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第2章ーー起点ーー

第14話

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 服従のスキルを使うには、服従させたい人の瞳を見て念じるしかないそうだ。そして服従のスキルを使った人、服従のスキルを使われた人の両者の額に、刺青のような『服従の印』というものが刻まれるらしい。

 つまり、私がリアム様を服従させれば、私の額にもリアム様の額にも『服従の印』が出る。その場合、私を殺せば服従のスキルは解けてリアム様は解放される。
 
 だけど、私がもしもアレクさんの不死のスキルを奪ったうえで誰かを服従させたら、不死になった私から服従を解放する手立てはない。

 リアム様が懸念を抱くのは致し方ないことだった。



「大丈夫だって~。エレンちゃんはそんな子じゃないよ」

「‥‥エレン自体が例え信頼できる人物だとしても、もし今後誰かがエレンに取り入って、エレンが手のひらを返すことは大いにあり得ます」

「まぁ、その可能性はなくはないよね。
だから絶対的な味方でいてもらえばいい」



ーーーん?



 私とリアム様は、面白い程に同じ表情を浮かべていた。


「リアムの周りの側近は、有能なスキル保持者が多くいるよね。

誰かがリアムを裏切る兆候を察することができる『看破』、君に降り掛かる刃から君を守る『防護』、遠く離れたところからでも敵を殺せる『暗殺』。

他にも沢山いるはずだ。でも彼らはエレンちゃんに反応していないでしょ?エレンちゃんが無害だと分かっているからさ」


「‥‥絶対的な味方とは?」


「リアムがエレンちゃんを娶るのさ。それが叶う程に、エレンちゃんのスキルはとても貴重で、国の安寧に必要なものだ。エレンちゃんが服従や奪取を持っているうちは、そのスキルを悪用されることがないんだからね」


「「‥め、めめ、娶る?!」」


 2人の会話に町娘なんかが口を挟んではいけない、と黙って静かにしていたけれど、思わず声を出してしまった。裏返ったような素っ頓狂な声は、見事にリアム様とハーモニーを奏でた。


「ほら、息もピッタリじゃないか。年齢も同じくらいだし‥エレンちゃんが王妃としてここにいてくれれば、側近たちも近くにいるし、リアムが言う“裏切り”の心配はない。
家柄同様スキルの貴重さが物言うこの世界だから、平民出のエレンちゃんが王に嫁いだっておかしいことじゃない。
国民達の噂の中でも、エレンちゃんのスキルは爵位でいえば公爵クラスだと口にしてる者も多いしね」



ーーーえっと‥‥えーっと‥‥
な、なんて?嫁ぐ?爵位?

ああ、ダメだ。頭が回らない。



「ま、待ってください。
話が突然飛び過ぎではありませんか?俺はこの国の王なんです。いくらアレク様の案だとしても、簡単に判断できる事ではない‥。
それに、俺はこの娘が好かない‥!!」


「そ、そ、そうですよ、アレクさん‥!
わわ、訳がわかりません‥‥!!」


 リアム様にサラッと嫌いだと言われたことよりも、よりによって心がときめいたアレクさんから結婚を勧められたことに傷付いた。

 もちろん分かってる。心をときめかせてしまうことすら失礼に当たるだろう。私みたいな庶民が、惚れていい相手ではない。

 脳みそが心に激しく叱咤をしている。図々しいにも程があるぞ!と。


「でもそれが一番いいと思うんだけどなぁ。
まぁ結婚は今のところ置いておくとしても‥
敢えてここに居てもらうべきだ。何より王宮は他の場所よりは安全だし、側近たちもいるし」


「‥‥まぁここにいる分には、裏切りの心配はしなくてもいいでしょうが。
街で1人で暮らしていては、エレンに取り入ろうとする輩がわんさか現れるだろうし‥」


「わ、わたっ、私、王宮に住むんですか‥?!」


「うん。俺も普段は王宮に篭ってるから安心して、エレンちゃん。
ここに住んでいれば、2人の心も通い合うかもしれないしね」



‥‥ああ、いよいよ困った。
王宮に住むことは嫌だけど、王宮にいないと『裏切り』の懸念をされてしまう。
 正直これ以上アレクさんの近くに居たら、また心が身分違いに疼いてしまいそうだけど、どうやら私のスキルは1人で静かに暮らすことを許してくれないらしい。


「おい、エレン。お前はそれでいいか?
ここに住み、アレク様の願いを叶えるべく観光施設を作って、消去のスキル保持者を探し出す。
それに同意はできるか?」


 正直、気持ちはまったく追いついていない。だけど、大恩人であるアレクさんに恩返しができるのであれば協力はしたい。

 決して死ぬことができない不死のスキル。
悠久の時の中で寂しさに苦しみ続けてきたアレクさんを救うことができるのであれば‥


「お、お役に立てるのならば何でもやります。アレクさんは命の恩人ですから」


 命の恩人であるアレクさんの命を終わらせる為に協力する。なんとも不思議な話だ。


「‥よし、決まったな。
ほぼ強制かもしれないが、互いが同じ方向を向くことは大切だからな。

ーーだが、これだけは言っておく!!!」


リアム様がテーブルにガンッと拳を叩きつけた。


「は、はい‥なんでしょうか」


「俺はおまえを絶対娶ったりしないからな!!!
変な期待するんじゃないぞ?!」


 クワッと目を見開いたリアム様。やはりそのお顔は、息を飲むほどに美しく整っている。


「あ、はい。それは全然大丈夫です」


 いくら勝手に立場を持ち上げられようと、私は正真正銘の町娘。王宮に住もうが、近くで過ごそうが、そんな勘違いは絶対にしない。
 弱った心を包み込んでくれたアレクさんに心がときめいているけど、これももちろん自分の心の中だけに静かに閉じ込めておくものだ。


 私が冷静にそう返事をすると、リアム様は虚を突かれたような表情を浮かべていた。

 何でそんなに驚いているんだろう‥。

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