなが偉ぶるわけじゃないのは分かってる。


だけどなんて言うか‥
あ、わかった。プライドが無いんだ。



「嫌いよ」



私は父に抗いたい。
でもこいつは、ヘラヘラしたままレールの上を歩こうとしている。


その気持ちが、私には全く理解できない。




東海林凛はあからさまに落ち込んだ。
本当に、まるで犬のような男。




「そんなに仲家の力を手に入れたいの?」


「え?」


「私は今時政略結婚なんて勘弁なの」


「‥‥‥とりあえず今はそれ置いといてさ」



下を向いていた東海林凛が、視線を上げてこちらを見た。
金髪外ハネのハーフアップで無造作に団子を作った髪型。キラキラ光るピアス。大きく開いた襟元。


パーティーでも、こいつはチャラさ全開で悪目立ちしてたなぁ‥。


「置いとくってどういう意味?」


「‥結婚云々関係なく、僕に守らせてね」


「‥‥は?」


「あと‥みんなにも結婚のこと言わないから‥
無視しないでほしい‥。僕のこと嫌いかもしれないけど、たまにでいいから、挨拶してほしい‥」



ええええええええ。



「な、なに?!キャラ変?!」


「僕だって傷付いたりするんだよ?杏里ちゃん!」


いや、そうかもしれないけど!
そうなのかもしれないけど!!
辛辣な言葉浴びせ続けても、永遠とヘラヘラしてる奴だったから驚きだ。


「‥わかったわよ」


「ホントッ?!」


「無視はしないけど、必要以上に絡まないでね?!」


私の知ってる東海林凛は、ひたすら能天気でチャラチャラしてて、ヘラヘラしてて、半永久的に絡んでくる男だ。一応念を押しておかないと。


「‥わかった。我慢するね」


「‥‥あと、そのガタイの良さとチャラい格好でメソメソしないでね。薄気味悪いから」


「僕泣いてないよ?!」


「わかってるけど!」


180㎝程あるだろうか。私よりも約30㎝も大きい男が、目の前でシュンッと落ち込む姿は見ていて居心地が悪い。


「まず第一に私は騎士になるけど!
私のこと守りたいとか言うんだったら小さいことでへこたれないでくれる?!」


昨日までは完全に私が被害者だと思っていたのに。
これじゃあまるで私がただの辛辣なドギツイ女だ。


「うん!僕がんばる!」


この見た目で一人称が僕なのも未だに慣れない。


「じゃあね。また明日」


「えっ?一緒ご飯食べようよ」



なんでここで「えっ?」って言えるんだよー!


やっぱりこいつは正真正銘のお坊ちゃんで、甘えん坊なんだろう。なんとなく、そう感じた。



「私まだお腹空いてないから、あとで食べる」


「じゃあ待ち合わせするっ?」


「しない」


ガーン、とショックを見せる東海林凛にあっかんべーをしてその場を去った。




東海林凛も、家を離れてこの奇妙な学園に来たことで色々と不安だったのかもしれない。


‥昨日あまりにも能天気すぎて、そんなこと微塵も感じさせていなかったけど‥。



結婚は絶対しないけど、これからは少しくらい優しくしてあげよう‥。


ミジンコくらいだけ‥。



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