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第4話 仔羊達の光
しおりを挟む今の今まで過去の話をしていたけれど‥
遂に今日の話をしてみようと思う。
『乳ィズー迷える仔羊達の光ー』
これが私の新たな職場‥。
いや、勿論言いました。言いましたよ。
これまでの生い立ちと、ここ最近の実情と、咄嗟に身に付けた必殺技の誕生秘話を。
でも、私を拾ったママはそれを踏まえた上でこの店で働けと言った。
乳ィズ以下略は個人経営のなかなかの人気店。
所謂観光バーといったところで、初心者のお客さんでもハードルが低い。
気軽に飲める上、ショータイムも1日2回あって、今日この日も既にお客さんは多い。
「や、やっぱ無理ですって!!」
紫色のドレスを着て、ド派手すぎる化粧を施された私。
私の性別が正真正銘の女であるということは、ママしか知らない。
『アンタ、もがいてるんでしょ?
居場所‥見つけたいんでしょ?1ヶ月でもいい。半年でもいい。何年でもいい。ここでまず、修行してみなさいよ』
『で、でも私‥!
お、女だし、喋りも下手ですし‥!』
『女である喜びを感じていないアンタは、まだ女とは言えないわぁ。それに、ココなら‥アンタを脅かし続けた女を見る目からは解放されるわ。まぁ、ニューハーフを狙う男からは注目されるだろうけど‥開き直れることでアンタも強くなれるはずよ?
それに、喋りだけが武器じゃないわ。聞く力も大切‥アンタ、人の話をしっかりと目を見て聞いてるじゃないの。それはアンタの武器なのよ』
そう言われて、私はここに在籍することになった。
生活を安定させる為の最低限の腰掛け扱いでもいいと、ママがそう言ってくれたのも決め手の1つだった。
とはいえ‥
おヒゲのお姉さん達がじゃんじゃか場を盛り上げている様子を見ると、覚悟が決まり切っていない私は腰が引けてしまうもので‥
昨日お店の人たちに挨拶をして、店内の様子を見せてもらったり、お酒の作り方や接客のマナーを教えてもらい、今日に至るんだけど‥
「もう、焦れったいわねえ」
グッと腕を引かれ、私は突如バックヤードから戦場へと降り立つことになった。
「えぇ?!ママ!なにその子!!めちゃくちゃ綺麗やん!!」
サラリーマン風の若目の男性が興奮気味に言う。
「何ヨォ、翔ちゃん!
あんなケバいのがいいわけぇ?!」
先輩ニューハーフの『ヒゲ・緑子』先輩が、翔さんと呼ばれた男性の背中を思いっきり叩いた。
今の私は確かにケバい。だけど緑子先輩‥目の上全部青いし、付けまつ毛多分5枚以上付けてるし、私より断然ケバいよ‥
「この子は今日からデビューの『ダヨ』ちゃんよ」
ママがそう言って、私の背中をパァン!と叩く。
ちなみにこの名前は佳代という私の名前を元に、仙崎かよ!仙崎だよ!っというノリで簡単に名付けられてしまったものだ。
「‥‥‥宜しくネ♡」
出来る限り低い声を出してみる。
ちなみに、引き攣りそうな顔を悟られないように思いっきりテンション低め。
「ク、クール!!」
翔さんがそう言って、爆笑している。
いやぁぁぁ。デビューしちゃった!
デビューしちゃったよぉぉぉ。どうしようううう!
翔さんの隣にいた、渋めなオジさんがニヤッと笑った。
「どうぞここに座って。その若さでそこまでの完成度‥
一体いくら使ったの?ダヨちゃん」
促されるまま、その席に座る。
「失礼します‥」
チラリとママを見たけど、ウインクをしてママはすぐさま居なくなってしまった。
「‥いくら使ったかは‥私にはわかりません」
この動揺っぷりが伝わらないよう、懸命に冷静さを装う。
本当にバレていないのかハラハラしすぎて、思わず視線が下がった。
「君の美しさに魅了されて、貢ぐ人が沢山いるってことだね。
それにしては憂い顔だね、ダヨちゃん」
なんと。
そう捉えられてしまうのか。
「‥‥まぁ私のことはいいじゃないですか♡」
にこっとそう微笑むと、渋めなオジさんがクスリと笑った。
ふぉぉぉ!感じない!
あのいやらしい視線を感じない!!!フォォォ!!!
いやぁ、こんな露出してるのに。
こんなことってあるんだ‥こんなことって!あるんだぁぁぁ!!
嬉しくなった私は、先程までの緊張が少し解れてきた。
要は、ここにいる私は私でいて私じゃないんだ。
今までのような、男ホイホイみたいな扱いも受けないし、ここにいる全ての人が『仙崎佳代』を知らない。
ちなみに、このお客さん達は有名商社勤めらしいけど、割と頻繁にこのお店に来るんだとか。
「次は近野も連れてきましょー」
だいぶ時間が経ち、いつのまにか翔さんと渋めのオジさん(染野さん)が席を立つ時間になると、翔さんがそんなことを言った。
近野という言葉に思わずピクリと反応する。
近野‥?
まぁ近野春一君な訳ないし‥。
うん。‥あの初恋の相手、近野くんなわけない。
頭の中で浮かび上がった近野くんをブンブンと消し去って、翔さんと染野さんを見送った。
結局、この日はママが私の初出勤の日だということを言い回ってくれたおかげで、常連客の方々にも顔を覚えてもらい、お客さん達からご祝儀まで頂いた。
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