騎士養成学園のお姫様

茶歩

文字の大きさ
上 下
4 / 9

第3話『はじめの一歩』

しおりを挟む


黒髪の男は私の手を見て、少し驚いた表情をしていた。
うっすらと血の滲む奇妙な手のひらを膝に当てて咄嗟に隠す。


「‥そんなにビビったわけ?」


あいも変わらず不機嫌なその表情を横目に、私は小さなため息をついた。


確かに緊張はしたけど、別にそこまでビビってなんかいない。
ただ、加減が分からなかっただけだ。


「全く」


「ふーん、そう」



お互いが正面を向いたまま、沈黙が流れる。
このどことなく重い空気を一変させたのは、金髪を靡かせたチャラ男だった。



私の前の席に腰掛けて、こちらを振り返りニコニコと満面の笑みを浮かべる男。ガタイがいい癖に、まるで子犬のような表情を浮かべている。



「杏里ちゃーん!会いたかった!!」


殺伐とした入学式の空気を読まず、1人だけ浮かれまくっている。


ーーー東海林凜だ。



「同じA組だなんて運命的だねっ!」


肩まであるその金髪は、見事に外にハネている。この能天気チャラ男になんともお似合いな髪型だ。



やはり、何が何でも譲れない。
こんな能天気チャラ男にこの身を一生捧げるなんて、絶対に嫌だ!!!


「‥‥前向いて」


「もうっ!つれないなぁ。僕の婚約者フィアンセちゃん」


「‥‥絶対に嫌」


「何を言ってるのさぁ。約束を交わした身じゃないか」


「それは!あくまでも条件あってのことでしょう?!私は騎士になるの!だからあんたとは絶対に結婚なんてしない!!!」


この能天気チャラ男も、一応はおぼっちゃまだ。
政略結婚だというのに、よくもまぁそんな浮かれていられるもんだ。


「何言ってるの、杏里ちゃん。
僕のお姫様は君だけだよ?」


「きっも」



というか、もうだいぶ人も揃ってきてるうえ、隣にはあの無愛想黒髪男がいるっていうのに、大きい声でこんな話しないでよっ。



「どいひー!」


ケラケラと腹を抱えて笑う東海林凜。





ーーーはぁ、馬鹿みたい。






入学生は150名。
クラス数はA~E組の5クラス。
基本的に、毎年各クラスに王子か姫が1人いるらしい。
つまり5チームに分かれて争うのだ。

その年によって様々だけど、クラスメイト達で結託してチームを作り上げることも多いんだとか。



東海林凜と、この黒髪とは同じチームになりたくないところだ。
無事に騎士になった暁には、あえて他クラスの見込みある王子・姫に仕えようかな。




ーーー入学式は、ごく普通だった。
拍子抜けするほどの普通さだ。

やはり、まるでまだお客様扱いという感じだ。
込み入った学園の話は、これから徐々に教えられていくのだろう。





職員の誘導で、ぞろぞろと教室へと向かう。
私たち1年生が校舎に入る際、上級生らしき人たちが何人も、窓からこちらを見下ろしていた。



その上級生の表情を見て、やはりここは普通の学園ではないのだと思い知る。
獲物を見るような、そんな瞳だった。




重々しい空気漂う校舎は、こんな危うい学園とは思えないほど、不自然に綺麗だった。
傷1つなく、埃1つなく、不気味なほどに清潔だ。

立派な額縁に入れられ飾られている絵画、床に敷かれた赤絨毯‥ここが争いのある学園だと知らずに来れば、さすがVIP揃いの金持ち学園だと思ってしまうかもしれない。

でも、明らかにひょろっこいおぼっちゃまやお嬢様は割と少数で、実際の生徒たちはガタイのいい人だらけ。その異様さも、この奇妙な空気を作り上げている要因だろう。



「ねーねー、ずっと無視するつもり?杏里ちゃん!」



ちなみに、東海林凛はこの調子でずっと煩い。







教室に入ると、各机に各々の名前が記された札が置かれていた。
机すらも、なんだかアンティーク調の重厚な作りだ。



私の席は真ん中の列の一番後ろ。
後ろの席は好きだから、まぁよかった。



東海林凛との席は、まぁまぁ離れている。
‥よかった。



ふと、私の左隣の机の前で立ち止まっている気配を感じた。



げっ!



こちらを見て明らかに顔を顰めた黒髪の男。
その表情そのままお返しして差し上げたい。


ああ、そうか。
何順なのかはさっぱりわからないけど、あの入学式の並びは席順と同じだったのか。



なんて不運なんだ。
‥‥というか、まぁ黒髪が私に苛立つ理由はもちろん分かってる。そして、私が黒髪に嫌な態度を取れる立場でないことも分かってはいる。



加減を知らない頭突きを食らわした上、ろくに謝れていないのだから。



嫌な顔をしてくる黒髪に嫌な顔でお返ししてしまう私は、なんともしょうもない捻くれた女だ。


隣の席だし‥
私の拳がどれほど磨きのかかったものだとしても、こいつなんだか強そうだし‥
いや、負ける気はしないけど、それでもしょうもない性格のせいで無駄に敵を作るのは、冷静に考えたら得策ではない。


黒髪のどす黒いオーラが嫌だから、同じチームになりたくないとは言ったけど‥
同じチームになるかどうかは別として、ここは勇気を振り絞って謝らないと‥。

これは、荒れ狂うであろう青春の‥‥第一歩だ‥!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

処理中です...