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第1章ーー始まりーー

第9話

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 ああ、馬鹿馬鹿しい。嘘ばっかりじゃないか。
なにが真偽官?そんなオッカナイ顔してさ。真実が命!みたいな風に吠えといてさ。

 私と父と宿屋は、頑張っても頑張っても万年貧乏でいつも見窄らしかった。今もそう、お得意の継ぎ接ぎだらけの一張羅。
 だけど、3兄弟は気が向いた時だけスキルを活かしてサラッと働いて、どうやらかなりのお金を稼いでいた。その証拠に、後妻とプラムはこれでもかというくらい金品を身に付けている。


お金で買ったのかな?この真偽官を。


 ああ、もう泣きたくなんてないよ。こんな奴らの為に泣くなんて、馬鹿みたいだよ。もう既に一生分泣いたというのに。



「この殺人鬼を連れて行け!!」


 真偽官トゥルクがそう叫ぶと、衛兵は私の腕を強く引っ張った。体がグワングワンと揺れる。腕が引きちぎれそうだ。


 パインとバンに目をやると、「ザマアミロ」と唇を動かして顔のパーツがどう動いているのか分からないくらい愉快そうに笑っていた。


 両腕を引きづられるようにして私の足が浮いた時、聞き慣れた声が響いた。



「はーい、ちょっと待ってねー」


 どうやら先程視界に入っていたマントを被った人物はアレクさんだったようだ。


「アレクさん‥」


 突如大きな声を出して、その場に乱入してきたアレクさんに対し、衛兵たちがワッと駆け寄った時だった。アレクさんがマントを取って、その端正な顔立ちを辺りに見せつけた。


「と、取り押さえろ!」


 トゥルクが大声をあげると、衛兵達がアレクさんの体を取り押さえる。それでもアレクさんは爽やかに笑いながら、耳を疑うことを言った。


「俺、初代王だよ」


 アレクさんが一言そう言った途端、アレクさんを取り囲んでいた衛兵達が慄いて飛ぶようにアレクさんから離れ、この重厚な作りの建物の中にいるほとんどの人物が、裏返るような奇妙な声をあげた。私やプラムのような、事態を把握できていない者たちのみがただこの不思議な状態をポカンと見ている。


「そ、そ、そんなわけあるかぁ!!
初代王がこんなところにいるわけないだろ!!」


 初代王って、この国の建国者?
なんか凄い古い昔話で、王様は長生きだとか聞いたことある気がするけど、それはもう伝説上の話のようなもので、今は確か私くらいの若い王様がこの国を治めているはず‥?


 アレクさんは胸元からギラギラと光り輝く濃紺の石のようなものを取り出した。それは、メダルのような、ペンダントのような、天然石のようなもので、こうして離れて見るには判断がつかない。
 だが、お偉いさん方であればあるほど、その石を見て更に腰を砕けさせていた。よっぽど凄いものらしい。


「王家の印だよ。
信じてくれました?真偽官さん」


 もう完全に衛兵達から解放されたアレクさんは、涼やかな笑顔を浮かべながらも、その漆黒の双眼は鋭くトゥルクを貫いていた。


「ま、まさか、そんな」


 トゥルクは顔を一気に青くして、あからさまに震え始めた。そりゃあそうだ。踏ん反り返って、真偽官だと吼えて、平気で嘘をついているんだから。


「エレンちゃん、ごめんね。
君を助ける為に来たものの、これは不正を暴けるなぁと思ってさ」


 アレクさんが私を助ける為に来たと聞いた途端、私の腕をグイグイと引っ張っていた衛兵達も、その力をぐっと緩めてくれた。


「い、いえ‥」


 アレクさんが雲の上を突き抜けて凄まじく偉い人だということは分かったものの、アレクさんが私に向ける表情は変わらず優しいものだった。


「信じてもらえないのなら、ここで俺を殺してもいいよ‥すぐに蘇るからね。それが一番の証明になるかな?」


 もうアレクさんを疑う人なんて、その場にはいなかった。アレクさんは私の元へ歩み寄ると、私の手を取り歩き出した。
 私を捕らえていた衛兵は両手をパッと上げ、「もうドウゾご自由に~」という状態だ。

 アレクさんに手を引かれた私は、バンの目の前にいた。


「ア、アレクさん?何を‥?」


 バンはまさか、という表情を浮かべて噛み付くように叫び出した。


「や、やめろよ!!奪うなよ!!おいっ!!!」


 私より先に状況を察したバンが、これでもかというほどに暴れ出した。衛兵が負けじとバンを強く押さえ込む。


「衛兵さん達、しっかり押さえててね。
ほら、エレンちゃん。奪っちゃって。」


 アレクさんがサラッと爽やかにそう言った。私はコクリと頷いて、父のスキルを奪った時のようにバンの額に唇を付けた。

ーー奪いたい。欲しい。


 ヒョンっと体に何かが入り込むのと同時、バンは両脇を支えられながら力無く首を垂れた。


「終わった‥」


 今までの威勢は何処へやら、まるで消え入りそうな声だ。


「はい、エレンちゃん。
あの真偽官見てみて」


「や、やめっ!やめろぉ!!!」


大声を出す真偽官に構わず、私はその瞳に逃げ隠れようとする真偽官を映した。



ああ‥


「あの人、スキル無いです‥」





ーーーーこうして、1つの大きな事件が終わるのと同時‥私の環境はまるで天変地異のようにひっくり返ったのだ。



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