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第2章ーー起点ーー

第13話

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 カタカタカタとテーブルが揺れ続けている。王宮に相応しいゴージャスなテーブルが、小さく小刻みに。


「どうしたんだリアム」


 アレクさんが呼び掛けるとリアム様の苛立ちを隠しきれていない貧乏揺すりがピタッと止まった。

 眼光鋭く、目ヂカラばっちりのその大きな瞳がアレクさんを捕らえた。


「‥‥対等な訳ないじゃないですか!」


 ああ、どうやらリアム様の耳にも同じ言葉が届いていたんだ。やっぱり、さっきのアレクさんの言葉は聞き間違いではなかったらしい。


「確かにエレンの行動は、西方に正義を齎しました。お陰で俺がずっと訴えていた人事交流も行われることになり、この国はもっと公平になる。その功績は認めましょう」


 西方‥というのは、私がいた田舎領地の地方のことだ。

 人事交流とは‥?

 私がきょとん顔をしていることに、アレクさんは気付いてくれたようで丁寧に説明をしてくれた。


「この国では家柄と同じように、重要なスキルを持つ者の力がとても強いんだ。真偽官なんかはまさにそれさ。

リアムはずっと、真偽官やそういった重要役職のスキル持ちを、その地域に定住させずに各地方定期的に巡らせるべきだと言っていたんだよ。西方から東方、東方から南方って感じでね」


 成る程‥。各地を回れば、各地の探知スキルを持つ者の目にも止まる。そうすれば、バンやトゥルクが、根深く繋がり不正を行っていたようなことがなくなるんだ。


「エレンのスキルがかなり重要なのは分かります。奪取や服従は、悪に渡ってはいけない貴重スキルですし‥建設も探知も、国を発展させる為に必要です。
ですが、アレク様と対等と呼べる者では決してないはずです!!」

「リアム、そうじゃないでしょ。
気付いてるでしょ?なんで俺がエレンちゃんがパートナーと言ったのか」


 アレクさんが、ティーカップに口を付ける。その口ぶりは、まるで駄々を捏ねる幼子をたしなめる保護者と言った感じだ。


「‥‥エレンに、不死のスキルをお与えになるおつもりですか?
不死・奪取・服従が揃ったら、それは国にとって脅威の存在でしかありません!服従を持っている時点で本来ならここに招くのも恐ろしいくらいですよ」



ーーー不死のスキル?私が?アレクさんのスキルを奪うということ?


 サーっと顔が青くなって、指先が震え始めたのがわかった。私が『欲しくない』と言った不死のスキル。アレクさんもそのスキルから解放されたいのだとしたら‥
 アレクさんや、リアム様に命令されたら、私はそれを受け入れるしかないのだろうか。


「あはは、エレンちゃん。大丈夫だよ」


アレクさんが私の背中に手を置いた。


「この通り、エレンちゃんは不死のスキルを恐れている。最初にエレンちゃんが奪取の持ち主だと分かった時には、奪ってもらおうかとも思ったけどね。
力や欲の為に不死のスキルを欲しがる人は多くいるけど、彼女は不死の“恐さ”を分かってるんだ。
だからエレンちゃんに無理にこのスキルを押し付けることはしないよ」


 背中に伝わるアレクさんの手の温もり。どうしてこの人は、こんなにも人を温かく包み込むことができるんだろう。


「‥‥探知ですか」


 リアム様がそう言うと、アレクさんは静かに頷いた。


「そう。エレンちゃんの探知のスキルで、『消去』のスキル保有者を探してもらうんだ」



ーーー消去
アレクさんの不死のスキルを消すということ‥?



「でも探知なら別にエレンじゃなくても!
探知くらいの中級であれば、他にもいますよ」


「‥いや、エレンちゃんじゃなきゃダメなんだ」


 まったくもって、それが口説き文句などではないことは百も承知だ。だけど今までの人生で、父以外の人からそんな風に特別扱いを受けたことなんてない。

 私の心はアホなのだろう。脳では分かっているはずなのに、心は疼いてしまっていた。

 簡単に言えば、ときめいてしまったのだ。


「エレンちゃんには、大きな宿屋を作ってもらおうと思って。彼女の宿は掃除や気配りが行き届いていて素敵だったよ」



ーーーん?



「や‥どや?」


 驚くリアム様の声が響いた。私の声を代弁してくれているようだ。


「ああ。建設のスキルでね。ただの宿屋じゃないよ。
まるで楽園のような大きな施設にして、観光客を多く集めるんだ。
探しに行く為に旅に出るのは、魔物もいるから少々危ないからね。逆に、たくさんの人に来てもらうのさ」


な、なるほど‥
いや、納得していいのか?!


「なるほど。大きな観光施設にするのであれば、職のない国民も職にあり付けて貧困からも脱し、この国の経済も潤いますね」


 リアム様がウンウン、と頷き始めた。どうやら私だけが置いてけぼりのようだ。


「しかし‥」

「なんだい?リアム」

「俺はまだエレンを信じきれません。
アレク様の側にいて欲しくない」


 腕を組んで私を睨むリアム様の瞳は、氷のように冷たくて、それでいて宝石のように美しかった。


「エレンちゃんの心はとても綺麗だよ。
大切な父を殺した兄弟に復讐するか尋ねたけど、首を縦には振らなかったし‥
真偽官に不正な判決を受けた時も、服従のスキルを使って抗うこともなかった。
それに何より‥不死のスキルを欲しがることなく、恐がった。信頼するにはもう十分だと思うけど」


ーーーキュルンッ。



‥‥私の心はやっぱりアホだ。いや、おたんこなすだ。

心が不思議な音を立てて盛大にときめいたのには、とりあえず今は気付かなかったことにしておこう。




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