9 / 53
第1章ーー始まりーー
第9話
しおりを挟むああ、馬鹿馬鹿しい。嘘ばっかりじゃないか。
なにが真偽官?そんなオッカナイ顔してさ。真実が命!みたいな風に吠えといてさ。
私と父と宿屋は、頑張っても頑張っても万年貧乏でいつも見窄らしかった。今もそう、お得意の継ぎ接ぎだらけの一張羅。
だけど、3兄弟は気が向いた時だけスキルを活かしてサラッと働いて、どうやらかなりのお金を稼いでいた。その証拠に、後妻とプラムはこれでもかというくらい金品を身に付けている。
お金で買ったのかな?この真偽官を。
ああ、もう泣きたくなんてないよ。こんな奴らの為に泣くなんて、馬鹿みたいだよ。もう既に一生分泣いたというのに。
「この殺人鬼を連れて行け!!」
真偽官トゥルクがそう叫ぶと、衛兵は私の腕を強く引っ張った。体がグワングワンと揺れる。腕が引きちぎれそうだ。
パインとバンに目をやると、「ザマアミロ」と唇を動かして顔のパーツがどう動いているのか分からないくらい愉快そうに笑っていた。
両腕を引きづられるようにして私の足が浮いた時、聞き慣れた声が響いた。
「はーい、ちょっと待ってねー」
どうやら先程視界に入っていたマントを被った人物はアレクさんだったようだ。
「アレクさん‥」
突如大きな声を出して、その場に乱入してきたアレクさんに対し、衛兵たちがワッと駆け寄った時だった。アレクさんがマントを取って、その端正な顔立ちを辺りに見せつけた。
「と、取り押さえろ!」
トゥルクが大声をあげると、衛兵達がアレクさんの体を取り押さえる。それでもアレクさんは爽やかに笑いながら、耳を疑うことを言った。
「俺、初代王だよ」
アレクさんが一言そう言った途端、アレクさんを取り囲んでいた衛兵達が慄いて飛ぶようにアレクさんから離れ、この重厚な作りの建物の中にいるほとんどの人物が、裏返るような奇妙な声をあげた。私やプラムのような、事態を把握できていない者たちのみがただこの不思議な状態をポカンと見ている。
「そ、そ、そんなわけあるかぁ!!
初代王がこんなところにいるわけないだろ!!」
初代王って、この国の建国者?
なんか凄い古い昔話で、王様は長生きだとか聞いたことある気がするけど、それはもう伝説上の話のようなもので、今は確か私くらいの若い王様がこの国を治めているはず‥?
アレクさんは胸元からギラギラと光り輝く濃紺の石のようなものを取り出した。それは、メダルのような、ペンダントのような、天然石のようなもので、こうして離れて見るには判断がつかない。
だが、お偉いさん方であればあるほど、その石を見て更に腰を砕けさせていた。よっぽど凄いものらしい。
「王家の印だよ。
信じてくれました?真偽官さん」
もう完全に衛兵達から解放されたアレクさんは、涼やかな笑顔を浮かべながらも、その漆黒の双眼は鋭くトゥルクを貫いていた。
「ま、まさか、そんな」
トゥルクは顔を一気に青くして、あからさまに震え始めた。そりゃあそうだ。踏ん反り返って、真偽官だと吼えて、平気で嘘をついているんだから。
「エレンちゃん、ごめんね。
君を助ける為に来たものの、これは不正を暴けるなぁと思ってさ」
アレクさんが私を助ける為に来たと聞いた途端、私の腕をグイグイと引っ張っていた衛兵達も、その力をぐっと緩めてくれた。
「い、いえ‥」
アレクさんが雲の上を突き抜けて凄まじく偉い人だということは分かったものの、アレクさんが私に向ける表情は変わらず優しいものだった。
「信じてもらえないのなら、ここで俺を殺してもいいよ‥すぐに蘇るからね。それが一番の証明になるかな?」
もうアレクさんを疑う人なんて、その場にはいなかった。アレクさんは私の元へ歩み寄ると、私の手を取り歩き出した。
私を捕らえていた衛兵は両手をパッと上げ、「もうドウゾご自由に~」という状態だ。
アレクさんに手を引かれた私は、バンの目の前にいた。
「ア、アレクさん?何を‥?」
バンはまさか、という表情を浮かべて噛み付くように叫び出した。
「や、やめろよ!!奪うなよ!!おいっ!!!」
私より先に状況を察したバンが、これでもかというほどに暴れ出した。衛兵が負けじとバンを強く押さえ込む。
「衛兵さん達、しっかり押さえててね。
ほら、エレンちゃん。奪っちゃって。」
アレクさんがサラッと爽やかにそう言った。私はコクリと頷いて、父のスキルを奪った時のようにバンの額に唇を付けた。
ーー奪いたい。欲しい。
ヒョンっと体に何かが入り込むのと同時、バンは両脇を支えられながら力無く首を垂れた。
「終わった‥」
今までの威勢は何処へやら、まるで消え入りそうな声だ。
「はい、エレンちゃん。
あの真偽官見てみて」
「や、やめっ!やめろぉ!!!」
大声を出す真偽官に構わず、私はその瞳に逃げ隠れようとする真偽官を映した。
ああ‥
「あの人、スキル無いです‥」
ーーーーこうして、1つの大きな事件が終わるのと同時‥私の環境はまるで天変地異のようにひっくり返ったのだ。
0
お気に入りに追加
809
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる