見世物少女、反乱します！《完》

ーメリッサという女ー

　今から１６年ほど前‥セブラ公国に大きな衝撃が走った。
魔法庁に勤めていたマーゴットという女性は、自分の力を世に知らしめる為に禁忌とされていた召喚術を行ったのだ。それも‥王宮通りにある噴水広場で、多くの人々に囲まれながら。

　マーゴットの召喚術で現れたのは、大きなお腹を抱えたメリッサだった。メリッサは真っ直ぐに伸びた黒い髪を持ち、兎のように紅い目をした美しい女性だったが、この世界では異質と見做され恐怖の対処とされた。

　召喚術を行ったマーゴットは、メリッサを召喚した際にメリッサの強い魔力に当てられて断末魔と共に命を落とした。
　禁忌である召喚術、初めて見る容姿、亡くなったマーゴット。‥人々はメリッサがこの世界に現れた途端、メリッサに怯えて叫び声をあげた。

　突然召喚されて状況を飲み込めないまま、メリッサはこの世界の人々から敵対視をされ、メリッサを排除すべく魔法や剣で攻撃までされた。お腹の中にいるアイナを守ろうと、メリッサはその膨大な魔力で必死に抵抗した。
　どんなに大人数だろうと、魔法庁の長官が魔法を唱えようと、メリッサには敵わなかった。

　やがて人々は、攻撃をしなければメリッサが対抗してこないことに気付き、怯えながらもメリッサから距離を置いて生活するようになった。
　メリッサは人々が近付かない森の中で、涙を流しながら日々を過ごした。突然この地に飛ばされたが、禁忌である召喚術を使えたのはマーゴットだけだった。それなのにマーゴットは亡くなってしまっているし、敵対視されているメリッサは、その召喚術を調べる術すらない。

　元の世界では姫として幸せに過ごしていたのに‥。家族にも、愛する夫とも会えないなんて‥とメリッサは毎日泣いたが、お腹にいるアイナだけが心の救いだった。

　いつか元の世界に戻れるはずだと懸命に耐え忍んでいたメリッサだが、慣れない土地に酷な環境、そして絶え間ない心労により段々と衰弱していった。

　アイナを産むことすら厳しい状況だったが、メリッサは己の全てを懸けてアイナを産んだ。こんな世界で産んでしまったアイナの将来を心配し、嘆きながら彼女は命を落としていった。

　メリッサの腕に抱かれたアイナを取り上げたのは、メリッサの動向を近くから探っていた軍の人々だった。その場でアイナをすぐに殺さなかったのは、メリッサの子どもであるアイナの魔力値に期待し、赤子の頃から育てあげればセブラ公国の兵器になり得ると考えられたからだ。

　早速病院に運ばれ魔力値が測られると、人々はアイナの魔力値が０だったことに心底驚き、気が抜けたように笑い合った。

　恐怖の対象であったメリッサ。国の力を全てぶつけても敵わなかったメリッサ。その子どものアイナは愚かなことに魔力がないのだ。

　これが、この世界の人々がアイナを忌み嫌い‥そして愚かだと笑う理由。



　メリッサの元の世界では‥
生まれた時に０だった魔力値が、日々を重ねる毎に増え続けていくのだと‥この世界の人々は知る由もない。