わたし、性別偽ってオカマバーで働いてます

茶歩

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第12話 まさかの事態

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近野君にとって、あの当時の私は敬遠されるような存在ではなかった。それだけで一生分の良いことが起こったかのような幸福感。
だけどこれ以上の話題はダヨがダヨでいられなくなるから、早々に話題を変えてただ純粋に2人の時間を楽しんだ。深まれば深まるほど近野君を求めてしまいそうで怖かったんだ。

結局時間も時間になり、タクシーに乗せられてその日は終わった。


それから1週間後‥
私は実家から信じられない知らせを受けた。

「え?じいちゃんが‥?」

私のおじいちゃんは昔は厳しかったけど今となっては親しみやすい良いご老人だった。
ゴルフを教えてといえばクラブをくれたり、将棋を教えてといえば仲良しの将棋教室の先生を連れてきてしまうような人だ。
まぁ勿論そんな可愛いおねだりは私じゃなく弟がしていたんだけど。

私にとっては厳しいおじいちゃんのまま、おじいちゃんは天に召されてしまった。

きっと弟のように、都会に出てからもしょっちゅう地元に顔を出してた孝行息子なら、砂糖のように甘くなったおじいちゃんと触れ合えたのかもしれないけど‥生憎私はそんな可愛い孫ではなかった。

だけど思い出は沢山ある。いくら仕事を辞めてあろうことかオカマバーで働いていようと、顔を出さないわけにはいかない。
もしも“ダヨ”になっていなければ、地元に帰るのも実家に帰るのも逃げていたかもしれない。

常識外れな生活の中で、「あんたやることはちゃんとやりなさいよ!!」「逃げんじゃないわよ!!」と、常にを教えてもらえたからこそ、私は逃げずに地元に帰ることにした。

変に心配をかけたら強制的に地元に定住させられるから、勿論広告代理店勤務という設定のままだけど。

喪服に身を包み、新幹線に揺られる。既に喪服を着て荷物を少なくしたのは、実家に何日も泊まらない為だ。
長く泊まったところで言われることは分かっている。

地元に帰ってこい、早く結婚しろ、お前に都会は無理だ。

きっとそればっかり。
今晩のお通夜に参加して、明後日の葬式までは居なきゃいけないけど、実家に寝泊りするのは最低限の日数にしたい。
それにお通夜やお葬式以外で地元を出歩く必要もないから、やっぱり荷物は少なくてよかった。

さすがにパジャマや下着は、捨てられていなければ実家に残っているはずだし。もしなくても、自転車で行ける範囲に安さが売りのファッションセンターがある。


久々に帰る地元は何も変わっていなかった。うだる様な暑さに、視界で揺れる陽炎。煩い蝉、道路で干からびてる蚯蚓みみず

木造の古くて大きな実家は、向日葵が道路側に沢山生えている。奥にある軽トラックはおじいちゃんの愛車。

そうそう‥この景色、何にも変わらないなぁ。


「あ!佳代!!あんたさっぱり顔出さないで!!」

母との久しぶりの挨拶がこれだ。

「忙しいんだって」

「ったく!けんはしょっちゅう帰ってきてるのに!」

「憲は大学生だから時間あるんじゃん」

「あんた大学の頃だってさっぱり帰ってこなかったじゃないの!!」

「仕方ないでしょ!バイトで忙しかったんだから!」

「帰ってこようとしてなかっただけでしょ!!」

こんな調子で顔を合わせれば喧嘩ばかり。
私を心配して口煩くなってるのは分かるんだけど、いつも弟と比べられるからどうしても素直になれないし苛立ってしまう。

「憲、友達も連れてきてるしもうウチの中にいるから!
あとお通夜の準備も手伝ってよ!!」

「言われなくても手伝うってば‥」

憲の友達って誰だろう‥。きっとこれからもっと人が増えていく。親戚や近所の人々と久しぶりに顔を合わせるのかと思うと途端に気が重くなった。

ガラガラっと実家の玄関を開けるとすぐ目の前に憲がいた。
喪服を着ているからかやけに大人びて見える。というか背伸びた?

「‥久しぶり」

私がそう言うと、憲も少し戸惑った様にしながらも笑顔を見せてくれた。

「姉ちゃん久しぶりだな!
同じ都会にいるのに会ってくれねぇんだもん」

今時な感じなのにチャラさがない。さすが人望のある弟は違うわ。

「そんなしょっちゅう会うもんでもないでしょ」

「相変わらず冷たいなぁー」

別に弟が嫌いなわけじゃない。けど実家との繋がりが深い弟としょっちゅう会えば、私の情報もしょっちゅう実家に流されてしまうだろうから何となく避けていた。

何回か食事に誘われたこともあったっけなぁ。

「まぁ今度行こ、ご飯」

そう言うと、弟は目を見開いた。

「なに?!姉ちゃん男でも出来た?!」

「はぁ?」

「なんか丸くなってるよ!前は氷みたいだったのに!!」

そこまで驚かれるほど変わったのかな‥?
でも確かに私は外では超絶人見知りだったけど、内弁慶だったこともあって家では唯一ああだこうだ文句が言えた。両親とぶつかることが多かった私の印象は、実にトゲトゲして見えたんだろう。

「男なんてできないよ」

「なんでよ!できんだろその見た目なら」

オカマバーで働いてるんだから無理よ。そう思ってふと廊下の奥を見た。
トイレから誰かが出てきたのだ。

「‥‥‥え?」

思わず声が漏れてしまった。

「あ、あはは。久しぶり‥近野デス」

そこには何故か喪服の近野君がいた。

「姉ちゃん同級生だもんな。
俺の大学の先輩なんだよね近野君」

先輩なのに君付け?って、そこじゃなくて!!
確か近野君はT大で、弟はW大‥

「あ、俺編入したんだよね。
釣りサークル入ったら憲と意気投合して、憲のお爺さんから釣竿貰ったり一緒に釣り行ったり、お爺さんと一緒に飲んだりもしてて‥」

近野君がそう言って笑った。

え、そんなことダヨの時聞いてなかった‥。
っていうかそれなら‥私が知らない間に近野君うちの実家にしょっちゅう来てたの‥?え、えぇぇぇ。聞いてないよ‥‥。

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