わたし、性別偽ってオカマバーで働いてます

茶歩

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第3話 必殺技取得

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私は何のために都心の大学を選んだんだっけ。
‥‥ああ、そうだ。あの田舎じゃ私は勝手に物凄く悪い女イメージが定着されていて‥あの田舎から逃げたかったんだった。
おかげで、大学生活はそれなりに充実して楽しかった。ビッチに見られがちだったけど、私のことを本当に理解してくれる友達とも出会えたし、あの田舎と違って私はとても生き生きしていた。

そりゃあもちろん、卒業と同時に田舎に帰るなんて絶対に避けたかった。
あの閉鎖的な空間で、あの田舎の人たちが詰まったあの場所で、もう一度生活するなんて考えられなかったからだ。
何より就職先なんて、あの田舎じゃ見つけられない。

だから私は、都心で就職することを決めた。


両親は、誤解を受けがちで世渡りが下手な私を理解していたんだろう。だから何度も田舎に帰って来いと煩かったのだ。

だけど私は、認められたかった。
弟だけじゃなくて、私にも期待をしてほしかった。

学力は低かったけど、サボっていたわけじゃない。
勉強だけじゃない。今まで沢山空回りし続けていただけで、何事も一生懸命頑張っていたんだ。


今更、両親に泣きついてたった3ヶ月で実家に帰るなんて、報われないままもがいていた22年間を一瞬で無かったことにしてしまうようで、どうしてもできなかったんだ。




さて、ここで2日前の話をしようと思う。


休みもなく、残業漬けだったあの日々から解放された私。
悔しさやら何やらで目は冴え渡っていたけど、数日間の休息を経たこの日は久々に死んだように眠ることができた。

午後7時過ぎ、辺りも暗くなってきた頃。
突然カチャカチャ、と音がした。

そんな音に目を覚ました私が、そっとリビングを覗く。
そこには黒い服を身に纏った太った男が1人。こちらに気付かず、一生懸命私の下着の匂いを嗅いでいた。
手慣れた手つきで下着を畳み直すと、また別な下着を取り出してハァハァ言い始める男。


‥常習者‥‥。


私は左手にダンベルを持ち、右手でスマホを操作した。


「あ、もしもし警察ですか?」


「ひっ!!」


男はそんな声を上げ、慌てふためきながら私の家を出て行った。
そんな声を上げたいのは私だ。

恐らくピッキングか何かで入ったんだろうな。
私の生活パターンを知った上で、何度も侵入していたのかもしれない。やけに手慣れた手つきだったし。

そう思うと、全身の毛が逆立って仕方なかった。
今身に付けている下着もあの男が匂いを嗅いだものかもしれない。ここにあるコップや、洗面所の歯ブラシは‥?


全てのものが、汚染されているように思えた。


警察が対応してくれてからも、もちろんそれは変わらない。
何たって、あの男は捕まっていないし、そういう変態はあの男だけじゃないかもしれない。

かといって引っ越す余裕なんてない。
仕事も早く探さなきゃのたれ死んでしまう。

それはわかっているけど、全てが汚染されているように見えるこの家には居られない‥。


どうしてこういう目に合うんだろう。
警察が帰るなり、私は財布を持ってふらふらと外に出た。

とりあえず、カプセルホテルにでも行こうか‥。
そう思い、カプセルホテルが集中している歓楽街を目指す。
電車で数駅。近いようで遠いような街。

大学生の頃飲みに来ていた以来の、夜の街。


カプセルホテルに泊まって‥そのあとは?
あの家、どうするの?明日もホテルに泊まる気?

そんな自問自答を繰り返す私の肩を、誰かが掴んだ。


「ヒュー!お姉さん、いい体してるねぇ!
うちで働かない?」


水商売のスカウトマン‥。


「いや、結構です‥」


そう言って首を横に振る。


「いやいやお姉さんかなりの上物だから絶対に人気出るって!!」


中学生の頃のあだ名が『袋とじ』だったことをぼんやりと思い出す。なかなかセンスあるあだ名だったなぁ‥


「結構です」


履き慣らしたスニーカーで、やや早歩きで男から離れた。


「ねぇってば!」


しつこい!!しつこすぎる!小蝿かお前は!


私は逃げるように路地に進み、一本隣の大通りに出た。
ふぅ、スマホのナビではこっちにもカプセルホテルあるし‥


確かにあの男が言うように、そういう道に進めば少しは売れるかもしれない。でも、私は女を全面に出して生きていきたいわけじゃない。
私の乳と尻は、私にとってコンプレックスなんだから‥。


更に辺りは暗くなり、店のネオンが輝いて、通りは酒に酔いたい人々で溢れていく。


カプセルホテルに向かう最中、店のガラスを横目で見た。
なんて心細そうな顔をしているんだ私は。
情けなさ丸出しだ。


「ねぇお姉さん、こういう仕事興味ない?」


ああ、またか。


「結構です」


そう言って、視線を逸らすように真横を見た私の目に映ったのはオカマバーの看板。


‥‥あ。


「いや、絶対に君売れるって!
ウチもちろん本番無しだしさぁ、あっちの通りにある店なんだけどさぁ!」


「私、オカマなんで!!」


「‥え?マジ?」


「ええ!!」


男はぽかんとしたまま。凄く綺麗だねとの褒め言葉と共に簡単に去っていった。

きゃー!使える!使える!!この技!!


喜ぶ私の肩に、後ろから手が置かれた。
また来たわね?!スカウトマン!!でももう私には必殺技が出来たのよ!


「アンタうちで働きなさいよ。
仕事探してんでしょ?」


「私、オカマなんで!!」


そう言って思いっきり振り返る。

‥‥え?


「だから声掛けてんでしょうが」


ば、ばりばりのオカマ。
艶があり過ぎな真っ赤なボブヘアーがさらりと風に靡く。


「え‥‥」


「とにかく一回話をしましょ。
そんな捨てられた子犬みたいな顔して」


フンっと腕を組むオカマさん。
そのガタイの良さに圧倒された私は、とりあえず説明だけして退散しようと思い、首を小さく縦に振った。

すぐ逃げられると思ったのだ。
手首をがっしりと掴まれて、店内に連れていかれるまでは‥


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