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第12話
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エドのお父さんは、コーヒーを一口飲んで、少し考え込んだ後に切り出した。
「不自然だと思いませんでしたか?」
そう言って、お母さんを見つめる。
お母さんは何に対しての問いなのかが分からず、返答することができなかったようだ。
「‥カルマート家の魔力に関してです」
お母さんも私も、その言葉に顔を上げた。
このカルマート家の状況がもはや当たり前になっていた。
お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、みんな魔力がほぼなかったから。
でもこれだけ祖先の魔法がかけられた物が残ってる。遠い昔は、カルマート家も普通の魔法使いだったということだ。実際、そう記載された文献を読んだこともある。
「‥300年前まで、カルマート家は‥むしろ優秀な家系だった」
エドのお父さんの言葉。
お母さんと私は、魔法使いの歴史研究家でもあるエドのお父さんの言葉を、ただ真剣に聞いていた。
「我がレガート家のように、一家全員が中級である魔法使い家系はごく一握り。優秀な魔法使いがいても、大抵はその家系にごくわずかな確率でしか存在しないのです。しかし、カルマート家は文献によれば‥かなりの頻度の割合で中級魔法使いであり、しかも上級魔法使いを何人か排出している。これは、本来信じられないほどのことです」
確かに、中級魔法使いが家族に複数いるだけでも相当価値のあるものとみなされている。レガート家がその代表だ。
その文献がもし真実なら、カルマート家は群を抜いてトップクラスの家系だったということ。
そんなこと、微塵たりとも信じられるわけがないけれど。
「代々引き継がれてきた歴史ある、優秀なカルマート家。それが300年前、突然ほとんどの魔力を失った‥。それはあまりにも不自然なこと。
私は、カルマート家の歴史を非常に重く捉えています。しかし‥正直なところ、カルマート家が少なくとも私が生きているうちは続いていくものだと、悠長に考えていました‥。
それが、いま終りを迎えようとしている‥」
正直、エドのお父さんの話をこんなにしっかりと聞くのは初めてだった。
今まではただのお隣さんで‥むしろカルマート家に対する壁を感じていたほどだ。
「‥‥きっかけが何であれ、いずれ近いうちにその終わりが来るだろうということは覚悟ができていました。主人も、私も‥」
「しかし、まだ終わってはいません。
今はまだ、足掻ける時なのです」
「‥足掻いてどうにかなるものならとっくに‥」
お母さんが辛そうな表情を浮かべている。
線の細い体が、小さく震えていた。
「私の推測ですと、貴方達は何者かによって何らかの呪いをかけられているのではないかと思っています」
ーーー呪い?!
「な、なぜ?!」
ガタガタっと大きな音を鳴らして立ち上がったのは、他でもないこの私だ。
誰が何の目的で呪いを?!
そんなもののせいで私たちが『出来損ない』なんだとしたら、許せるものではない。
「あくまでも、私の推測にすぎない‥
ただ、そういった理由がなければあまりにも不自然なのです‥
カイエン氏の正式な処分はまだ決定されていないだろうし、もし何かの刑が執行されるとしても今日明日の話ではない‥。それはエドに関しても同じ。
それまでに2人の刑を軽くさせる手立てとして‥そして一家がこれからも存続する手立てとして‥魔力がほぼなくなってしまった理由を突き止めるのは必要なことです」
確かに、あのカルマート家が一家揃ってまともな魔力を持ったとなれば、世間の目も変わるだろうし、国の為に使える存在だと認識してもらえれば、お父さんが身代わりに背負った罪が少しは軽くなるかもしれない。
そんなカルマート家を守ろうとしたエドの罪も‥。
呆然とする私たちを残し、エドのお父さんが玄関を出ようとした時、レベッカが声を荒げた。
どうやら部屋から出て、静かに階段を降りていたらしい。
「どうしたって間に合わない!!」
レベッカは目に涙を溜めているようだった。
振り返るエドのお父さんの胸ぐらを掴みかかり、物凄い目ヂカラでエドのお父さんを睨みつける。
「レベッカ!!」
「カルマート家を救う気があったなら、なんでもっと前から協力しようと思わなかったの?!
私だって不自然に思ってたけど、図書館にだって資料館にだって満足に行けない状況だったし、頼れる人もいなかった!!!
私たちを見かけてもいつもあんなに冷たい目で私たちを見てたくせに!!!
突然なんなの?!もう今更なんだよ!!絶対間に合わない!!!エドは死ぬんだから!!!」
ガンガンとエドのお父さんを揺さぶるレベッカ。
エドのお父さんも、私も、お母さんも固まった。
ーーーエドが、死ぬ?
「‥どういうことだ」
エドのお父さんが、眉間に皺を寄せる。
「エドは3日後に死ぬんだよ!
昨日の夕方見かけた時には、もう死期が見えてた‥」
レベッカは、力を失ったようにそのまま膝から崩れ落ち、やがてレベッカのすすり泣く声が響いた。
「不自然だと思いませんでしたか?」
そう言って、お母さんを見つめる。
お母さんは何に対しての問いなのかが分からず、返答することができなかったようだ。
「‥カルマート家の魔力に関してです」
お母さんも私も、その言葉に顔を上げた。
このカルマート家の状況がもはや当たり前になっていた。
お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、みんな魔力がほぼなかったから。
でもこれだけ祖先の魔法がかけられた物が残ってる。遠い昔は、カルマート家も普通の魔法使いだったということだ。実際、そう記載された文献を読んだこともある。
「‥300年前まで、カルマート家は‥むしろ優秀な家系だった」
エドのお父さんの言葉。
お母さんと私は、魔法使いの歴史研究家でもあるエドのお父さんの言葉を、ただ真剣に聞いていた。
「我がレガート家のように、一家全員が中級である魔法使い家系はごく一握り。優秀な魔法使いがいても、大抵はその家系にごくわずかな確率でしか存在しないのです。しかし、カルマート家は文献によれば‥かなりの頻度の割合で中級魔法使いであり、しかも上級魔法使いを何人か排出している。これは、本来信じられないほどのことです」
確かに、中級魔法使いが家族に複数いるだけでも相当価値のあるものとみなされている。レガート家がその代表だ。
その文献がもし真実なら、カルマート家は群を抜いてトップクラスの家系だったということ。
そんなこと、微塵たりとも信じられるわけがないけれど。
「代々引き継がれてきた歴史ある、優秀なカルマート家。それが300年前、突然ほとんどの魔力を失った‥。それはあまりにも不自然なこと。
私は、カルマート家の歴史を非常に重く捉えています。しかし‥正直なところ、カルマート家が少なくとも私が生きているうちは続いていくものだと、悠長に考えていました‥。
それが、いま終りを迎えようとしている‥」
正直、エドのお父さんの話をこんなにしっかりと聞くのは初めてだった。
今まではただのお隣さんで‥むしろカルマート家に対する壁を感じていたほどだ。
「‥‥きっかけが何であれ、いずれ近いうちにその終わりが来るだろうということは覚悟ができていました。主人も、私も‥」
「しかし、まだ終わってはいません。
今はまだ、足掻ける時なのです」
「‥足掻いてどうにかなるものならとっくに‥」
お母さんが辛そうな表情を浮かべている。
線の細い体が、小さく震えていた。
「私の推測ですと、貴方達は何者かによって何らかの呪いをかけられているのではないかと思っています」
ーーー呪い?!
「な、なぜ?!」
ガタガタっと大きな音を鳴らして立ち上がったのは、他でもないこの私だ。
誰が何の目的で呪いを?!
そんなもののせいで私たちが『出来損ない』なんだとしたら、許せるものではない。
「あくまでも、私の推測にすぎない‥
ただ、そういった理由がなければあまりにも不自然なのです‥
カイエン氏の正式な処分はまだ決定されていないだろうし、もし何かの刑が執行されるとしても今日明日の話ではない‥。それはエドに関しても同じ。
それまでに2人の刑を軽くさせる手立てとして‥そして一家がこれからも存続する手立てとして‥魔力がほぼなくなってしまった理由を突き止めるのは必要なことです」
確かに、あのカルマート家が一家揃ってまともな魔力を持ったとなれば、世間の目も変わるだろうし、国の為に使える存在だと認識してもらえれば、お父さんが身代わりに背負った罪が少しは軽くなるかもしれない。
そんなカルマート家を守ろうとしたエドの罪も‥。
呆然とする私たちを残し、エドのお父さんが玄関を出ようとした時、レベッカが声を荒げた。
どうやら部屋から出て、静かに階段を降りていたらしい。
「どうしたって間に合わない!!」
レベッカは目に涙を溜めているようだった。
振り返るエドのお父さんの胸ぐらを掴みかかり、物凄い目ヂカラでエドのお父さんを睨みつける。
「レベッカ!!」
「カルマート家を救う気があったなら、なんでもっと前から協力しようと思わなかったの?!
私だって不自然に思ってたけど、図書館にだって資料館にだって満足に行けない状況だったし、頼れる人もいなかった!!!
私たちを見かけてもいつもあんなに冷たい目で私たちを見てたくせに!!!
突然なんなの?!もう今更なんだよ!!絶対間に合わない!!!エドは死ぬんだから!!!」
ガンガンとエドのお父さんを揺さぶるレベッカ。
エドのお父さんも、私も、お母さんも固まった。
ーーーエドが、死ぬ?
「‥どういうことだ」
エドのお父さんが、眉間に皺を寄せる。
「エドは3日後に死ぬんだよ!
昨日の夕方見かけた時には、もう死期が見えてた‥」
レベッカは、力を失ったようにそのまま膝から崩れ落ち、やがてレベッカのすすり泣く声が響いた。
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