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第38話
しおりを挟む俺の名前はギル・カーター。
セブラ公国の王、ヴァレンタイン大公の婚外子だ。
物心ついた頃から既に山奥の馬鹿みたいに広い家で母と護衛との3人で暮らしていた。学校にも通ってたし、護衛は時間さえあれば俺に剣術を叩き込んでたし、世界のことも母と護衛が教えてくれて、特に不満のない穏やかな日々だった。
自分が大公の婚外子であることを知らされて生きてきたけど、ある程度の歳になると母と護衛がお互いを思い合ってることにも気付く。恐らくずっと昔から2人はこうだった。つまり、ヴァレンタイン大公が母に手を出したせいで出来た俺は、2人にとって憎い存在でしかないはずだ。
だけど2人はただ大切に、俺を育ててくれた。
ただ、そんな状況も時が来れば一変する。
俺が16歳の頃に、セブラ公国の王子達が次々と死にはじめた。その頃から王宮から頻繁に使いの者がやってくるようになってきた。恐らく俺のステータスを探りにきてたんだ。
母も護衛も、俺を守ろうとしてくれてたし、俺もこの家を離れて王宮なんかに行くつもりはなかった。俺にとっての父は護衛だったから。
1年ほど王宮からの交渉を断り続けていたある日、魔法庁の奴らと軍の兵士がこぞってやってきた。
そして母と俺の目の前で、護衛を殺したんだ。俺はそこで何人もの兵士を斬ったし、魔力も限界まで使い果たすくらい暴れに暴れた。気付いたら何人もの死体が転がってた。
俺のせいで、母と護衛は正式に結ばれなかったのに、俺のせいで護衛が死んだ。
来るものに全て噛み付いて喰いちぎるような勢いで暴れていると、俺には狂犬という二つ名が付けられた。どうでもよかった。このまま王子候補外になればいいと思った。
奴らは帰っていったけど、諦めていなかった。
そのうち、母まで殺されるのではないかと俺は怯えるようになった。事実、これが王宮の作戦だった。暴れて手がつけられない俺が、母の命を守る為に王宮に出向くという狙い‥。
護衛が殺されて母は相当参っていて、血を吐くこともあった。俺が王子になれば母にも主治医をつけて良い環境で生活させてやると言われ、俺は暴れるのをやめた。
だけど、母は頑なにそれを許さなかった。
「この国は腐ってる。あんたをそこに行かせたくない‥」
母を助けたいけど、母の心からの願いも受け入れたかった。
可能な限り魔法で病状を楽にさせようとしたけど、末期だったようで効果はあまりなかった。
「俺‥ぶっ潰すね、腐ってるこの国を‥」
母は死ぬ間際にこの言葉を聞いて、嬉しそうに笑いながら死んでいった。
俺は母を護衛と同じ墓に入れ、すぐに家を離れた。王宮の奴らに嗅ぎ付けられる前に離れなくてはならなかった。
母と護衛を失った心は常に死にそうだった。もう二度と大切な存在を作るのはやめようとも思った。この国は腐ってるところが至るところにあって、悲劇が常に作られてる。もう二度と、大切な人がこの国のせいで死んでいくのは見たくない。
そうして王宮から逃げながら数年この国を彷徨っていた俺は、あの日アイナに出会った。
腐った世界に心底やられている癖に、彼女はどこか凛としていて、そして驚く程純粋に感謝を述べられる女の子だった。
膨大なアイナの魔力を見て、この国をぶっ壊す為に手を借りようと思った。アイナも喜んで賛同してくれた。
大切な人はもう二度と作らない。じゃないと、いなくなってしまったときにもう耐えられる気がしない。
だからアイナはただの同志であり協力者でしかない。
そう思ってたのに、いつの日からかそのひたむきさや健気さが、やたらと目についてしまう。無邪気な笑顔を愛しくも思えてしまう。
俺は何とかその気持ちを押し込めることに必死だった。
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