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第47話

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「大丈夫か‥?頭痛酷そうだな」

私の様子を見てギルさんが眉を顰めている。
外ではフクロウが鳴いていて、夜が深まっていることを伝えていた。

 あのあと、プテラス領を後にする人も若干名いた。
だけどほとんどがこの地に残った為、早急に環境を整える必要があった。

 ルーン村の人々にも頭を下げ、溜まりに溜まった魔法石を元に寝床を作ってもらい、獣人に備えて警備もかなり強化した。

 いくら第4宝庫まで魔法石がいっぱいだとしても、自分自身の魔力でなんとかしたい!と張り切ってしまった結果、この有り様だ。
 1000人程の移動魔法を使った後だから、人生で初めて魔力切れの症状が出た。魔力切れの頭痛や目眩には、回復魔法は効かないらしい。横になって静養するしかないんだそうだ。

「横になってると‥なんだか楽になる気がします」

 ガンガンとトンカチで頭を殴られていたような頭痛も、少しは和らぐ。
私はいま自室のベットに転がっていた。本当ならまだ歩き回って魔法をかけて回りたいのに‥。

「今日は無理させたな」

「私が好きでしたことですから‥
むしろ人数多すぎましたよね、ギルさんのお仕事すっごく増やしてしまってすみません‥」

「俺は大丈夫だ。
それに、これはプテラス領の勢力を伸ばすチャンスでもある」

 まさかこんなに沢山の人々を移動させることになるとは思っていなかった。それだけ、あの獣人の勢いが増してるってことなんだよね、きっと。

「そうかもしれませんけど‥ギルさんも疲れましたよね‥
私は大丈夫ですから、ギルさんも休んでください」

「‥もし体調が急変したらどうするんだよ」

「急変しませんよ、大袈裟ですよ」

 ルーン村の人々から魔力切れによる症状を聞いたことがある。
頭痛や目眩、吐き気や動悸息切れなんかの症状があるんだって。基本的に寝て朝を迎えれば魔力が自然に補充されてて元に戻ってるんだとか。

「アイナの魔力は人と違うんだから、症状も悪化する可能性だってあるだろ」

 ギルさんが少し怒ってる。
私のことで怒ってくれるなんて嬉しいけど‥ギルさんだってこの異常事態で大忙しだったんだし、やっぱり休んでほしい。

「‥それなら、ギルさんもこの部屋で寝ましょう」

「?!」

「そうすればギルさんだって休めますし、もし何かあったらギルさんのこと起こしますから!それで解決しますよね!」

「いや、それはさすがに‥」

「え?何か問題ありますか?」

「っ‥!!‥‥ないけど!」

 ギルさんは隣の自室からタオルケットを持ってきて、私のベットの横にあるソファに寝っ転がった。

「ソファじゃ疲れ取れないですよね?
こっち全然余裕ありますよ!」

 贅沢にも、エルマーさんが用意してくれたベットはとてもサイズが大きい。大人3人でも余裕で横になれてしまうのだ。

「おやすみ!!」

 だけどギルさんはソファから動かずに、少し怒り気味にそう言った。
どうして怒らせちゃったんだろう‥。やっぱり自分のベットの方が良かったかな。‥そりゃそうだよね。

「おやすみなさい、ギルさん。
心配してくれてありがとうございます」

「ん」

 そう言って私たちは眠りについた。
明日からはきっともっと大忙しだ。

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