わたし、性別偽ってオカマバーで働いてます

茶歩

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第14話 注目の的

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私が狼狽えていると憲が戻ってきた。

「ん?どうかした?姉ちゃん酔った?」

よっぽど私の顔が赤くなってるのかもしれない。近野君の反応を見るのが怖すぎて、私は窓の外を見つめて難を逃れようとした。

「‥酔ったのかもね」

ビールを飲みながらシレッとそう言うと、憲が私の背中を強めに叩きながら豪快に笑った。おかげで私は咽せ込むはめになる。なんなんだそのスキンシップ。

「冗談よせよー、ザルじゃん。馬鹿みたいに強いくせに」

なら初めから「酔った?」って聞くなよとツッコミたくなるけど、今は近野君の前だから我慢我慢‥
って、そもそも近野君の爆弾発言のせいでこんな風に取り乱す羽目になってるんだけど。

「ぷはは、あはは‥あーごめん、我慢できなかった」

近野君があんまりにも楽しそうに笑うから、私はますますどんな顔していいのか分からなくなる。近野君、女の子が勘違いしそうになるような冗談言わないと思ってたのに‥。いや、でもダヨには佳代が初恋かもとか言ってたから、冗談とも言い切れない‥?

チラッと近野君を見る。爽やかに笑うハイスペックイケメンだ。うん‥冗談に決まってるわ‥うん。
そうか‥近野君も都会に出て変わってしまったのね‥

「やっぱり近野君が姉ちゃんのこと茶化したんだろ」

ケラケラと笑いながらそう言う憲に、近野君は首を横に振った。

「茶化してないよ。本音を言っただけ」

ーーガタガタッ。
今の物音は勿論私が動揺したせいで起きたものだ。

「えー、なんだよ?なに言ったの?」

面白いネタ見つけた!と言わんばかりに憲が目を細めて、ニヤニヤとしている。まさかこんな風に憲と近野君と飲むことも、憲からこんないじられ方されることになるとも思ってなかった。
だいたい憲と会うことすらかなり久々なのに、なんか私たち普通に仲良い兄弟に見えませんか‥?まぁ憲が社交性の塊だからなんだろうけど。

「言うわけないじゃん、秘密」

近野君もこの雰囲気をすっかり楽しんでそんなこと言っちゃってるし。
もういい加減にして‥と周りを見ると、親戚たちがこちらを見ていた。そのうえ父と母も驚いたように私を見ている。

え、なに‥?

「なぁんだい、佳代ちゃん!
あんたそんな楽しくお話できるようになったの?!」

親戚のおばさんがそんなことを言っている。

「憲ともそんな仲良かったんだなー、なんか雰囲気優しくなったよな、佳代ちゃん。乳もでけぇし良い女だなぁ」

「乳だけじゃねぇ尻もでけぇから安産だ」

「シッ!すけべじじい共!やめなさい恥ずかしい!」

おばさんがおじさん達を制してくれた。
‥恐らく細かい会話までは聞こえてないだろうけど、私たちの一角はよっぽど楽しそうに見えたらしい。そりゃあ憲と近野君が終始ケタケタ笑ってればそうも見えるかもしれないけど。

「いやーしかし、こんな若い兄ちゃんまで来てくれるなんて金造さんも幸せものだなー」

「そうよねー、近野君?あんたさっきも言ったけどいい子ねぇーー」

「いい男だなぁ俺の若い頃にそっくりだ」

今度はターゲットが私から近野君に変わった。
私はまともに反応できてなかったけど、近野君はさすがだ。愛想よく笑いながら頭を下げている。

ビールがなくなったので立ち上がって台所へ行くと、お母さんが私を呼び止めた。

「ちょっと佳代!
いい雰囲気じゃないの!近野君!」

「えぇ?」

「ゲットしなさいよ何がなんでも~!!
あんな上玉なのにあんなに気さくで、そのうえあんたとも親しげじゃないの!」

ダヨならまだしも佳代は別に近野君と親しくないよ‥
憲と近野君が笑い上戸だから親しく見えるだけ‥

「‥‥近野君にも選ぶ権利あるよ」

私なんて早々に仕事をやめて意地で都会に残り、生活に困窮して性別を装って生きてるんだから‥。しかもそのニューハーフ姿のダヨと近野君はだいぶ打ち解け合ってる。

もしも万が一、近野君が私を気に入ってくれたとしても‥
住んでるところ(ニューハーフ社員寮)や生活リズムでダヨ=佳代なのはすぐにバレてしまうと思う。

そうなった時、近野君はきっとドン引きするよね。
私は近野君を騙しちゃってるんだから。‥近野君だけじゃなくお店のママ以外のみんなを騙してるんだけど。

だからこそ、佳代は近野君と仲良くなってはいけない。
ボロが出るだろうし、近野君に申し訳なさすぎるもの。

ダヨの姿であれば恋愛に発展するわけでもないだろうから今まで通り仲良くしてもいいかもしれないけど‥。

お店を辞めるっていうのも手だけど、いま辞めたらまた生活が成り立たなくなって路頭に迷うことになる。
まぁ辞めたところで騙してたことには変わりないんだから、佳代の姿で近野君とお近づきになれる可能性は毛頭ないんだけど。

「ったく、その見た目で内気なんだから!」

「なりたくてこんな見た目なわけじゃないし」

「あんたの武器でしょうが」

「武器じゃないね。コンプレックス」

何度目かも分からない母とのこんな会話。
母が「あ」っという顔をしたことで、誰かが台所に来たことに気が付いた。

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感想 1

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みんなの感想(1件)

ちびたん
2020.01.12 ちびたん

主人公の生い立ちが、あまりにも酷くて憤慨してしまった!
有るのよねぇ😣勝手な思い込み
派手な顔だちや、育ち過ぎた体型は、関係無いのに…(´-ω-`)

彼女には、逞しく真っ直ぐ自分らしく生きて欲しいです。色眼鏡で見ない、素敵なヒーローが現れて幸せになった主人公が見たいですね。   🌱🐥💮 

2020.01.12 茶歩

ちびたんさん、ご感想ありがとうございます!
根も葉もない噂って実際あるんですよね笑
負けずに強く生きて貰いたいところです!

解除

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