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第72話
しおりを挟むつまり私は、「好きだけど好きじゃない」と嘘をつこうとしたと自ら認めたようなものだ。
「好きなんだな、うん」
ギルさんが嬉しそうにそう言って頬を緩めている。
この人、カリスマ性があって聡いのに‥たまに阿呆みたいに無防備になるんだよね‥。
「‥‥‥はぁ」
何がなんでも隠し通そうと思っていたのに、その為につこうとした嘘が、かえって私の気持ちを証明させてしまった。
「‥なんでそこまで頑なに隠そうとするんだ?」
「そんなの言わなくても誰でもわかるじゃないですか」
叩かれて、蹴られて、唾を吐かれて、笑われて。
そんな私をせめて私自身が“可哀想な人間”だと思いたくないと、凛と生きてきたつもりだった。
だけど恋心を抱いた相手が王様だとすれば、『凛と生きよう!』とただただ図太くなれるわけじゃない。
「‥‥見世物だとか、異物だとか、そんな理由か?」
ギルさんの瞳は、少し怒りの色がが滲んでいた。
でも怒られたって困る。だって見世物だったのも、異物なのも事実なんだから。功績があるんだから自信を持てとか、そんなことを言われても私には響かない。功績をあげる為にやったことじゃないし、その功績ですら捉え方によっては慄かれるほどに異常なのだから。
「‥‥私はギルさんの評価が落ちて欲しくないんです」
空気に負けそうになりながらも、何とか言葉を落とす。
「評価も何も‥この国の救世主と言われてるんだぞ?アイナは」
確かに王宮を出て誰かに会えば、嬉しそうな表情を浮かべている人たちばかりだ。でも、表面に出てこないだけで私をよく思わない人も絶対にいる。医者のリッキーさんのような考えの人は絶対いるんだ。
「‥‥もう、とにかく‥他に素敵な女性を見つけてください。
私との関係の発展は望まないでください」
半ば吐き捨てるように、会話を遮るようにそう言った。
自分で思っていたよりも、私は私にコンプレックスを強く抱えていたみたいだ。
傷付けられてきた心がガチガチに凍っていて、その氷がなかなか溶けてくれない。
「‥‥俺はアイナじゃないと無理」
ぎゅっと抱き締められると、全身がギルさんの熱を感じて安心する。でもそれと同時に心拍が早くなって、落ち着かなくもなる。
ギルさんが悲しそうに私を求めてくるから、心が痛くなって涙が出そうになった。
ふと、顎に手が添えられた。そのまま唇に唇が重ねられ、堪えていたはずの涙が頬を伝って流れていく。
長いキスの後、私たちは目を合わせた。
「‥‥なんで泣くんだ」
私の涙はまだ流れ続けていた。
抱き締めあったり、キスをしたり、ギルさんとの距離が近くなれば近くなる程、ギルさんを強く求めてしまう。
ギルさんはまたもや私にキスを落とした。優しくて、切なくて、胸が痛い。
あぁ‥私‥
「‥‥ギルさ、んが‥好き‥」
気付いたら嗚咽を溢すほどに泣いていた。
自分の心の声を認めるのが、こんなにも大変だったなんて。
何か諦めたように、自然と口から溢れた本音。
そもそも王宮魔道士として一生側にいたいと思う時点で本当は手遅れなんだ。私は既に彼にずぶずぶとハマっていて、ガチガチだった理性やコンプレックスは彼に触れられて溶けていく。
「アイナ‥‥」
やっと気持ちを認めて向き合おうとした私を、ギルさんは抱き締めたまま離してくれない。ギルさんの指先が、私の髪を撫で、耳を触り、頬に触れた。私を愛おしそうに触る彼は、心底嬉しそうな顔をしていた。
またキスをされた。キスをするたびに、幸せそうな顔をするギルさんと‥心の氷が溶かされるのか涙が溢れる私。
何度も何度も夢じゃないと確かめるように、唇を重ね合わせた。
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