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第85話『魔女との取り引き』

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私たちは各々の紹介を終えた後、シーグリッドさんに現状の説明をした。

‥シーグリッドさんの居場所が分かったからレストール家を飛び出したことや、ガブリエルもハロルド公爵の陰謀の被害者であること。ハロルド公爵と闇の魔女ノートリアムは恐らく以前から繋がりがあって、私の声を奪い続けているのもノートリアムの可能性が高いということ。

レストール家の屋敷を飛び出してから、あまりにも色々な出来事が起こりすぎているけど実際時間はあまり進んでいない。
短い時間の間に、信じられない程濃い時間が進んでいた。

レオやシンドラがひとつひとつシーグリッドさんに説明してくれたことで、改めて怒涛の日々を実感する。


「時間とは宝。過ぎし日は戻らない」


説明を聞いたシーグリッドさんがそう言って口の端を上げる。
この間にもシーグリッドさんの周りでは紙や印鑑が飛び回っていて、時間を大切にしていることを裏付けていた。


「先生‥お力を貸してください」


シンドラが真剣な瞳でシーグリッドさんを見つめる。


「逃走劇が始まってからはまぁ良しとして、其れ迄の年月は考えるだけでも吐き気がする。なぁ、セーラの息子よ」


セーラという名にピクリと反応を見せたのはレオだった。


「シンドラ、お前もだよ。全知の魔女ってのはありとあらゆる魔法種類を使えるというのに、ただただ凡庸すればそれで満足なのかい?私にあんたの力があれば今頃城を3つ程構えているだろうよ」

「‥‥返す言葉もありません」


つまり、シーグリッドさんはシンドラの魔法を広く浅いと言いたいのだろうか。
シンドラには言葉で言い表せない程に救われてきた身としては、シーグリッドさんが厳しすぎることを言っているようにしか思えないけど‥シーグリッドさんはシンドラの師匠なんだし、よっぽど凄い人なんだろうな‥。


「‥レオ、だったな。いつの日かお前の母からの依頼を受けた。どうかお前を守ってくれと。セーラの長い髪は、私の一番弟子をお前に差し出すのには良い対価だったよ」


‥‥私とネロさんは何かを察したように目を丸くし、レオとシンドラは小さく俯いた。

それって、つまり‥
レオのお母様が、シーグリッドさんを頼ったことで‥シンドラがレオの側で仕えていたということ?

目を丸くし続ける私とシーグリッドさんの目があった。

「‥‥あぁ、説明が必要か?
私は大樹の魔女。木を由来とした物は容易に操れるが、何かに命を吹き込む時には“女の髪”が一番なのさ。髪はその女がどう生きてきたかがよく映る。要は品の良い女の髪はご馳走みたいなもんなのさ」

なるほど‥だからレオのお母様の髪を‥

シーグリッドさんは更に言葉を続けた。

「言っておくが、私に何を求めにきたのかは知らんが、“私”自身を求めるのであれば対価は髪では足りんし、正直私がお前らの逃亡劇に加担するメリットは何もない」

シンドラの師匠であり、味方になり得る魔女。
とはいえ一歩でも出方を間違えたら交渉は決裂する。
確かにシーグリッドさんにとってはメリットはないだろうし、全く乗り気ではなさそうだ。
ついには踵を返してしまったシーグリッドさんを前に、緊張感が漂う中レオが口を開いた。


「‥‥高貴な女にとって長い髪は命だ。それは俺の母君だって同じ。“何年”俺を守り続けるというつもりでシンドラを差し出してくれたか分からないけど、せめてノートリアムをやっつけるまではシンドラの力が必要だ。皇后だった母君の長い髪は、そのくらいの価値があるだろ?」


レオのお母様‥つまり元皇后様はレオが幼い頃に亡くなっていた。

亡くなる寸前に、亡くなる自分と変わって愛息子を守ってくれる存在を求めたのかな。


「ほう。何が言いたいんだ?」

「‥‥シンドラがあんたの駒となっている“対価”は、シンドラがあんたの弟子として魔法を学んだこと。つまり、いまシンドラを含め俺たちに文句があるなら‥あんたにも責任はあるんじゃないのか?」

レオの言葉に、シーグリッドは片眉を上げた。
なかなか強引な文句だけど、理論上は納得できないわけではない。

ーーシーグリッドさんとシンドラとの取り引きにおいて、しっかりと師匠として弟子に教え込めていたのか。

そんなクレームを入れたのだ。レオは。

恐らくヤケクソなんだろうな。
なんとかしがみ付けそうな場所を見つけて賭けをしたようなものだ。


「私に、お前らの責任を取って欲しい、と?」


「‥‥せめてノートリアムに対峙する俺らに”関与する”くらいの責任は取ってもらいたいな」


空気がピリピリと震えていた。
部屋の至るところにいた人型の葉っぱ達も、この空気におどおどと困惑していた。


「ふっ、はははっ」


堪えきれずに笑い出したのはシーグリッドさんだった。


「はは、はぁ‥。
さすがセーラの息子、図太いなぁ。
‥いいだろう、協力してやってもいい。対価に応じてだがな」


私たちはパァっと目を輝かせながら視線を合わせた。
対価はまだ決まってないけど、希望が見えた気がした。


‥‥髪でいいなら私の髪を差し出すところなんだけど‥シーグリッドさんに動いて貰うには髪では足りないみたいだし‥

果たして対価として何を差し出せばいいんだろう‥



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