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第2話『入学式』
しおりを挟む颯爽とこの学園に訪れて一夜が明けた。
学生寮は皆個人部屋で、室内にお風呂やトイレ、洗濯機なども完備されている。一部屋一部屋オートロックになっており、まるでマンションのような作りだ。
学生寮はフロアごと男女で分かれていて、一階に食堂がついていた。
身支度をするのも1人だ。
この学園での暮らしに向けて、着々と1人で生きて行く術を身に付けていてよかった。
おかけで、この通り髪も結び上げることができた。
加減がわからないせいで何本か抜け落ちてしまったけど、致し方ない。毎日結ぶうちに、慣れるだろう。
眉毛ほどの長さの前髪はそのままに、長ったるすぎる後ろ髪はポニーテールの位置にキッチリと束ねた。出来る限り騎士に見えるよう、後ろ髪を更に三つ編みにして、ぐるぐると団子を作る。
長ったるかったふわふわの髪は、ご覧の通りキッチリとまとまった。
これは誰がどう見ても騎士だ!!!
タレ目がちで、ボケーッとして見えていただらしのない瞳も、髪をぎっちりまとめ上げたおかげで、勇ましい吊り目だ。
体の小ささは致し方ない。
毎食限界以上に食べ、日々体づくりのためのトレーニングを怠らなければ、背もグンと伸び、しなやかな筋肉に包まれた無敵ボディになることだろう。
ふぅふっふっ。
いけない、こんな頬を緩ませてしまったら騎士に見えないわ。
袖を通したばかりの真新しい制服姿を、もう一度鏡の前で確認してから玄関を出た。
ーーー昨晩遅くまで、部屋に置かれていた学園マニュアルを事細かに読んだ。
王子・姫・騎士やそれに付随する争いの話なんかは、いまはまだ教えてもらえないようで、マニュアルには衣食住や、通常の学園生活における一般的な校則などが記されていた。
今日は食堂で朝食を食べた後、ホールで入学式がある。
こんな学園だとしても、やはり新生活に対する高揚はあったりする。
入学式に関しても同じだ。
友達はできるだろうか。
いや、争い云々言っている学園だ。むしろ蹴落としたり蹴落とされたり、という生活かもしれない。
それでも、同じ王子・姫を守る仲間内の熱い絆が生まれたりして‥
そんな淡い期待を胸に、食堂へ向かった。
食堂は、既に生徒の列ができており、ちらほらと席について既に朝食を食べている生徒たちもいた。
既に打ち解けたように、仲間うちで楽しそうにご飯を食べているのは上級生かもしれない。
列の後ろに並ぶ。列が進むのは思いの外早かった。
私の前に並ぶ生徒を見上げる。
なかなか体格のいい男子生徒だ。
きっと武術に長けているに違いない。
くそぅ。負けるものか。
お盆をとって、更に前へ進もうとした時だった。
あ、なんだか鼻が‥‥
「ふぇっくしょん!!!」
私の豪快なくしゃみと共に、ドン、と鈍い音が響いた。
後頭部に温もりを感じる。
ああ、そうか。
私はくしゃみの勢いのまま、前に並ぶ男子生徒に頭突きをしてしまったようだ。
「‥‥てめぇ」
「いやぁ、すまないね」
「‥‥」
どうやら私の謝り方が気に食わなかったようだ。
とてつもない形相で私を睨み下ろしている。
ネクタイの色が同じだ。
どうやら同級生。
整っているであろう顔を、非常に不機嫌そうに歪めている男子生徒。黒髪から覗くその瞳はとても冷たい。
なんて強そうなんだ‥!!!
でも、負けるものか。
「‥進んでるよ?」
「‥‥てめぇ覚えとけよ」
ひぃ。怖かった。
痛みを感じない私の、加減を知らない頭突きだ。
しかも朝イチの不意打ちときた。怒るのも無理はないだろう。
パンやサラダ、スープを取り、隅っこへと向かう。
1人朝食を食べながら、食堂全体を見渡していた。
育ちの良さ全開な生徒達と、ガタイが良く強そうな生徒達の二極だ。
なんて不思議な光景なんだろうか。
朝食を終えて部屋に戻り、一息ついてからホールに向かった。
入り口に貼られた、名簿に記された番号を頼りに席に座る。私はどうやら、A組のようだった。
びくびくしながら東海林凛の姿を探すが、どうやらヤツはまだこの会場に来ていないらしい。
ほっと胸を撫で下ろす。
やはり争いがある学園だからだろうか、なんともピリピリした、入学式らしからぬ空気が漂っていた。
ぼーっとあたりを眺めていると、突如大きな人影が隣に腰を下ろした。
「‥また会ったなぁ」
「げっ」
黒髪に不機嫌な表情。
間違いない、今朝の頭突きの人だ。
同じA組だとは、初っ端から試練!!
「お前なに?金持ち?」
「い、いや?私は騎士志望よ」
「そんな豆みてぇな体でよく言うよ」
「ふん。そんなこと言ってられるのも今のうちよ」
見てなさい。
私の拳をお見舞いしてあっと言わせてあげる。
「へいへい。せいぜい編入しないこったな」
「お互い様よ」
バチっとまた火花が飛ぶ。
無意識のうちにぎゅっと握りしめていた手を慌てて解いた。
手のひらに爪が食い込みそうになっていたようだ。
内出血のような状態を起こしている。
なんて不便な体なんだ。
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