わたし、性別偽ってオカマバーで働いてます

茶歩

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第13話 爆弾投下

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仙崎ダヨは佳代とは腹違いの姉妹設定だから、弟と仲が良かったってことをダヨが知るわけはないんだけど‥でもこの前飲んだ時だって『仙崎さん』の話になったんだから、弟の話に触れたっておかしくないよね。

『俺、仙崎さんの弟と仲良いんだよね』とか言っててもいいと思うんだけど‥

それに、T大からW大に編入って‥それも別にダヨに話す必要はないけどさ‥

なんか‥なんか‥‥弟との繋がりがあったのを敢えて隠された気がするのは考えすぎ?!‥いや、うん。考え過ぎだよね。別にダヨがその情報を知ったって何も影響ないんだし。

そういえば唖然としすぎて挨拶できてなかったな。

「‥お久しぶりデス」

私がそう挨拶すると、近野君が少し照れたように笑った。突然この前2人で飲んだ時の『初恋だったのかもしれない』というフレーズがフラッシュバックしてきて、私は頭をぶんぶんと横に振った。

やばい、やばい。なんかやばい。急に赤くなっちゃいそうだ。
挨拶するや否や突然頭を振って顔を赤くするってどんな不審者だ。

私はペコッと小さく頭を下げて二階の自室に駆け込んだ。

それから平常心を取り戻して、何気ない顔をしながらお通夜の手伝いに徹した。その間も近野君は憲とずっと仲良さげにしていて、あの堅物な父や母とも打ち解けている近野君を見ると不思議な感じがして仕方なかった。

読経やお焼香が終わると、食事の時間が始まった。私は席に座らずにお酒を運んだり料理を運ぶことに徹した。
座ったもんなら、その途端に『佳代ちゃん良い人いないの?まだ都会に暮らしてるの?』と質問攻めにされるに決まってる。

台所で母に小言を言われる方がまだマシだ。

「あんたも座りなさいよ」

「絡まれるの嫌なんだもん‥」

「はぁ。ったく可愛げないわね。
憲とか近野君の近くに座ればいいじゃないの。端っこだから叔父さん叔母さんたちの絡みからは逃げれるわよ」

「‥‥いいよ私は台所ここで」

「よくないわよ。ずっとここにいる方が不自然なんだから。
諦めなさいよ!それに近野君同級生でしょ?話せるでしょうが!」

台所から半ば強引に追い出されてしまった。

「佳代ちゃん相変わらずいい体してるなぁ!」

「もうあんたったらスケベねぇ!ごめんなさいね佳代ちゃん」

こういう絡みが嫌だったのよ‥。と思いつつも、親戚たちに小さく頭を下げて長テーブルの端っこへと出向く。
端っこには向かい合って座る憲と近野君がいた。憲の隣に小さく腰を掛けると、親戚に絡まれた姿を見ていたのか憲は私を哀れんだ目で見ていた。

「生きづらそうだなぁ。チートっぽいのにな」

チートってどういう意味よ、と突っ込んでやりたいけど目の前には近野君がいる。近野君はと久々の再会なうえ、きっと近野君はこんな環境で気疲れしてると思う。そんな中で他所の兄弟喧嘩なんて見たくないだろう。

「‥アンタみたいに器用ならチートになれるんじゃない?
あ、私もビール飲む」

と、それだけ言って話を流すことにした。空いてるコップに憲がビールを注いでくれている。
近野君からの視線をひしひしと感じてチラッと目をやると、近野君は小さく微笑んでくれた。相変わらず優しくて温かいオーラがガンガン出ていて、私には眩しい。

やっぱりダヨの時とは違って、簡単に近野君に話しかけたりできないよ‥。

「あ、ごめん。ちょい電話きた」

そう言って憲が突然立ち上がってその場を離れていく。
私は思わず「え!」っと声を出してしまった。私より「え!」と言いたいのは間違いなく近野君なのに‥。

それにしても‥いくらおじいちゃんと仲良くしてたとしても、お通夜に参加するってすごい勇気じゃない‥?

「‥‥驚いたでしょ」

私の考えを察してか、近野君がそう言って小さく笑った。

「‥‥あ、うん‥‥ちょっと。
社交性すごいと思う‥」

社交性という表現で合ってるのか分からないけど、なんとか絞り出した言葉がこれだった。あぁ、今ここにいるのがダヨなら‥もっと明るく話せるのに‥。

「ふふ、ありがとう?」

「‥‥気疲れするでしょ?仕事は大丈夫なの‥?」

「あー、仕事はお盆休みちょっとだけずらして貰ったんだ。俺も地元割と近いからついでに実家にも帰れるなーと思ってさ」

「な、なるほど‥」

そういうわけなら田舎に帰ってくるのも億劫じゃないかもしれないけど‥

近野君は「あ、」と気が付いたように声を上げた。

「気疲れしてないよ、来たくてきたんだし」

さっきの私の言葉に対する返事だ。
私みたいな可愛くない孫と違って、憲も近野君も可愛げがありすぎる。

「おじいちゃん凄く喜んでると思うよ、近野君が来てくれて‥」

「そうだと嬉しいなー‥」

そう言って、近野君は眩しい笑顔を見せてきた。どうしてこの人はいちいち爽やかなんだろうか‥。

私も近野君の柔らかな表情を見ていたら少しずつ気が解れてきたようで、気付いたら小さく微笑んでいた。

そんな私の表情を見た近野君が口角を上げて、小声で爆弾を落とした。

「それにね、仙崎さんに会えたら嬉しいなって打算も正直あった。
あはは。怒られちゃうかな?お爺さんに」

「?!?!?!」

真正面でサラッと流れるように爆弾を落とされて、私は思わずビールを吹き出しそうになった。

この人何言ってるの‥?!

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