わたし、性別偽ってオカマバーで働いてます

茶歩

文字の大きさ
上 下
8 / 14

第8話 牛と呼ばれる女

しおりを挟む


翔さんや染野さんと同様に商社勤めの近野くん。
どうやら普段は相当忙しい様子。

商社で働くなんて、さすが近野くんだわ‥
意地だけで就職してしまって、早々に仕事を辞めた私なんかとは本当に比べ物にならない程に立派。

確か近野くんはT大に行ったはずだったけど(私の大学より遥かにレベルが高いけど中の上レベル)、それでも有名商社に就職できるんだなぁ‥なんて、近野くんとSNSのやりとりをしながらふと思った。


そして、野球観戦の日は割と早く訪れた。
日曜日のデイゲーム。

時刻は13時前。袖がレースになっている小綺麗な紺色のワンピースに、緩く一本に編み込んで横に垂らした長い髪。
佳代だとバレない為に、化粧なんかはもちろんダヨ風にしてるけど、ほんの少しナチュラルにしちゃっているのは僅かに持ち合わせている私の乙女心のせいだろう。

ドキドキしながら、待ち合わせ場所である球場の最寄駅の改札を抜けると‥


Tシャツにジーンズ姿の近野くんが駅構内の壁に寄りかかりながらスマホをいじっていた。
うん、めちゃくちゃ様になってる。かっこいい。イケメン。

少しずつ近づいていくと、近野くんがふと目線を上げた。


「あ、ダヨちゃん」


そう言って、にっこりと笑う近野くん。
お店の外で『ダヨちゃん』と呼ばれるのもどうかと思ったけど、それは致し方ないだろう。


「ごめんね、待った?」


「いや、全然。ていうかまだ待ち合わせ時間前だし」


「あは、そうね」


こんな時つくづく思う。
きっと何かの奇跡があって、仙崎佳代の姿でもし近野くんとこうして話す機会があったとしたら、こんな風に会話なんて出来ていないはず。
緊張で口数も少なく、目を合わせることもできず、顔を赤くしていたんじゃないかな。

ダヨである以上、佳代とは別人格じゃないといけない。
余裕たっぷりのクールビューティ風に見せなくてはいけないからこそ、私は普通を保てた。


とは言っても‥
近野くんが当時、仙崎佳代に対してどんな印象を持っていたかによって、状況は変わってしまう。
ヤンキー集団の中のビッチ枠だったからこそ、こうして男性と普通に喋れるもんだと思っているかもしれないし、そもそも私に対する印象を何も持っていなかったかもしれない。


まぁ、どちらにしても‥
ただただダヨを貫き通すっていうのが今日の課題だ。




「わ、背ぇ高‥。モデル?」


学生らしき集団の真横を通り過ぎる際に聞こえたそんな声。
今の私は167㎝+ヒール5㎝。どう見ても大きい。その上、乳と尻もでかいから余計に大きく見られがちだったりする。

だけど、ヒールを履くとその乳と尻がやや隠れる気がするというか、ヒールがないと益々乳と尻しか印象に残らない気がするというか。

とにかく、私は大きいのだ。


ちらりと近野くんを横目で見上げてみる。
そんな大きな私の目線より、近野くんの目線は高い。
180㎝はありそう‥。

普段、1人で歩く私に対して第三者のそんな言葉が聞こえてくると、私は堪らず視線を下げる。
今日は大きい私より大きな近野くんが隣にいてくれるから、私は視線を下げずに済んだ。


学生集団を見てみる。
男女の比率は同じくらいで、女の子たちの頬は赤い。

近野くんに見惚れているなぁ、これは。
‥まぁ無理もないよね、当然だ。


「彼女の方も凄いね、峰◯二子みたい」

「いやモ◯ローでしょ」


「「‥‥」」


どこに行ったってこういう扱いは変わらないかぁ。
ボディーラインが目立ちにくいワンピースを選んだけど、私=セックスシンボルになってしまうらしい。


「‥褒め言葉だね」


結局視線が下がってしまった私に対し、近野くんが口角をあげた。

‥いつもどおり落ち込んでどうする!
私はいまダヨなのよっ。


「それ以外に何かある?」


うふ、とお茶目に笑ってみせると、近野くんも柔らかく笑ってくれた。



本来ならば上にシャツを羽織ったり、ワイドパンツを履いてみたりと乳と尻を隠す術はある。
だけどそんなカジュアルな格好を、恐らくダヨはしない。

自分自身が架空のキャラであるダヨをイメージし、それに沿って言動を行う。


ダヨにとって、セックスシンボルは間違いなく褒め言葉なのだ。




「まぁ肩は凝るし走る時邪魔だしうつ伏せになると苦しいし、結構不便なのよねぇコレ」


「あはは‥入れすぎちゃったの?」


近野くんの言葉でハッとする。


そうじゃん。私の体は整形を繰り返して自らこの体型にしたって設定じゃん。


「そうそう。整形って癖になると感覚麻痺しちゃうのよねぇ。
ちょっと失敗よ。私お店で牛って言われてるし」


「牛って!あはは。
そんなことないでしょ」


「そ、そうかしら」


「うん。全然牛には見えないよ」


「そりゃそうよ人間なんだから」


「あはは」


近野くんは笑い上戸だ。シラフ同士で会うのは高校生ぶりだけど、お酒を飲んでいなくてもよく笑う。

自然に、屈託無く。

笑った時に目尻にできる皺がなんだかとても可愛くて、自虐ネタを話して良かったと思った。


ダヨの姿だからこそ、こういう返しができた。
まだオカマバーで働き始めて間も無いけど、いつのまにか私も人を笑わせることができるようになったみたい。
良かった‥。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...