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第3章ーー爆発ーー

第20話

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 いつも以上に大袈裟な白いドレス。いつも以上に激しく生える頭の羽根。おまけに、サモナーっぽいという意味のわからない理由でスキルとは無縁の羽根が生えた杖まで持たされている。

 おかげさまでいつも以上にあからさまなコスプレだ。歩く誇大広告、といったところか。


「ほらどうした。早く来い」


 いつもよりも豪勢な正装姿のリアム様が、眉を顰めて言う。白金のサラサラな髪がよく映える、真っ赤なマントを羽織っている。


 今日は貴族達や有能スキルを持った権力者たちを王宮に招待し、なんとヴァルキリーサモナーのお披露目会をするらしい。
 それは本当に必要なことなのか、私には全くわからなかったが、リアム様曰く必要なことらしい。


「私、ただの町娘なんですけど‥」

「違う。おまえはヴァルキリーサモナーだ」


 だからヴァルキリーサモナーって!!なんなんですか!!
 
 任命されてから、もう1~2ヶ月ほど経っただろうか。建設スキルを使っては気を失ったり失わなかったりを繰り返し、あの草原も観光地としてだいぶ様になってきた。
 リアム様がご公務で来られない時は、ベンジャミンさんが着いてくるといった感じで、うまい具合に王宮から出て作業を繰り返していたのだ。
 
 アレクさんはご隠居ということで、政治の類には直接関わろうとしない。自由気ままに過ごす為にも、こういった会には極力参加しないそうだ。

 小さくため息を吐く。何がどうして、こんな煌びやかな王宮内で、自分を宣伝する為のパーティーに参加することになったんだろうか。
 あろうことか、私の隣にはこの国の王であるリアム様がピッタリと並んでいるのだ。数ヶ月前の私には到底信じることができなかっただろう。



「それでは、扉をお開けしますね」


 リアム様の側近の方々には、思いのほか良くしてもらってる。近い距離で過ごすことが多いベンジャミンさんはもちろん、側近の方々の中で唯一の紅一点であるナターシャさんとも、最近は仲良く話せるようになってきていた。

 扉を開けるのは、そのナターシャさんだった。笑顔のまま力強く頷いてくるナターシャさん。まるで頑張って下さい、と背中を押されているようだった。



「リアム様、お美しい‥!」

「ヴァルキリーサモナー様!なんて神がかっているんだ!」

「白い羽根がなんとも似合ってますな。天使のようだ」

「リアム様とヴァルキリーサモナー様、とってもお似合いですわ」


 会場に足を踏み入れた途端、様々な声が響いた。このコスプレも、誇大広告効果抜群のようだ。私とリアム様がお似合いだとかいう奇妙な言葉も聞こえた気がした。


「ちゃんと顔を上げて歩けよ」


 そんなこと言われましても‥と困り気味な視線をリアム様に向けると、リアム様は意地悪そうな、それでいて自信に満ち溢れているような、そんな堂々とした笑顔を浮かべていた。

ーーわぁ、王様っぽい。

 もちろんリアム様がこの国の王であることは重々承知の上なのだが、この時は何故か強くそう感じた。



 一段上がったステージの上、私はリアム様の一歩後ろでおずおずと立ち竦んでいた。

 リアム様は、パーティー参加者たちに流れるように挨拶を済ませると、今度は私の方に視線を向けた。

 会場中の視線が一気に私に集う。
私の頭の中は「どうしてこうなった」で溢れかえっていたが、リアム様は構わず言葉を落とし始めた。


「この者が、私に尽くす神の使い、ヴァルキリーサモナーのエレンである。天から授かったその力により、現在『楽園』を築きあげているのだ。
国の為にその力を使い、何度も倒れながらも、己を犠牲にしてまで尽力している。
身も心も美しい彼女は、今やこの国になくてはならない存在だ‥!」


 ペラペラと、よくもそんなに流れるように言葉が出るもんだと唖然としていると、会場中に盛大すぎる拍手が溢れた。


「おいっ、お辞儀くらいしろっ」


 目をパチパチとさせていた私に、リアム様が小声で叱咤する。
 私は慌てて頭を下げて、その拍手が鳴り止むのを待った。



✳︎



 お披露目が終わると、パーティーの始まり。
人々は楽しそうに会話を弾ませ、豪勢な食事を楽しみ、色鮮やかなグラスに口を付ける。
 
 
 有能なスキルを持つ側近たちがいるため、リアム様も来客者たちと楽しそうに会話を交わしている。こんなに近くで、身を案ずることなく人々と笑い合えるのは、側近たちのおかげとも言えるだろう。


「お前は後ろに立ってるだけでいいから」


 そう言ってくれたリアム様の後ろで、私は隠れるようにして立っていた。なにせ、ヴァルキリーサモナーのお披露目会だ。皆わらわらと集まってきてしまうのだ。
 生憎私は口は達者じゃないし、正直お披露目が終わった時点で部屋に戻して欲しかったくらいなのである。
 リアム様の後ろにいると、リアム様が一旦盾のように私への質問や言葉を受け止めてくれる。私は社交性抜群のリアム様に任せて、控えめに微笑むだけだった。


「リアム様、ご婚姻も近そうですな」


 とても品のあるおじさまが、にこやかにそんなことを言う。


ーーそうなんだ。確かにリアム様のご年齢的に、そろそろそういう方が現れてもおかしくないし、むしろもういるのかもしれないな。なんせこの美貌だ。リアム様はさぞかし相当おモテになるだろう。


「さ、さぁどうだかな」


 白金の髪から見えるリアム様の白い耳がボッと、赤く染まっていた。



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