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第32話

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 親分がいるのはアジトの最奥にある小屋の中だった。
武装した山賊がもの凄い形相で私たちを睨んでいて、空気は重く物々しかった。
 親分は小屋の奥でどっしりと胡座あぐらをかいている。太い眉は雄々しく、鋭い目付きには力があった。30代半ばから後半くらいだろうか。

「‥ルーン村から来た。俺の名前はギルだ。こっちはアイナ」

 ギルさんがそう言うと、親分も口を開いた。

「俺はオリヴァーだ。一体、どえらい魔法使いさんが何の用だ?」

 オリヴァーさんの言葉に私とギルさんは顔を見合わせた。
ここにきてから使った魔法はギルさんが唱えた風の防御壁のみ。ヴィンスのことはずっとツタでぐるぐる巻きにしてるけど、こんなのきっと誰だってできるはずだ。

「ギルといったな。お前だけでも22300マナで相当高いってのに‥アイナっつーその姉ちゃんは5846000マナときた‥。こんな数値見たことねぇよ。化け物かよ」

 え‥?この人数値が分かるの‥え?
キョトンとする私に対し、ギルさんが補足をしてくれた。

「ごく稀に魔力値を感じ取れる人がいるんだよ。
俺の魔力値が当たってるから本物だね、この人は。それにしても凄まじい数値だな‥」

「確か魔法庁の長官、50000マナじゃなかったでしたっけ?」

 サーカスにいた私ですら噂に聞いたことがある魔法庁長官の数値。
その100倍って‥。え、私凄くない‥?

「そうだな。アイナ、あんたやっぱり天下取れるよ間違いなく」

「天下はギルさんが取ってくださいよ!私は嫌ですよ!学もないから無理です!」

「えー、俺だけじゃ無理だから。やっぱ“ギライナ”で天下とるべき」

「えぇ、私の名前が入るなんておこがましいですよ」

「間違いなくこの世で一番魔力が高いんだから、痴がましいわけないだろ」

 状況も忘れて天下談義をしていると、オリヴァーさんの咳払いが聞こえた。初めて魔力値を知ったもんだからついつい盛り上がってしまった。

「天下、本気で狙ってんのか?」

 オリヴァーさんの言葉にギルさんは頷いた。

「天下ってより、国家転覆を狙ってるね。誰が天下取ろうと正直どうでもいいけど、今の公国ぶっ潰すつもり」

 ギルさんがそう言うと、オリヴァーさんは豪快に笑い声をあげた。

「傍にその姉ちゃんがいればその夢は間違いなく叶うだろうなぁ。
さて、規格外の魔力値を見せられて‥断る余地がないのは理解したんだが、一体何を交渉しにきたんだ?」

 おぉ‥私の魔力値、役に立ったみたい‥。

「あんたら全員、ルーン村に来ないか?
まともな生活と働きに見合った稼ぎを保証するから、俺らの兵力になって欲しい」

 オリヴァーさんは虚をつかれたように目を丸くしたけど、暫くしてまた豪快に笑った。
 私たちの会話を黙って聞いていたヴィンスは、ギルさんのこの言葉を聞いて盛大に吠えた。

「親分!!こんな奴らの話聞く必要ないですよ!!例え全滅したとしても、山賊の誇りに懸けて、こいつらをぶっ潰しましょうよ!!」

 昨晩、秒で私に拘束されて力の差を理解している筈なのによくそんなことが言えるよ‥。逆に言えば相当心が強いのかな、ヴィンスは。

「馬鹿だなぁヴィンス。
人のものを奪って生計立ててる時点で誇りなんてねぇんだよ。俺らだって好きで山賊やってたんじゃねぇ。こうするしか生きてく方法がなかったんだ。その上、今の俺に残されたのはお前らだけだ。お前らの命より大切なもんはねぇんだよ。全滅とか軽々しく言うんじゃねぇ」

 オリヴァーさんの言葉に、ヴィンスはハッとしたように言葉をなくした。

「じゃあ、受けてくれるのか?」

「あぁ、ここにいる32名‥まともな生活を送らせてくれ」

「交渉成立だな」

 こうしてルーン村を脅かす脅威は、強き味方へと変わったのだった。


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