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第2章ーー起点ーー
第17話
しおりを挟む建設のスキルは、あらかじめ建設資材を用意しておいた状態で作り上げたいものを強くイメージする事で発動されるらしい。
うまく使いこなせば、1人で街を作り出せてしまえそうな便利なスキルだけど、やはり良いことばかりではない。
このスキルは、他のスキルと違って体力の消耗がとても激しいらしく、1日でポンっと作り上げることができるような生半可なものではなかった。
大きな宿屋や王宮のような入り組んだ大きな建物は、建設資材もそれだけ多く必要になる。そのうえ、私のポワポワ~としたイメージのみで作り上げるのは些か不安すぎるため、建設資材の他に設計図も必要になるらしい。
思い返してみれば、プラムも『今日は噴水を作ってきたわ』『ブランコ作ってきてやったのよ』とか言ってたなぁ。そして、そうやって働いてきた日はガクッと疲れてたっけ。
月に1~2回働くかどうかくらいだったけど、本当は大変だったんだなぁ‥。
小さいものや、作りが簡素な小屋なんかはパッとイメージするだけでもいいのかもしれないけれど、難解なものを作るのには相当な事前準備が必要だ。
私はまずこのスキルがどんなものなのかを理解するためにも、この広い草原でデモンストレーションをしてみることにした。
とは言っても今ここにあるのは『草』‥と一応『土』もあると考えていいのかな。
胸元で両手を合わせ、祈るようにして目を閉じる。決められたポージングというわけではないが、こうすると集中してイメージできるような気がした。
大きな観光施設を作って‥お客さんにいっぱいきてもらいたい‥。家族やカップル、旅人さん、素敵な宿も作って、子どもがのびのび遊べる広場もあって、お年寄りたちが楽しく談笑できる場所も作ってーーーー
ーーーーゴゴゴゴゴ、ズサササ
「エ、エレンちゃん」
アレクさんが切羽詰まったように私の名を呼んだ。その瞬間、集中が切れてハッと目を開ける。途端に私はまるで立ちくらみのような感覚に襲われ、その場に倒れこみそうになった。寸前のところでアレクさんが抱きとめてくれる。
まるで正気を吸われてしまったみたい。体がヘロヘロで力が入らない‥
デモンストレーション如きでこんなに体力を使うなんて‥
極度の疲労からか、まぶたの上に石が乗っかっているように重い。だけど、どんなものが出来上がったのか見ておかないと‥‥。
「‥‥‥‥ええっ?!」
思わず素っ頓狂な声が出た。なんだこれは。なんのミステリーなんだこれは。
「ごめんねエレンちゃん。
これ以上やると君の体壊れちゃうかもと思って」
「これは‥役職名をヴァルキリーサモナーアルケミストにしてもいいかもしれないな。
いや、アルケミストヴァルキリーサモナーの方がいいかもな」
「あんま長いとかえって定着しなくなるから、ヴァルキリーサモナーのままでいいと思うよ、リアム」
広い草原には、土と草で出来上がった泥人形たちが何百体もいた。談笑していたり、手を繋いでいたり、ご飯を食べているような様だったり、本当に沢山の泥人形がまるで生きているかのようにワンサカ居た。
ああ、そっか‥。私、『何か』を作るっていうよりお客さんたちをイメージしちゃったからこうなったのか‥。
こんなんじゃダメだ、しっかりしないと‥。
私の意識は、そこからパタリと途絶えて深く深く沈んでいった。やはり体力の消耗は半端じゃないようだった。
「な、なかなかやるじゃないか!
正直これだけでも観光客を呼べそうだな!」
「エレンちゃん気失っちゃったよ」
「えっ」
「止めなかったら死んじゃってたかもしれないなぁ。
正しいイメージの仕方覚えないとダメだね。想像膨らませながらやると今みたいになっちゃうからね。完成像をイメージしないと」
「お、おいナターシャ!医者を呼べ!」
リアムが顔を青くして側近に声を掛ける。‥が、アレクがそれを制した。
「大丈夫大丈夫。
今は疲れ果てて気を失っただけだから。帰ろうか」
「‥はい」
アレクが軽々とエレンをお姫様抱っこで馬車へと運ぶ。リアムは、アレクの大きく頼れる背中を、いつも通り尊敬と憧れの眼差し見つめていたが、何故かこの時は初めて悔しさのような嫉妬のような、不思議な息苦しさを感じて思わず首を傾げた。
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