アレキサンドライトの憂鬱。

【最終章】ダイヤモンドの消失。

⑳

(sideステラ)

「……ここは？」

　目を覚ますと、狭く汚い牢の中だった。
　地下だろうか。窓もなく、遠くのランタンの明かりが仄かに差し込むだけの、冷たく薄暗い空間。

　手っ取り早く光魔法を爆発でもさせて脱出してしまおうかと思ったけれど、地下であるのなら下手に暴れて崩れて来ても困る。
　うんうんと唸っていると、後ろから声を掛けられた。

「だ、大丈夫……？」
「え！？」

　薄暗くて気付かなかった。牢の中には、同じように拉致されて来たのであろう少女が二人、肩を寄せ合って震えていた。

「あなた達、いつからここに？」
「わからないの、あたしたち、気付いたら連れてこられてて……」
「レイはお買い物してて、知らないおじちゃんに道案内頼まれて……それで……。うう、お母さんに会いたい……」
「ああ、泣かないで。……そうよね、お母さんに会いたいわよね」

　一人はまだしっかりしていたものの、レイチェルと名乗ったこちらの少女はまだ幼い。ミアと同じくらいだろうか。
　母を求めて泣く姿に、胸が締め付けられる。私も一刻も早くミアに会いたかった。

　不意に、ポケットの中が熱を帯びる。
　不思議に思い手を差し込むと、肌身離さず持ち歩いていたミアからの初めての贈り物から、微量に魔力の気配がする。

「これは……」

　ミアが助けに来てくれる。
　何故か直感的にそう感じては、脱出作戦は早々に諦めて少女達を宥めるのに徹することにした。

「大丈夫よ、愛する家族がきっと、迎えに来てくれるわ」

　助けられるだけのお姫様は性には合わないけれど、ミアが……愛しの娘がわたしに会いに来てくれるのだ。それを待つのが親の役目だろう。
　私は幼子を初めてのお使いに出す感覚で、救助を待つことにした。


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