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第43話『事後』
しおりを挟む私の血のせいで私を強く求めてしまうレオ王子と、キノコのせいでレオ王子にくっつきたかった私。
おまけに不自然極まりないこの状況。
どう考えても事後だ。しかも周りの承認を受けたうえでの事後。
恥ずかしさのあまり顔から火が出てしまいそうだ。
「ソフィア様は戻ったっぽいですね」
ネロさんがいつも通りヘラヘラと話しかけてくれた。
レオ王子に手を引かれながら、沢から上がる。濡れた服の上から、シンドラがタオルをかけてくれた。
「レオ様も手握っても大丈夫ってことは症状落ち着いたんですか?」
「んー‥まぁ、かなり楽になったかな」
「へぇ」
にやにやと笑みを浮かべるネロさん。この状況に、レオ王子も嘘をつけないと判断したようだ。
シンドラに手を引かれ、みんなから少し離れたところで2人きりになった。
変身していないシンドラは私よりも随分と小柄だけど、今となっては私にとってはまるで姉のような存在だ。
「‥お体大丈夫ですか?ソフィア様」
股関節が痛い‥とは言えないし、声が出せたとしても言えない。
うつむき気味に、首を縦に振った。
「そうですか‥それならよかったです」
シンドラは、魔法でもう一度私の体を乾かしながら、気まずそうに言葉を落としていく。
「‥すみません、私がついていながらお守りすることができず‥屋敷でもそう言った教育を行っていなかったので‥その‥‥ソフィア様、もし妊娠の可能性があれば、シンドラにお伝えくださいね」
に‥妊娠‥。
子を授かるための行為。
それは、当然わかっていた。
だけど、いくら想い合っているもの同士でも、今回は血とキノコが原因だ。
レストール家の問題を抱えている今の状態で‥レオ王子と結婚できるかもわからないのに‥
抗うことができなかった事態だとしても、『はー、1つになれて幸せ』‥で終わることではない。
冷静に私の身を心配してくれるシンドラのおかげで、私は事の重大さを深く認識することになった。
「‥大丈夫ですよ、ソフィア様。
レオ王子は本気で貴女を愛しています。
何としてでもレストール家の魂胆を暴き、声を取り戻して、レオ王子と無事に結ばれる結果が待っているはずです!」
‥シンドラ。
‥‥シンドラは、どうしてこんなにもレオ王子と私の味方でいてくれるんだろうか。
相当長い年数、どうしてこんなに尽くしてくれるんだろうか。
「シンドラが、この命を懸けてでも、お2人を守り抜きますから!安心してくださいね」
シンドラが、私の両手をぎゅっと掴み、柔らかく笑ってくれた。サラサラの金色の髪、大きく真っ直ぐな瞳。
私は、首を横に振った。
命を懸けてほしくなんてない。
シンドラも、幸せになってほしい。自由に、自分の好きなように生きてほしい。シンドラが自分で選択してきた道かもしれないけど、シンシアとして長年私のそばに居てくれたその時間を、申し訳なくも思ってしまう。
言葉で伝えられない代わりに、シンドラの手を私の胸元に持ってきて、ぎゅっと祈るように両手で挟み込んで握った。額をその手につけて、ただただ願う。
どうか、シンドラも幸せになりますように。
想いが伝わったのかどうかはわからない。
だけど、シンドラは優しい笑顔を浮かべていた。
しばらくして、みんなの元へと戻った。
キノさんにもう一度、幸福茸について詳しく説明をしてもらい、ついでに他の危ないキノコも教えてもらった。
みんなにも気まずい思いをさせちゃうし、旅路を足止めさせてしまう。もう同じ失敗は繰り返さないようにしなくちゃ。
鍋を囲み、温かい食事を取って、心を落ち着かせた。
男性陣(主にネロさん)は、レオ王子が口止めしたのか、それともさすがに気を使ってくれたのか、もうその話題に触れることはなかった。
恥ずかしすぎて、ネロさんやユーリさん、キノさんを見ることはできなかったけど、ちらりと視線を送るとレオ王子とは目が合った。
本当に症状が落ち着いてくれたようだ。
少し照れ臭そうにしながらも、ニコッと笑いかけてくれた。
ご飯を食べ終えた私たちは、荷物をまとめて出発した。
数時間毎にレオ王子が白魔法を唱えてくれたので、私たちはぐんぐんと前に進むことができた。
チート的な進み方をしたおかげで、日が沈む前に山を降りることができたが、一番近くにあった村には宿場がなく、私たちは森の中で二度目の野宿をした。
大きな山、獣道を降りてきたおかげで、幸いまだ追手もいない。
どうかこのまま、目的地に無事についてほしい。ただただ、それを願うばかりだ。
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