騎士養成学園のお姫様

茶歩

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第4話『騎士志望の御令嬢』

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膝の上でグッと手を握り締め、黒髪に向き直りジッと見据える。
黒髪は私の視線に気付いたのか、こちらを訝しげに見ている。


小さく深呼吸をして、頭を下げたその時だ。



「なんなのお前、それ癖?」



黒髪の問いの意味がわからずに頭を上げる。



「な、なにが?」


「‥手」


ハッとして固く結んでいた手を開く。
ジトリ、と今度こそ血が流れた。


ーーーやってしまった。
昨日黒木に言われたばかりだったのに。



「痛くないわけ?」



黒髪は以前訝しげな表情のまま。
きっと私は、間違いなく『変人』のレッテルを貼られている。


「‥‥あの、今朝はごめんなさい」


「‥‥‥」



ここで謝られると思っていなかったのだろう。
黒髪はポカーンとした表情を浮かべた後、更に表情を顰めていった。


「血‥止めたら?」


ーーーごもっともです。




私はバッグの中から、止血セットポーチを取り出して、慣れた手つきで処置を施した。
この学園への入学に向け、日常のありとあらゆる行動に気を配り(というか黒木が物凄く気を使ってた)、高級クリームで傷跡を消し(というか黒木が塗りまくってた)、私の『欠陥』を隠し通そうとしていたというのに。


自室に戻ったら、ここまでかという程に深爪をしよう。
ただ手を握り締めたというだけなのに、血が出てしまうなんて‥。
配慮を怠っていたわ。


絆創膏をしたあとに、包帯で更に皮膚をガードする。
両手に巻かれた包帯‥‥


なんだか武術の達人風‥‥!




「いや、なんで喜んでんの」


黒髪の問いでまたしてもハッとする。
どうやら別世界に行っていたらしい。
キリッとしてる風に見せるつもりが、元の緩んだ表情が顔に出していたらしい。


「‥なんでもないわよ」


「あっそ」


「言っとくけど私、自傷行為したわけじゃないから」


「‥‥」


じゃあ他に何があるんだ、と言った表情だ。



最悪すぎた初対面をなんとか回復させようとしたけれど、逆効果だったようだ。

とはいえ、出会ったばかりの人に突然私の秘密を暴露するのもどうなんだろう。





「はーい、みんな初めまして!」


突然、大きな声が響いた。
ハキハキとした明るい声。どうやら元気のいい若い男の先生が担任らしい。


「担任の山下琥太郎(やましたこたろう)ですー!

慣れない学園生活は不安だらけだと思うけど、とりあえず四月中はこの学園に慣れてもらうための期間だから、安心してね。
今日は自己紹介をしたあと、軽いテストがあります!」


仮にもVIP高であり、日本屈指の名家出揃いの生徒たちが多く集まるこの学園だ。
教師はもっと堅苦しい感じの人たちばかりかと思っていたから、なんだか意外だった。


まるで、小学校教諭‥
いや、子供向け番組のお兄さんのような感じだ。



「ちなみにテストは、あくまでも現段階の学力を見るものだから‥あんまり意気込まなくていいからね。一般教養の詰め合わせになってて、テスト用紙は2枚。1時間以内に終わると思いまーす」



山下先生は、まだ当然の如く反応が薄すぎる生徒たちをニコニコと見つめて、言葉を続けた。

地元の学校などとは違い、この学園は日本全国の選ばれた者たちが入学している。VIP生徒同士で知り合いがいる可能性もあるものの、ほとんどが初めましての生徒たちだらけだ。



「学園のルールや掟については、明日からみっちり教えていくからね。知ってる人も多いと思うけど、争いは6月からでーす。色々制約あるし、辛いことも多いと思うけど、青春を楽しんでね!
学生番号は登録順だよ。窓側一番前の四ノ宮くんから自己紹介よろしくね」



な‥なるほど、登録順でしたか。
そりゃあ予測不能だったわ。





名前と出身地程度の、薄い自己紹介が続いていく。
生徒たちの緊張と不安が、教室中を包み込んでいた。



「どうもー、東海林凛ですー」


東海林凛が立ち上がり名前を言った途端、教室中が一瞬ざわついた。

やはり、一応名家のおぼっちゃまなのだ。



しばらくして、黒髪の番が来たようだ。



「‥東城朔です」


ふーん。
東城朔(とうじょうさく)ね。


自分の番が回って来たことに気が付き、慌てて立ち上がる。



「仲 杏里です」



ざわざわっと教室中が騒ぐ。
山下先生はニコニコと微笑んだままだ。


仲家は、日本屈指の大財閥。
騒がれるのは致し方ない。


しかし、ここで姫候補と思われるのは嫌だ。
なんたって私は騎士になりたいのだから!!


「騎士になりたくて来ました。
よろしくお願いします」



またもや教室中が騒めく。
黒髪‥こと、東城朔はプッと吹き出していた。




席に座ってから、東城朔を睨む。


「なにか文句でも?」


「お前あの仲家のご令嬢だろ?
ぜってー姫じゃん」


「‥嫌よ、私は何が何でも騎士になるの」


「へいへい」





自己紹介が終わって、テストまでほんの少しの休み時間があった。私の席の周りには、頬を赤く染めて照れくさそうに近寄るクラスメイト達がいた。

『あの仲さんだって気付いたけど声かけられなかったんだ』

『あとでサインください』


『よかったらお友達になってください』



ーーーこれが、家柄に釣られての人気だということはもちろん分かってる。
だけど、それでもこの心細い新しい環境では、嬉しいものだった。


今しか普通の学生生活が送れないんだ。
‥そう思うと、中学生の頃までのツンケンした態度ではなく、自然に笑顔を作ることができたのだ。




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