11 / 13
第11話 小娘如き
しおりを挟む蛍さんが繰り出した旋風は5つ。
右往左往しながらも私をロックオンして追いかけてくる。
まだ足の裏は痛くて、ぴょこぴょこ跳ねるようにしながら逃げる私。
そんな様子を、蛍さんは面白そうに眺めている。
訓練場の木の幹に旋風が当たると、シュンッという音を立てて木の幹を削った。まるで刃物で切り裂いたかのような切り口。
そういえば、カマイタチっていう妖怪の話聞いたことあるなー‥って、そんな場合じゃなくて!
あんなのがぶつかってきたら、切り刻まれて死んじゃうよ!!
支給された慣れない草履じゃ尚のこと走りづらい。私の足は簡単にもつれて倒れ込んでしまった。
「わぁぁぁ」
もう、死ぬ‥!
体を縮こませて目をぎゅっと瞑る。
順風満帆な人生だと思っていたのに、最後の最後だけ凄まじかったなぁ‥。まぁ、運がなかったということで‥
私は潔く諦めて、この人生に幕を下ろそうとした。
『なに勝手に死んでおるのじゃ』
え‥!
また!また勝手に言葉が飛び出た!
「玉さん!助けてよっ!」
『安心せい、目を開けて見てみろ』
あ、そういえば。
もうとっくに攻撃を喰らっててもいいはずなのに、痛くない。
そっと目を開けてみると、大きな蛇のようなものが私を包み込んでいた。真っ黒な鱗は、ひとつひとつがやたらと大きい。
「なっ‥」
その大きな蛇が私の体から離れるのと同時、蛇は黒い霧のように消えていってしまった。
霧が消えると、視界に入ってきたのは対峙する陽さんと蛍さん。
「‥どういうつもりだ、蛍」
黒い着物を身に纏った陽さんは、腕を組んで不機嫌そうだ。
そうか‥陽さんが助けてくれたんだ‥。
「どうもこうも、小春ちゃんが嘘付いたのがいけないのよ。
私に毒吐いてきたの!それを、玉藻前の所為にするんだもの」
蛍さんが私を指差しながら、懸命に訴えている。
あの様子‥陽さんが助けてくれてなかったら、私本当に切り刻まれていたんだろうな‥。
「あいつは異例だ。普通の憑依とは違う。
通常の妖と同じ基準で見るべきじゃない。
憑依された時、あいつは足裏から血が出ていたけど、玉藻前は大人しく入り込んでるし」
あー、なんか八重様も言ってたなぁ。
血が出てるうちは憑依させられないって。制御できなくなるからってのが理由らしいけど。
ちなみに、憑依させた後に出血した場合は大丈夫らしい。
「な、なによそれ。
小春ちゃんの味方するわけ?!」
蛍さんにも信じて欲しいんだけどな‥
どうしたら信じてもらえるんだろう。
「蛍さん、本当なんです。
急に出てきたんです、玉さんが」
よっこらしょと立ち上がる。
無理にぴょこぴょこ逃げたせいで足裏はズキズキと痛んだ。
「歩けるか」
「あ、はい」
陽さん、全然こっちを見てくれないけど‥なんかほんの少し優しい気がするのは気のせいだろうか。
その場を去ろうとする陽さんが、「行くぞ」と私に声を掛ける。
「ま、待ってよ陽!
小春ちゃんに騙されてるって!玉藻前が入り込むくらいなんだから、小春ちゃんもやばい女なんだよ!絶対!!」
あー、もう‥
完全に嫌われちゃったじゃん。
どうして玉さん出てきてくれないの!
玉さんが出てきてくれれば解決するのに‥!
「小春ちゃんなんて乗っ取られて死んじゃえ!」
ひ、ひどい‥!
ひどすぎる‥‥!
衝撃的すぎて思わず笑ってしまいそうになった。
『ふふふ、はぁ。
可笑しな女じゃの』
!!
玉さん!やっと出てきてくれた。
私の数歩前を歩いていた陽さんがピタッと足を止めて振り返った。
陽さんが、ふんっと小さく笑う。
その途端、私の体が勝手に動いた。というか勝手に足がもつれた。
?!?!
まさかまさかの、ここで陽さんに抱き着いてしまった私。
急いで離れようとするも、全然体が言うことを聞いてくれない。
これ、まさか玉さんに操られてる‥?
「ひっ!よ、陽から離れなさいよ!!」
蛍さんが顔を真っ赤にして怒っている。そりゃそうだ。
陽さんを好きと聞いたばかりなのに。
蛍さんがまた妖気を出して、旋風を巻き起こした。
ああ‥また来るじゃん!陽さんがいるから死なないだろうけど、本気で命狙ってるやつじゃん!!
『ああ、哀れ哀れ』
そんな言葉が口から出た途端、髪の毛が一気にぶはっと伸びた。
風に舞う長すぎる自分の髪の毛に思わず瞬きを繰り返す。
ふわっと私の体から青白い光が盛大に飛び出して、その光だけで旋風は消え去ってしまった。
「な‥」
あんぐり口を開ける蛍さん。
『儂をあまり怒らせるな。
泣きを見るのはお前じゃぞ、小娘』
そう言って、私の体は陽さんの腕を絡め取って歩き出す。
玉さんの言葉だったということは信じてもらえただろうけど、恐らく完全に嫌われてしまった。
ていうか、早く体返してくれないかな。
陽さんも抵抗すればいいのに‥。
玉さんの青白い光に圧倒された蛍さんは、その場にヘタリと座り込んでしまった。
しばらく歩くと、陽さんが口を開く。
「なんで最初からそうしなかったんだよ」
ごもっともだ。最初から青白い光を出してくれていれば、陽さんの手も煩わせなかったのに。
『あの生意気な小娘を、より突き落とす為じゃ』
ふふふ、とそう言って玉さんは笑う。
確かに自分の好きな人が、自分の攻撃から他の女を守る姿なんて腹ただしいかもしれないけど!
なんて黒いの、玉さん!敵作らないでお願いだから!
「苦労すんのはお前じゃなくて小春なんだからな。
そろそろ戻ったらどうだ」
『ふふ、優しいのぉ』
ぽんっと何かが弾けた感覚に襲われる。
耳元で沢山のシャボン玉が一斉に弾け飛んだ感じだ。
「うわ、髪!戻った!!」
なんて一瞬‥!
これは凄技だわ。宴会芸で使いたい‥。
あ、もうOLじゃないんだった。良かった。来月の歓迎会で余興頼まれてたんだよね‥。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる