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リクとネネ。
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一日の始まりに窓から差し込む眩い日差し、トーストの焼ける香ばしい匂い、小難しいテレビのニュースの音、乙宮家のいつも通りの平日の朝。
弟のリクを起こすのは、いつもわたしの役割だった。掛け布団を蹴飛ばして豪快に眠る弟の枕元を、わたしは小さく叩く。
「リクー、起きて」
「んん……」
「朝だってば、早く」
しばらく優しく声をかけるが、それでも起きない様子に一息吐けば、わたしは今度は容赦なく弟の上に飛び乗る。優しくしている内に起きないリクが悪い。
思い切り腹部を圧迫され、潰れたヒキガエルのような声を上げて、リクはようやく目を覚ました。
「ぐえ!? んん……なんだ、ねーちゃんか。おはよう」
「おはようお寝坊さん、早く起きないと遅刻するわよ」
「もう朝かぁ……」
寝惚け眼を擦るリクは、わたしに全体重をかけて乗っかられても怒ったりはしなかった。
五つも年下なのに、わたしよりも背も体格も大きい。前までそんなに変わらなかった気もするのに、男の子というのは成長が早いものだとしみじみ実感する。
彼はいつものように微笑んで、わたし達は一緒にリビングに向かう。食卓テーブルに乗せられたお母さんの用意してくれたトーストは、すっかり冷めてしまっているようだった。湯気混じりの香りが美味しそうで好きなのに、少しもったいない。
「おはよう、お母さん」
「おはよう……あら、リクは今日もネネに起こしてもらったの?」
「うん、乗っかられた……」
「リクったら、全然起きなかったのよ」
「あらあら。ふふ、早くご飯食べちゃいなさい」
専業主婦のお母さんは、キッチンでお父さん用のお弁当を作りながら、毎朝の攻防の結果を聞いて楽しそうに笑う。
お母さんに促されて、もそもそと固くなったトーストを頬張るリクを眺めながら、わたしもようやく身支度を始めた。
顔を洗って、鏡で身嗜みをチェックして、窓の外のお天気を確認。
うん、本日も晴天なり。
*******
「いってきまーす」
「いってらっしゃい、気を付けるのよ」
「はぁい」
お母さんの見送りを背に、わたしとリクは一緒に家を出る。
リクの通う小学校は、うちから徒歩十分程の近所にある。それでも好奇心旺盛なリクが寄り道しないようお目付け役を兼ねて、短い通学路もいつも一緒に歩いた。
「おやまあ。リクちゃん、ネネちゃん、今日も一緒? 仲良しねえ」
「うん、梅原のおばちゃん、いってきまーす」
「いってきます」
わたし達は近所でも評判の仲良し姉弟だ。毎朝ガーデニングをしながら微笑ましそうに声を掛けてくれる梅原のおばさんや、学校が近付くと会うことの多いリクのクラスメイト達。
その誰もがわたしにも笑顔を向けてくれる。リクは良い子だから、良い人達に囲まれているようだ。そのことが姉として、とても誇らしい。
「わー、ネネちゃんおはよう!」
「おはよう、コトハちゃん」
「ネネちゃん、相変わらず色白で綺麗……」
「コトハちゃんも可愛いわよ」
「おいコトハ、俺に挨拶はないのかよ!」
「あれ、リク居たの?」
「俺のがでかいだろ!?」
今日も途中から合流したのは、リクのクラスメイトのコトハちゃんだ。二つ結びの髪の毛を揺らして悪戯に微笑む可愛い子。幼稚園の頃から、リクの好きな女の子。軽口の叩き合いも、リクはなんだか幸せそう。
狭い道でそんな二人が並んで歩けるよう、わたしは気を利かせて、少しだけ歩みを緩める。
「……あれ、ねーちゃん、どうしたの? 今日歩くの遅くない?」
「え……?」
「大丈夫? 怪我とかじゃない? だっこする?」
「ふふっ、大丈夫よ」
不意に向けられた心配そうなリクの表情に、わたしはつい嬉しくなってしまう。リクは優しい子だ。こんな時、隣に居る好きな子よりも、わたしを気に掛けてくれる。
「ネネちゃん、毎日リクのお世話して疲れちゃったのかも」
「俺のせいかよ いやでも、今朝も起こされたしな……」
「ちょっと歩き疲れただけだから、心配しないで。……、わたしも歳かしら」
日々すくすくと成長するリクの歩幅に合わせて歩くと、たった十分の道程ですら、わたしは少し疲れてしまうようになって来た。
そんな自分の身体の小ささや体力のなさに呆れつつも、今日も無事、小学校の校門まで辿り着く。
「それじゃあ、ねーちゃん、いってきます!」
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい。二人とも、頑張ってね」
「ねーちゃん、気を付けて帰ってね!」
大きく手を振って、二人はわたしを何度も振り返りながら校舎へと向かった。リクのランドセルに揺れる、僅かに黒ずんでしまった白猫のストラップが見えなくなって、わたしは少し休んでからひとり帰路につく。
途中ちらりと振り向けば、二階の教室から窓の外を見るリク達と目が合った。
しかし彼が手を振るそばから、同じクラスの他の子たちも同じように窓からわたしを見下ろすものだから、何だか恥ずかしくなってその場を後にする。
「……さて、帰ろっと」
わたしはお母さんの待つ家へと、来たばかりの道をのんびり戻った。
*******
リクと居る時よりゆっくりと、休み休み歩いては、途中出会った野良猫に変な目で見られたりしたけれど気にしない。
あと少し。帰ったら、お水を飲もう。今日はいつもより暑くて、少しくらくらする。
「だめだなぁ……体力、本当に落ちてきた……」
家の近くまで来た頃、あれからガーデニングを続けていた梅原のおばさんが帰ってきたわたしの様子に気付き、心配そうに庭から出て来た。
「あらやだ、ネネちゃん、大丈夫!?」
「大丈夫です」
「もう帰る所よね、おばちゃん、連れてってあげる」
「えっ、いや、本当に大丈夫……」
遠慮は届かずそのままおばさんにひょいと抱き上げられて、抵抗する間もなくわたしはすぐ近くの家に辿り着く。
あちこち梅原のおばさんについていた土で汚れてしまったけれど、親切にして貰ったのだから諦めよう。おばさんが我が家のインターホンを鳴らすと、お母さんがすぐに出てきた。
「はぁい……あら梅原さん、おはようございま……、ネネ!? どうしたの!?」
「ああ、乙宮さん、朝早くごめんなさいねえ。ネネちゃん、よたよたしてたから連れてきちゃったのよ」
「まあ……ご親切に、ありがとうございます」
わたしはおばさんの腕の中から、お母さんの腕に引き渡される。土がお母さんのエプロンに付いてしまったが、不可抗力だ。
「リクちゃんと居る時は、しっかり歩いてたんだけどねえ……」
「そうですか……。お姉ちゃんの意地かしら……」
「ああ、なるほど。お姉ちゃんのネネちゃんだから『ねーちゃん』なのねえ」
「ふふ、そうなんですよ。ネネはリクが生まれた時から、ずっと一緒なんです」
「本当に仲良しだものねえ。ふふ、うちの翔にもきょうだいみたいに仲良くしてくれてる幼馴染みの子が居てね……」
人間の女の人と言うのは、やはり立ち話が長い。少し休んで体力も回復したわたしは退屈になって、お母さんの腕の中で小さく声を上げる。
すると二人はようやく話を切り上げて、お互い頭を下げて家に戻っていった。
「それじゃあネネちゃん、お大事にねえ」
「ええ……ありがとう、おばさん」
*******
もうすっかり日が高い。片道十分の散歩のはずが、随分掛かってしまった。暑さを感じたのも当然だ。
お母さんに手足や身体に付いた土汚れを丁寧に拭いて貰って、お気に入りの日当たりの良い場所で寝転べば、ようやく人心地が付いた。
「ネネももう歳なんだから、あんまり無理しちゃダメよ……?」
「はぁい」
短い返事をしたわたしを心配そうに一瞥してから、お母さんは家事に戻る。
わたしは窓際の定位置で日向ぼっこをしながら、一昨年の春にリクの入学式で撮ったという家族写真を見上げた。
ぴしっとしたスーツのお父さんと、普段より綺麗にお化粧をしたお母さん、今よりも身体が小さい可愛いリク。
そして、一緒に行くことが出来なかったわたしの代わりにと真新しいランドセルにぶら下がるのは、わたしにそっくりな白猫のストラップ。
そのストラップの猫も、わたしがリクに貰った物と同じように赤い首輪をつけていたものだから、彼はすっかり気に入って喜んでいたのを今でも覚えている。気に入りすぎて、今は灰色の猫になりつつあるけれど。
……わたしは後どれくらい、リクと一緒に歩けるのだろう。
もう高い塀に登るのも億劫だし、肉球も前より硬くなってきた気がする。日に日に大きくなっていくリクと、同じスピードでずっと歩き続けるのもやっとだ。
それでも、好奇心旺盛なくせに心配性な可愛い弟が立派に成長するまで、一番傍で見守り続けよう。わたしが居ないと、コトハちゃんに声をかけるのもままならないだろうから。
今朝の光景を思い出しながら、わたしは丸くなって微睡む。夢の中でも、いつだってリクと一緒だ。
だってわたしは、生まれた時から、リクのお姉ちゃんなんだから。
もうすぐリクが帰ってくるはず。リクが帰って来たら、何をしよう。
ブラッシングをして貰おうか。お膝に乗せて貰おうかな。それともブラシは使わずに、少しずつ大きくなっていくあったかい掌で優しく撫でて貰おうかな。
けれどその前に、きっとリクは楽しそうに、学校での出来事をたくさん話して聞かせてくれるのだろう。
そんな夢か現かわからない、代わり映えのない幸福な微睡みの中。
わたしは伸びた爪に触れた首輪の鈴を、ちりん、と、ひとつ鳴らした。
弟のリクを起こすのは、いつもわたしの役割だった。掛け布団を蹴飛ばして豪快に眠る弟の枕元を、わたしは小さく叩く。
「リクー、起きて」
「んん……」
「朝だってば、早く」
しばらく優しく声をかけるが、それでも起きない様子に一息吐けば、わたしは今度は容赦なく弟の上に飛び乗る。優しくしている内に起きないリクが悪い。
思い切り腹部を圧迫され、潰れたヒキガエルのような声を上げて、リクはようやく目を覚ました。
「ぐえ!? んん……なんだ、ねーちゃんか。おはよう」
「おはようお寝坊さん、早く起きないと遅刻するわよ」
「もう朝かぁ……」
寝惚け眼を擦るリクは、わたしに全体重をかけて乗っかられても怒ったりはしなかった。
五つも年下なのに、わたしよりも背も体格も大きい。前までそんなに変わらなかった気もするのに、男の子というのは成長が早いものだとしみじみ実感する。
彼はいつものように微笑んで、わたし達は一緒にリビングに向かう。食卓テーブルに乗せられたお母さんの用意してくれたトーストは、すっかり冷めてしまっているようだった。湯気混じりの香りが美味しそうで好きなのに、少しもったいない。
「おはよう、お母さん」
「おはよう……あら、リクは今日もネネに起こしてもらったの?」
「うん、乗っかられた……」
「リクったら、全然起きなかったのよ」
「あらあら。ふふ、早くご飯食べちゃいなさい」
専業主婦のお母さんは、キッチンでお父さん用のお弁当を作りながら、毎朝の攻防の結果を聞いて楽しそうに笑う。
お母さんに促されて、もそもそと固くなったトーストを頬張るリクを眺めながら、わたしもようやく身支度を始めた。
顔を洗って、鏡で身嗜みをチェックして、窓の外のお天気を確認。
うん、本日も晴天なり。
*******
「いってきまーす」
「いってらっしゃい、気を付けるのよ」
「はぁい」
お母さんの見送りを背に、わたしとリクは一緒に家を出る。
リクの通う小学校は、うちから徒歩十分程の近所にある。それでも好奇心旺盛なリクが寄り道しないようお目付け役を兼ねて、短い通学路もいつも一緒に歩いた。
「おやまあ。リクちゃん、ネネちゃん、今日も一緒? 仲良しねえ」
「うん、梅原のおばちゃん、いってきまーす」
「いってきます」
わたし達は近所でも評判の仲良し姉弟だ。毎朝ガーデニングをしながら微笑ましそうに声を掛けてくれる梅原のおばさんや、学校が近付くと会うことの多いリクのクラスメイト達。
その誰もがわたしにも笑顔を向けてくれる。リクは良い子だから、良い人達に囲まれているようだ。そのことが姉として、とても誇らしい。
「わー、ネネちゃんおはよう!」
「おはよう、コトハちゃん」
「ネネちゃん、相変わらず色白で綺麗……」
「コトハちゃんも可愛いわよ」
「おいコトハ、俺に挨拶はないのかよ!」
「あれ、リク居たの?」
「俺のがでかいだろ!?」
今日も途中から合流したのは、リクのクラスメイトのコトハちゃんだ。二つ結びの髪の毛を揺らして悪戯に微笑む可愛い子。幼稚園の頃から、リクの好きな女の子。軽口の叩き合いも、リクはなんだか幸せそう。
狭い道でそんな二人が並んで歩けるよう、わたしは気を利かせて、少しだけ歩みを緩める。
「……あれ、ねーちゃん、どうしたの? 今日歩くの遅くない?」
「え……?」
「大丈夫? 怪我とかじゃない? だっこする?」
「ふふっ、大丈夫よ」
不意に向けられた心配そうなリクの表情に、わたしはつい嬉しくなってしまう。リクは優しい子だ。こんな時、隣に居る好きな子よりも、わたしを気に掛けてくれる。
「ネネちゃん、毎日リクのお世話して疲れちゃったのかも」
「俺のせいかよ いやでも、今朝も起こされたしな……」
「ちょっと歩き疲れただけだから、心配しないで。……、わたしも歳かしら」
日々すくすくと成長するリクの歩幅に合わせて歩くと、たった十分の道程ですら、わたしは少し疲れてしまうようになって来た。
そんな自分の身体の小ささや体力のなさに呆れつつも、今日も無事、小学校の校門まで辿り着く。
「それじゃあ、ねーちゃん、いってきます!」
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい。二人とも、頑張ってね」
「ねーちゃん、気を付けて帰ってね!」
大きく手を振って、二人はわたしを何度も振り返りながら校舎へと向かった。リクのランドセルに揺れる、僅かに黒ずんでしまった白猫のストラップが見えなくなって、わたしは少し休んでからひとり帰路につく。
途中ちらりと振り向けば、二階の教室から窓の外を見るリク達と目が合った。
しかし彼が手を振るそばから、同じクラスの他の子たちも同じように窓からわたしを見下ろすものだから、何だか恥ずかしくなってその場を後にする。
「……さて、帰ろっと」
わたしはお母さんの待つ家へと、来たばかりの道をのんびり戻った。
*******
リクと居る時よりゆっくりと、休み休み歩いては、途中出会った野良猫に変な目で見られたりしたけれど気にしない。
あと少し。帰ったら、お水を飲もう。今日はいつもより暑くて、少しくらくらする。
「だめだなぁ……体力、本当に落ちてきた……」
家の近くまで来た頃、あれからガーデニングを続けていた梅原のおばさんが帰ってきたわたしの様子に気付き、心配そうに庭から出て来た。
「あらやだ、ネネちゃん、大丈夫!?」
「大丈夫です」
「もう帰る所よね、おばちゃん、連れてってあげる」
「えっ、いや、本当に大丈夫……」
遠慮は届かずそのままおばさんにひょいと抱き上げられて、抵抗する間もなくわたしはすぐ近くの家に辿り着く。
あちこち梅原のおばさんについていた土で汚れてしまったけれど、親切にして貰ったのだから諦めよう。おばさんが我が家のインターホンを鳴らすと、お母さんがすぐに出てきた。
「はぁい……あら梅原さん、おはようございま……、ネネ!? どうしたの!?」
「ああ、乙宮さん、朝早くごめんなさいねえ。ネネちゃん、よたよたしてたから連れてきちゃったのよ」
「まあ……ご親切に、ありがとうございます」
わたしはおばさんの腕の中から、お母さんの腕に引き渡される。土がお母さんのエプロンに付いてしまったが、不可抗力だ。
「リクちゃんと居る時は、しっかり歩いてたんだけどねえ……」
「そうですか……。お姉ちゃんの意地かしら……」
「ああ、なるほど。お姉ちゃんのネネちゃんだから『ねーちゃん』なのねえ」
「ふふ、そうなんですよ。ネネはリクが生まれた時から、ずっと一緒なんです」
「本当に仲良しだものねえ。ふふ、うちの翔にもきょうだいみたいに仲良くしてくれてる幼馴染みの子が居てね……」
人間の女の人と言うのは、やはり立ち話が長い。少し休んで体力も回復したわたしは退屈になって、お母さんの腕の中で小さく声を上げる。
すると二人はようやく話を切り上げて、お互い頭を下げて家に戻っていった。
「それじゃあネネちゃん、お大事にねえ」
「ええ……ありがとう、おばさん」
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もうすっかり日が高い。片道十分の散歩のはずが、随分掛かってしまった。暑さを感じたのも当然だ。
お母さんに手足や身体に付いた土汚れを丁寧に拭いて貰って、お気に入りの日当たりの良い場所で寝転べば、ようやく人心地が付いた。
「ネネももう歳なんだから、あんまり無理しちゃダメよ……?」
「はぁい」
短い返事をしたわたしを心配そうに一瞥してから、お母さんは家事に戻る。
わたしは窓際の定位置で日向ぼっこをしながら、一昨年の春にリクの入学式で撮ったという家族写真を見上げた。
ぴしっとしたスーツのお父さんと、普段より綺麗にお化粧をしたお母さん、今よりも身体が小さい可愛いリク。
そして、一緒に行くことが出来なかったわたしの代わりにと真新しいランドセルにぶら下がるのは、わたしにそっくりな白猫のストラップ。
そのストラップの猫も、わたしがリクに貰った物と同じように赤い首輪をつけていたものだから、彼はすっかり気に入って喜んでいたのを今でも覚えている。気に入りすぎて、今は灰色の猫になりつつあるけれど。
……わたしは後どれくらい、リクと一緒に歩けるのだろう。
もう高い塀に登るのも億劫だし、肉球も前より硬くなってきた気がする。日に日に大きくなっていくリクと、同じスピードでずっと歩き続けるのもやっとだ。
それでも、好奇心旺盛なくせに心配性な可愛い弟が立派に成長するまで、一番傍で見守り続けよう。わたしが居ないと、コトハちゃんに声をかけるのもままならないだろうから。
今朝の光景を思い出しながら、わたしは丸くなって微睡む。夢の中でも、いつだってリクと一緒だ。
だってわたしは、生まれた時から、リクのお姉ちゃんなんだから。
もうすぐリクが帰ってくるはず。リクが帰って来たら、何をしよう。
ブラッシングをして貰おうか。お膝に乗せて貰おうかな。それともブラシは使わずに、少しずつ大きくなっていくあったかい掌で優しく撫でて貰おうかな。
けれどその前に、きっとリクは楽しそうに、学校での出来事をたくさん話して聞かせてくれるのだろう。
そんな夢か現かわからない、代わり映えのない幸福な微睡みの中。
わたしは伸びた爪に触れた首輪の鈴を、ちりん、と、ひとつ鳴らした。
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